北京、ロンドン五輪金メダル王者から6年ぶりに挙げた白星。7月16日、カメイアリーナ仙台で開催されたワールドグランプリで、日本はフルセットの末にブラジルを破り、2勝1敗で仙台大会を終えた。

「2セット先取してからのフルセットですが、結果が出てよかったです」

 全日本女子の中田久美監督は穏やかな表情で語ったが、満足にはほど遠かった。試合内容を振り返るにつれ、課題が口をついた。

「ラリーが続いた時に、攻撃がレフトだけになってしまうのがきつい。ラリーの中でもミドルブロッカーや、あるいはバックアタックで切れないといけないし、そのためには1本目のコントロールがもっと必要。サイドアウト(相手にサーブ権がある時の攻撃)にしても、レセプション(サーブレシーブ)がちゃんと返っても決定率が4割を超えていないので、そこは継続して強化していきたいと思います」

サイドアウトにこだわる理由は“省エネ”から。

 中田監督はチーム始動時から、「レセプションアタックの決定率を徹底的に強化したい」と語っていた。レセプションアタック、つまりサイドアウトにこだわる理由は“省エネ”にある。

 以前、中田監督はこんな話をしていた。

「日本人が外国人選手とやる時って、ものすごく体力を消耗する。日本人同士でやる国内の試合とはまったく違う。それは(久光製薬の監督として)世界クラブ選手権を戦った時にもすごく感じました」

一番は「レセプションアタックでブロックアウト」。

 ネットから簡単に手が出る海外の大型選手と違い、小柄な日本人選手は、高さのある海外チームと対戦する時にはスパイクもブロックも常にフルジャンプしなければならないし、国内なら決まるスパイクも、高いブロックに阻まれる。だからフィジカル強化はもちろん、戦い方にも工夫がいると考える。

「だから私はサイドアウトにこだわるわけです。とにかく1本で切ろうと。そうすれば体力を消耗しにくいから。

 省エネだし、相手にとって一番嫌なことといったら、レセプションアタックでブロックアウトされること。その技術が本当にあったら、日本はどことやっても競り合いには持ち込める。あとはブレイク(自チームにサーブ権がある時の得点)を取ること。そのためにサーブをぶちこむ。

 省エネで試合を進めるには、とにかく技術を身につけなきゃいけない。サーブの技術やあらゆるプレーの確実性、ムダのない動き、スピードを追求しなきゃいけない。コンマの世界では、ちょっとのズレが大きなズレになるから。

 ただ、速いバレーを求めるとどうしても(スパイカーが)ヒットする場所が低くなるけど、そうじゃない。トスが何秒という速さじゃなくて、セッターが高い場所で離して、高いところでスパイカーに打たせる。これが一番速いバレー。それを間違えちゃダメ。そのためにも、1本目のところでちゃんと間(ま)を作ること。そうすれば周りの準備は絶対にできるので、速くもなんとも感じないはずです」

中田監督は「1本目の精度」を口酸っぱく要求する。

 指揮官はこのように熱く理想を語っていた。

 サイドアウトを1本で切って省エネの展開に持ち込むために、まず必要となるのがレセプションの正確性であり、だからこそ中田監督は「1本目の精度」を口酸っぱく要求する。

 その点で今年キーマンの1人に挙げていたのが、3年ぶりに全日本に復帰した新鍋理沙(久光製薬)だった。

引退も一度は頭をよぎった新鍋だったが……。

 新鍋はレセプションに優れ、V・プレミアリーグでは2013-2014シーズンから3年連続でサーブレシーブ賞を獲得している。

 また、スパイクを的確にコースに打ち分けるスキルも高く、ストレート側に打ってブロックアウトを奪うのが巧い。中田監督の言う「相手にとって一番嫌なこと」を体現できる選手である。

 延岡学園高校から久光製薬に入団した新鍋は、2011年に20歳で全日本デビューした。2012年ロンドン五輪では、安定したレセプションと勝負強い攻撃を買われて大会途中から先発に定着し、日本の28年ぶりのメダル獲得に貢献した。

