プロスポーツとお金は、切り離すことができない。

 サッカーなら個々のプレーヤーの技術、体力、メンタルタフネス、個人戦術、チームとしての戦術とメンタリティなどが勝敗を決定する要素となるが、それらの背後で見え隠れするのはお金である。

 個人的な資質の高い選手を集めるのも、経験や実績のある監督を招へいするのも、相応の資金が必要だからだ。

 Jリーグ各クラブの2016年度の経営情報が、先ごろ公開された。そのなかからチーム人件費に着目し、各クラブの費用対効果をチェックしてみたい。

 2016年度の人件費トップ5は、1位が浦和レッズ、2位がヴィッセル神戸、3位がFC東京、4位が名古屋グランパス、5位が横浜F・マリノスとなっている。

 ルヴァンカップ制覇とシーズン最多勝点を記録した浦和は、人件費に見合った成果をあげたといえる。その他の4チームは、費用対効果に物足りなさを残した。神戸は第2ステージで2位に躍進したものの、年間順位では7位に止まる。FC東京は年間9位、横浜FMも10位だ。

リーグ4位の人件費で降格した名古屋は……。

 名古屋にいたっては、クラブ史上初のJ2降格である。数年前から低迷の予兆はあり、'14年はリーグで3番目に多い人件費で10位に留まり、'15年は2番目の人件費を投じながら9位に終わっていた。2010年のリーグ優勝をピークにチームが過渡期に差しかかっていったとはいえ、人件費が結果に結びついていない。若手や中堅が続々と育っているわけでもないので、投資目的だったとしても成果に疑問符がつく。

 ちなみに、'16年度の名古屋の人件費は、同年のJ2リーグで人件費下位の7チームの合計を超える。J2降格で人件費が5億円減ったとしても、'17年のJ2では間違いなくトップだ。人件費を物差しにすれば、1年でのJ1復帰は必ず果たすべきミッションと言ってもいい。

 '16年のJ1年間王者となった鹿島アントラーズ、年間勝点2位の川崎フロンターレ、同4位のガンバ大阪らは、年間順位が人件費のランキングを上回る。リーグ10位の人件費で6位となったサンフレッチェ広島も、費用対効果という視点では悪くない成績だ。

タイトルは無縁でも、甲府は評価に値する。

 年間5位に食い込んだ大宮アルディージャは、人件費がリーグ12位だった。J2に降格した'14年シーズンより、およそ3億円少ない。'16年は降格ゾーンをさまようことがなく、シーズン中の緊急補強を避けられたことで人件費が膨らまなかったこともあるが、継続性を重視したチーム作りが成果に結びついた。もっとも、J1復帰2年目の'17年は苦闘を強いられ、すでに監督交代へ踏み切っているが……。

 人件費でもうひとつ触れるべきチームは、ヴァンフォーレ甲府だろう。'14年はリーグ最少の人件費で13位、'15年はリーグで3番目に少ないなかで年間13位、'16年は再びリーグ最少の人件費で年間14位と、J1残留を果たしてきた。過去3年は7億円台に収めている。

 '14年の徳島ヴォルティス、'15年の松本山雅FC、'16年のアビスパ福岡らは、甲府よりもチーム人件費は多かったが、J2降格を避けられなかった。堅実なチーム人件費でJ1に踏みとどまっている甲府は、タイトルこそ無縁でもしっかりとした費用対効果を弾き出していると言える。

J2だったC大阪と清水の昇格は、必然だった?

 J2はどうだろう。

 '16年シーズンのセレッソ大阪と清水エスパルスのJ1昇格は、その理由を人件費からも読み取ることができる。どちらのチームもJ2では抜きん出た資金力を持ち、J1規格の選手を揃えることができていた。

 その2チームを抑えて優勝を勝ち取ったコンサドーレ札幌は、人件費では7位だった。荒野拓馬ら育成組織出身の選手が多く、キャプテンの宮澤裕樹も高卒の生え抜き選手で、即戦力の補強に寄りかかったチーム作りをしていない。このため、人件費を抑えることができているのだろう。

 リーグ戦の順位が3位だった松本山雅と同5位の京都サンガも、J1昇格プレーオフへの進出に驚きはない。京都の人件費はセレッソと清水に次ぐ3位で、松本は5位だからだ。プレーオフ準決勝で松本を破ったファジアーノ岡山も人件費は8位だ。こちらも、6位以内が進出するプレーオフの出場は現実的だった。

