さぞかし、もやもやしているのではないか。今年に入ってからの武藤嘉紀をめぐる状況を見ていると、そう思うことが少なくない。

 マインツでの2シーズン目となった昨季、右膝負傷からの復帰を期したが序盤で再び負傷。ようやく復帰したのは2017年に入って最初の試合、ケルン戦だった。そこからは9試合で先発5試合、途中出場3試合、ベンチ入りしつつ出場なしが1試合。満足とはいえないかもしれないが、それでも、チームに貢献し必要な戦力とされていることは確かだった。

 だがドイツ国内での評価や、取材現場の温度とは反して、日本代表の3月シリーズに招集されず。

 当時は心底悔しい表情をしつつ、「プロに入ってから初めて(キャリア)ダウン。でもここで代表に選ばれたら自分がイヤだし。這い上がってやるという気持ちです」と強気な闘争心を見せた。

「えー、俺も旅行でもしてみようかなー」

 ふと、「代表期間中のオフの間に旅行でもしてみたら?」と提案してみた。大迫勇也がかつて代表招集されていなかった間に、欧州中を家族と旅行し「それはそれで充実していた」と笑顔で振り返っていたことを思い出したからだった。すると、武藤は少し脱力しこう答えた。

「えー、俺も旅行でもしてみようかなー」

 苦笑いではあるが、少し表情が緩んだように見えた。

 4月以降、つまり第26節以降の9試合はフル出場4試合、先発し終了間際の交代1試合、途中出場3試合、出場なしが1試合。負けはしたが強豪ライプツィヒから1得点し、合計3得点挙げている。

 それでも、日本代表6月ラウンドの招集もなし。日頃の所属クラブでの活躍こそが代表選出の条件のはずなのにと、さぞもやもやしているのではと想像してしまうのだ。

プレシーズンから、異様に厳しい練習生活。

 だが武藤は、そんな思いを抱えているのかいないのか。プレシーズンの激しい練習に身を投じていた。ゲーム形式を見ても、合間のジョッグを見ても、おそらく状態は良いのだろう。先陣を切って走り回っていた。

 練習後は、流れる汗をぬぐいながらファンへのサインや写真の対応をしつつ、「やばいっす」とまだ乱れる呼吸のまま絞り出した。日陰に移動し、わずかな涼を求めて、よりひんやりとした手すりを探し、体勢を整えながら話を始める。

「(練習は)めっちゃハードです。しかも1部練、2部練って一日置きのくりかえしで、だいぶ厳しいです。だいぶ新しい選手も入ってきて、なんていうんだろ、競争意識があるのかなと思うけど。うん。まあでもかなり良い雰囲気でできてるんじゃないかな。自分自身も体調もめっちゃいいし、コンディションもいいから」

日本からトレーナーを完全な専属契約で呼び寄せる。

 マインツでの1シーズン目の約半分、そして2シーズン目の昨季も3分の1ほどを負傷で棒に振った武藤は、自分の身体と真剣に向き合うことを強いられた。怪我をしない身体作りも当然だが、万全の時であっても怪我への恐怖も克服しなくてはならない。そのために、まずは周辺環境を整えた。

「ドイツで二人三脚でできる個人トレーナーをつけました。とにかく怪我しない体作りをしようと思って。ほんと細かいとこまでしっかりトレーニングしたい。小さいところだけど、足の裏の筋肉とかもそう。こっちは下(地面)が緩いし、芝は長いし、“靴でつかむ”感覚を得るための筋肉を鍛えたり」

 日本人選手が日本人のトレーナーを求めるというのはよくあることで、日本から旧知の人物を定期的に呼ぶというのが通常だ。とはいえ例えばドイツであれば、3カ月の観光ビザが有効な期間のみ滞在してもらうか、常駐するのであればトレーナー自身が現地で治療院を開くなどするかというのが、他の選手たちとトレーナーの付き合い方。だが、武藤の場合はちょっと違う。

「完全に日本からドイツに呼びました。昨季後半、怪我が治った頃かな。調子が上がってきた頃から始めたことです。そこから全部みつめなおして、どこのバランスが悪いとか、全部把握して」

「普通に点をとっててもハリルは……」

 つまり、武藤は本当の意味での専属トレーナーを呼び寄せたのだ。

「ほんと、それこそ自分への投資だよね、怪我ばかりしてたらサッカー人生も稼ぐに稼げない(笑)」

 納得いくまでやろうということ、なのだろうか?

「もちろん。それでダメだったら諦めがつくけど、100パーセント自分のできること、お金かけられるところにかけないで、っていうのはもうイヤかなと。やるだけやってみようって感じ。トレーナーとは2人で上を目指そうって話してる」

 そして、話題は自然と代表へとシフトする。

「試合に出続けて、点をとりつづけないと。普通に点をとっててもハリルは呼んでくれないこともあるわけだからさ。試合に出ているいないではなくて、人間には好みっていうのはあるから。それを覆さなきゃいけないよね、結果で。

 なんで呼ばないんだって叩かれるくらい。有無を言わせず? ほんとそう。じゃないと。ちょっと結果を出してても試合でてないやつが行っちゃったらさ、頑張ってる意味がなくなっちゃうから。本当に有無を言わさない。確実に代表に入るっていう立場にならなきゃ。圧倒的な結果と存在感? 間違いない」

 かなりの覚悟がにじむが、決して悲観しているわけではない。

「難しくはないと思うけどね。とにかく怪我せずに、試合に出て点を決め続けることですね!」

 もやもやしてない? などと聞く隙は全くなかった。やるべきことはシンプルで明快で、できることは全部やる。武藤の勝負はすでに始まっている。

文=了戒美子

photograph by AFLO