 その後も全日本に招集され2014年世界選手権に出場したが、2015年は全日本の登録メンバーから外れ、新鍋の心も全日本から離れた。

 2015-2016シーズンのV・プレミアリーグで王座奪還を果たした時には、「もう辞めてもいいかな」と引退が頭をよぎったという。

「久美さんが監督になって、もしかしたら……」

「でも、辞めて、じゃあ何か他にできるかといったら、思い浮かばなかったし、それに、こういう言い方はあれだけど、お金をもらって、こうして好きなことをやらせてもらってるんだから、まだ終わっちゃダメなのかなというのもありました」

 引退は思いとどまったが、全日本は頭にはなかった。昨年のリオデジャネイロ五輪も、決勝の中国対セルビア戦しか見ていない。

 しかしその後、再び新鍋の中に代表への思いが沸き上がった。

「久美さんが(全日本の)監督になるとわかるまでは、全日本のことは考えてもなかったし、もういいのかなという思いだったんですけど、このタイミングで久美さんが監督になって、もしかしたら自分にもチャンスがあるかもしれないと思いましたし、一番は、久美さんともっと一緒にやりたいという気持ちがありました」

新鍋も中田監督も、お互いのことを熟知している。

 新鍋は、久光製薬で6年間共に過ごした中田監督に絶大の信頼を寄せる。

「久美さんは選手のことを一番に考えてくださって、選手同士でも気づかないようなちょっとした変化にも気づいてくださる。すごく助けてもらいましたし、バレーに対する考え方や追求のしかたも『今のままじゃいけない』と思わせてくれた。久美さんが来られたから今の自分がいる。そういう監督のもとでプレーできるのは幸せです」

 中田監督にとっても、自身のやりたいバレーを熟知している新鍋の存在は大きい。特に、1本目のレセプションやディグ(スパイクレシーブ)についての、高く上げすぎず一定の高さで返し、なおかつセッターやスパイカーが準備できる間を作るという難しい要求を、長い時間をかけて身につけてきた新鍋には、他の選手たちの見本になってほしいところだろう。

ブラジル戦では高い返球率、スパイクで持ち味発揮。

 今年最初の国際大会であるワールドグランプリ、第1週のオランダ大会では、新鍋は途中からコートに入ってレセプションを立て直す役割を果たし、第2週の仙台大会では3連戦に先発出場した。

「自分の役割はまずディフェンス。1本でも多く、セッターがトスを上げやすいパスを返せるようにしたい」と語っていたが、初戦のタイ戦では守備だけでなく、チーム最多の20得点を挙げる活躍でセットカウント3−1の勝利に貢献した。2戦目のセルビア戦ではレセプションを崩されて交代となったが、3戦目のブラジル戦で再び高い返球率を残した。

 ブラジル戦では、初先発のセッター佐藤美弥のトスがアンテナまで伸びていたことで、外側のブロックの手に当ててブロックアウトを奪うという新鍋らしいスパイクも見られた。

古賀、内瀬戸らを組み合わせることで新たな布陣も。

 この日、中田監督は新鍋をセッター対角に起用し、アウトサイドには攻撃の中心となる古賀紗理那(NEC)と、守備力のある内瀬戸真実を入れた。

 指揮官が「高さよりもディフェンスを重視した」と言う布陣でレセプションやディグを安定させ、なおかつサーブで攻めて主導権を握った。一方で、この布陣の場合、前衛のスパイカーが2枚の時の攻撃が課題だ。そこで古賀のバックアタックを活かせるかどうか。

 そうしたテーマを持ってチームは今週末、第3週香港大会に臨む。

 新チームはまだスタートしたばかり。中田新監督は今後も様々な組み合わせを試し、世界と戦える選手、戦える布陣を探っていくことになるが、経験と技術のある新鍋の帰還は、頼もしい1ピースとなった。

文=米虫紀子

photograph by AFLO