春以降、アイスショーが続々と行なわれている。その中にあって、少しずつ、選手たちの新しいシーズンへの動向が見えてきた。新たに使用するプログラムを披露する選手がいれば、まだ披露せずとも、ショーの前後で使用する曲を発表する選手もいた。

 他のスケーターが使用した、記憶に残る曲を使用する選手がいる。自身で使用した曲を再び使用する選手もいる。あるいは昨シーズンまでと異なるテイストの曲を選んだ選手もいるのだ。

宇野と本田が選んだのは、荒川静香も使用したあの曲。

 最初のパターンで代表的なのは、宇野昌磨と本田真凜である。2人はフリーの曲として『トゥーランドット』を選んだ。これはトリノ五輪で荒川静香が金メダルを獲得した際のフリーの曲である。年齢のため平昌五輪の出場資格を持たない紀平梨花のフリー『道』は、バンクーバー五輪で高橋大輔が銅メダルを獲得したときのフリーの曲だ。

 また、宇野のトゥーランドットは2シーズン前に自身が使用した曲でもある。羽生結弦も2014-2015、2015-2016シーズンに使用したショパンの『バラード第1番』を使用する。

 一方で田中刑事はフリーで『フェデリコ・フェリーニ・メドレー』を昨シーズンから継続する。また三原舞依のショートプログラム『リベルタンゴ』は、昨シーズンから一新すると言ってよい曲だ。選手それぞれに異なる方向性を打ち出しているわけだ。

 一見すると、初めて使用する曲の方がリスクは大きく、再使用する曲はリスクが小さいように思えるかもしれない。だが、一概にそうは言えない。国際審判員としてオリンピックにも参加した経験を持つ杉田秀男氏は、以前の取材でこう語っている。

「同じ曲を使用することには、選手が慣れているというメリットがありますが、逆に内容が上がっていると感じさせなければ、決してメリットにはなりません」

慣れている曲も改めて滑る難しさと楽しさがあるが。

 選手が慣れているのと同様、観ている方もまた、初めての曲とは違い、その演技を見慣れている。しかも、宇野のトゥーランドットは、シニア1シーズン目、2015年のグランプリファイナルのときにスタンディングオベーションで称えられたように、評価が高いプログラムだった。

 羽生結弦のバラード第1番もまた、名プログラムに数えられるだろう。2015-2016シーズンには、NHK杯で世界歴代最高得点をマークし、その直後のグランプリファイナルで更新。得点110.95は今なお、最高得点を保持している。なおさら、簡単とは言いがたい曲である。

 それでも、宇野はこうコメントしている。

「改めて滑る難しさと楽しさがあると思いますが、以前に比べて成長できたところをお見せできたら」

「勝負の年だし、4年間でいちばんいい作品をやるべき」

 新シーズンのショートプログラム使用曲を発表しお披露目の舞台となった「ファンタジー・オン・アイス」で、羽生の所属するANAで監督を務める城田憲子氏はこう語っている。

「勝負の年だし、4年間でいちばんいい作品をやるべき」

 当然、そこには羽生の意見も汲まれているはずだ。

 杉田氏は、先の言葉に続けて、このように語っていた。

「言い換えれば、よくなっていると思わせれば、評価もぐんと上がります」

 宇野、羽生ともに、ジャンプ構成は変わってくるのは間違いない。その上で、振り付けなど手を入れて、挑むはずだ。「自分を越えられる」と考え、信じて選択し、チャレンジしていくシーズンとなる。

 チャレンジは、2人だけのことではない。

 どうすれば演技を高められるか、魅力をより引き出せるか、それぞれに考えて方向性を打ち出して曲を選び、プログラム作りに取り組んでいる。

5月、氷上に復帰した宮原知子は「蝶々夫人」に。

 動向、ということで言えば、宮原知子を忘れるわけにはいかない。昨シーズンの後半を欠場した宮原は、7月2日、関西大学のたかつきアイスアリーナで行なわれたアイスショーで、約5カ月ぶりに滑りを披露した。

 4月はそのほとんどを東京・西が丘のJISS(国立スポーツ科学センター)で過ごしてリハビリに励み、5月に氷上に復帰した。

 ショートプログラムは7月3日にカナダに向けて出発し、振付師ローリー・ニコルのもとで作る。フリーは『蝶々夫人』を選んだ。フィギュアスケートではなじみの曲だ。

「『宮原知子の蝶々夫人』と言われるような演技ができたら」

 衣装のデザインを初めて自分で手がけたという。その1点にも、新しいシーズンへの気持ちが表れている。

 五輪シーズンの開幕へ向けて、選手たちは準備に余念がない。

文=松原孝臣

photograph by AFLO