ZOZOマリンスタジアムがプロ野球のオールスターに沸き上がり、埼玉スタジアムで浦和レッズとドルトムントがシーソーゲームを演じた7月15日、秩父宮ラグビー場で歴史的な勝利が生まれた。スーパーラグビーに参戦しているサンウルブズが、シーズン最終戦でニュージーランドのブルーズを48−21で撃破したのだ。

 猛烈な日差しが選手たちの頭を焼き付ける12時5分キックオフの条件は、ニュージーランドからやってきたブルーズにはタフなものだったに違いない。それでも、ブルーズのジェームズ・パーソンズ主将は「暑さを含めてコンディションの影響はあったが、それを言い訳にはできない。試合に向けた姿勢が大きな要素で、我々は個々の選手のメンタルに課題があった」と振り返っている。最後まで足を止めないサンウルブズは、スーパーラグビーで3度の優勝を誇る強豪を制圧した。

これまでで最多の48得点を記録した歴史的な勝利。

 スーパーラグビーはアフリカ1、アフリカ2、オーストラリア、ニュージーランドの4つのカンファレンスで18チームが参戦しており、ブルーズは最激戦区のニュージーランドカンファレンスで最下位に沈んでいた。8チームで争われるプレーオフ進出の望みを、すでに絶たれていた。

 一方のサンウルブズも、アフリカ1カンファレンスの最下位だった。とはいえ、カンファレンスの異なるチームとの対戦も含めた最終成績は、ブルーズの7勝1分7敗に対してサンウルブズは2勝13敗となる。

 暑さというホームアドバンテージに支えられたものの、ブルーズ撃破は歴史的と言って差し支えない。7−21からスコアを引っ繰り返し、スーパーラグビー初参戦の昨年も含めてチーム最多となる1試合8トライと48得点を記録したゲームは、シーズンを締めくくるにふさわしいものだった。

サンウルブズと日本代表を両立する選手の考えは?

 日本代表ヘッドコーチ(HC)のジェイミー・ジョセフのもとで、サンウルブズは日本代表との結びつきを深めている。日本代表選手、日本代表入りの資格がある外国人選手でチームを構成し、ゲームプランにも共通性を持たせている。自国開催である2019年のワールドカップを見据えた強化の一環だ。

 他でもない選手たちは、どのようにとらえているのか。今シーズンはサンウルブズと日本代表でプレーしてきた福岡堅樹は、ためらうことなく答える。

「サンウルブズがスーパーラグビーに出ることは、日本代表にも間違いなく生きていると思います。これだけタフなゲームを重ねられるのは、こういうところに身を置かないとできないことです。つねに全力を出し切らないと勝てないような相手と戦うことは、ホントに成長につながっていると思います」

世界のラグビーを経験する場なのは間違いない。

 ティモシー・ラファエレの言葉にも淀みがない。昨秋に日本代表デビューを飾ったニュージーランド出身の25歳は、くっきりとした瞳に澄んだ色を浮かべた。

「サンウルブズの経験は、代表にすごくいい貢献をしていると思います。スーパーラグビーでプレーすることは、インターナショナルなラグビーがどんなものなのかを、経験することにつながっていると思いますので」

 サンウルブズが下したブルーズ23人のメンバーのうち、3分の1が代表経験者だった。現代表選手も、もちろんいる。ピッチ上で繰り広げられる攻防は、紛れもなく世界基準だっただろう。個々の選手が経験値を高める機会として、あるいは国際舞台で通用する人材を発掘する場所として、スーパーラグビーは確かに価値がある。

 もし足りないものがあるとすれば、チームとしての経験値を高めることだろうか。

現状認識と成功体験というふたつの経験値。

 経験にはふたつの側面がある。

 ひとつ目は現状認識である。

 世界のトップクラスと対戦することで、自分の強みや課題を知るのだ。

 ふたつ目は成功体験である。

 世界のトップクラスを相手にしたゲームで、自分たちのストロングポイントを発揮する。そのうえで、勝利をつかむ。1つの勝利が、次の勝利を生み出す。

 成功体験の積み重ねは、自信に芯を通す。勝負どころで相手に試合の流れを渡さない、渡してしまっても何とかしてしのぐ、といったたくましさにつながっていく。勝敗を度外視して経験を積むだけでは、継続的に結果を残すことはできないのだ。

サンウルブズが勝つと、代表の圧力になる。

 相対的な視点に立っても、勝利には大きな意味がある。

 日本代表との関連が深いサンウルブズが勝利を重ねていけば、スーパーラグビーにチームを送り込む南アフリカやオーストラリア、ニュージーランドやアルゼンチンの代表チームもおだやかな気持ちではいられないだろう。代表チーム同士で対戦する際に、精神的な圧力をかけることができるはずだ。

 サンウルブズは年間を通して活動するチームではない。様々な事情により、メンバーの入れ替わりも頻繁に行われる。チームとしての練度を高めるのは難しい。今シーズンはケガ人の続出にも苦しめられた。

 アウェイゲームは移動距離が長い。激しい消耗戦を強いられる。それなのにホームで戦うメリットも限定的だ。地理的な理由からシンガポールを準ホームとし、今シーズンは秩父宮ラグビー場で4試合しか開催できなかった。

 サンウルブズが結果を残すための課題は多いが、このままの体制では2018年シーズンも苦戦は避けられない。だとすれば、何かを変えていかなければならない。

トップリーグには負担になってしまうが……。

 たとえば、トップリーグの開催中にサンウルブズのショートキャンプを開催できないだろうか。サッカー日本代表で採用されることのある、代表強化策の一例だ。スーパーラグビー開幕へ向けた準備を、それによって充実させるのである。

 トレーニングが肉体的な負担となるなら、映像を使ったミーティングだけでもいい。チームコンセプトの理解を深め、チームの連帯感と当事者意識を高める機会としては有効なはずだ。

 トップリーグの各クラブには負担を強いることになってしまうが、サンウルブズの利益は日本代表の利益であり、ひいてはトップリーグの、ラグビー界全体に潤いをもたらす。サンウルブズが日本代表の強化に強く太くつながっていくためにも、新たな試みを考えていきたい。

 7月15日のブルーズ撃破は、もっと大きく取り上げられていいトピックだった。

 サンウルブズが次に勝利をつかんだときに、その価値や意味がしっかりと報道されるために──成功体験を増やすことでサンウルブズへの対外的な関心を高め、それによって選手たちがさらなる闘志を燃やすサイクルが、2019年のW杯へつながっていくはずである。

文=戸塚啓

photograph by AFLO