ポドルスキの3分の1で全体を賄う町田ゼルビアの奮闘。

 費用対効果にもっとも優れていたのは、FC町田ゼルビアである。

 チーム人件費は1億8900万円(!)で、J2リーグでもっとも少なかった。ヴィッセル神戸に加入したルーカス・ポドルスキの推定年俸は6億円だから、その3分の1ほどでチーム全体の年俸を賄っていることになる。'16年度のJ3クラブと比べても、13チームで5番目である(FC東京、ガンバ、セレッソのU−23は除く)。かくもつつましいチーム人件費で、リーグ7位に食い込んだのだから素晴らしい!

 '14年から'15年、'15年から'16年の町田のチーム人件費は、3000万円から4000万円の幅で増額されている。'17年も同様に増えているとしても、J2リーグの下位に変わりはない。24節終了時で9勝8分7敗と勝ち越している相馬直樹監督と選手たちの奮闘は、今シーズンも評価されていい。

ジュビロの名波監督、長崎の高木監督はさすが。

 町田と対照的なのがジェフ千葉だ。'16年は前年から1億円以上減っているが、9億円弱の人件費を確保している。松本山雅をわずかに上回り、リーグ4位の規模だ。リーグ戦の順位が11位では、納得できるはずはないだろう。

 '16年度の予算から'17年シーズンの戦いぶりを評価すると、J1ではジュビロ磐田の費用対効果が目を引く。10位以下の人件費でここまで7位をキープしているのは、名波浩監督のチーム作りが実を結んでいるからだろう。2017年のJ1前半戦で、もっと費用対効果に優れたチームと言っていいはずだ。

 J2では24節終了時で4位のV・ファーレン長崎が、人件費の少なさを跳ね返している。就任5年目の高木琢也監督は、毎年のように入れ替わる戦力を効果的に活用している。同節終了時で11位の水戸ホーリーホック、同12位の町田、同13位でJ2復帰1年目の大分トリニータも、限られた人件費でJ2リーグを盛り上げている。

 プロスポーツとお金は切り離すことができないが、お金があれば結果を残せるのか。お金をかけなくても勝てるのか。費用対効果からJリーグを見つめると、また違う面白さに気づくはずだ。

●2016年度のJ1各クラブの人件費

1 浦和   23億8100万円 (2)
2 神戸   20億6800万円 (7)
3 FC東京  20億2500万円 (9)
4 名古屋  19億8400万円 (16)
5 横浜FM  19億6600万円 (10)
6 鹿島   19億2900万円 (1)
7 G大阪   19億0000万円 (4)
8 柏    17億5300万円 (8)
9 川崎F   16億4300万円 (3)
10 広島   15億5300万円 (6)
11 鳥栖   14億7600万円 (11)
12 大宮   14億1100万円 (5)
13 磐田   13億7800万円 (13)
14 新潟   12億2000万円 (15)
15 仙台   11億8700万円 (12)
16 福岡    9億3700万円 (18)
17 湘南    7億9800万円 (17)
18 甲府    7億3600万円 (14)
※カッコ内の数字は年間順位

●2016年度のJ2各クラブの人件費

1 C大阪 14億9400万円 (4)
2 清水  14億7300万円 (2)
3 京都  9億6500万円 (5)
4 千葉  8億9900万円 (11)
5 松本  8億6300万円 (3)
6 徳島  7億3100万円 (9)
7 札幌  7億0300万円 (1)
8 岡山  5億6800万円 (6)
9 横浜FC 4億6400万円 (8)
10 東京V  4億3600万円 (18)
11 山形  4億2900万円 (14)
12 岐阜  4億1900万円 (20)
13 北九州 3億4300万円 (22)
14 長崎  3億2200万円 (15)
15 熊本  3億1500万円 (16)
16 愛媛  3億0600万円 (10)
17 金沢  2億9600万円 (21)
18 讃岐  2億8700万円 (19)
19 水戸  2億6200万円 (13)
20 山口  2億3100万円 (12)
21 群馬  2億2800万円 (17)
22 町田  1億8900万円 (7)
※カッコ内はリーグ戦の順位

文=戸塚啓

photograph by Yuki Suenaga