夏の甲子園で気になる記録がある。

 それは代打本塁打。長い夏の甲子園の歴史の中でも14本しか放たれていない貴重な記録だ。ただ、記録を見ると、実に半分の7本が2000年代以降に生まれている。

 試合数などに差があるとはいえ、過去約80年で7本、10年に1本程度だった代打本塁打が、わずか16年で7本。絶対数こそ少ない記録だが、ペースだけなら「激増」といってもいいだろう。

 要因はいろいろ考えられる。ボールやバットなど道具の進化。2000年代以降に顕著になっているウェイトトレーニングや食事を背景にしたフィジカル、すなわちパワーとスピードの向上。さらに根本的な打撃重視志向の強まり。どれもが複合的に結びついた事象なのだろう。

 ただもうひとつ、2000年以降の代打本塁打にはおもしろい特徴がある。実は7本中4本を記録した選手の所属チームが、ある別の記録を継続中なのだ。

 その所属チームは作新学院、明徳義塾、聖光学院。お気づきだろうか? 実はこの3校、昨夏の大会まで夏の甲子園の連続出場記録を継続中なのである。作新学院は6年連続、明徳義塾は7年連続、そして聖光学院は戦後最長記録となる10年連続出場。この符合は興味深い。

他競技と比べても甲子園の連続出場は難しい。

 ひとつ仮説を立ててみた。

 高校野球の甲子園における連続出場は、サッカーやラグビー、バスケ、駅伝といった他の主要高校スポーツの全国大会と比べると圧倒的に少ない。

 たとえばサッカーの場合、昨年度の高校選手権優勝校の青森山田は20年連続出場。歴代最多21年連続出場の国見を筆頭に過去、10年以上の連続出場を果たしている高校は14校に及ぶ。

 ラグビーも昨年度の全国高校ラグビーの場合、最多連続出場だった佐賀工の35年連続など10年以上の連続出場校は11校。優勝した東福岡も17年連続出場である。

 それに対して高校野球・夏の甲子園の記録は、前述したように戦後は聖光学院の10年連続が最高。戦前まで入れても14年連続出場の和歌山中(現・桐蔭)が最高だ。

連続出場は、2000年代に入って急増した。

 理由のひとつは、人気競技ゆえの参加、強化している学校の絶対数の多さだろう(予選の大会形式に関しては前述した競技もほぼトーナメントか一発勝負であるから条件は同じだ)。

 高校スポーツのなかでもメディア露出が多く、注目度が段違いに高い高校野球は、学校のPR、知名度向上という点で効果は大きい。それだけに私立校を中心に強化しようとする高校も多く、他競技と比べて特定の高校が勝ち続けることは難しいのだ。だが、近年は前述した聖光学院を筆頭に、高校野球の世界でも連続出場が増えている。

<夏の甲子園・連続出場ランキング(戦後)>

1位 聖光学院 10年連続(2007〜)
2位 智弁和歌山 8年連続(2005〜2012)
3位 明徳義塾  7年連続(1998〜2004)(2010〜)
4位 作新学院  6年連続(2011〜)
   青森山田      (2004〜2009)
   松商学園      (1975〜1980)

 見ての通り、戦後の連続出場記録上位6校のうち、実に5校はこの20年、主に2000年代に記録され、うち3校が現在も継続中なのだ。

 さらに7位には、現在5年連続出場中の鳴門もいる。ちなみに戦前を入れたランキングでも1位に和歌山中(現・桐蔭)が来るだけで、次点は6年連続出場。連続出場は近年、確実に増えているといって間違いではない。

強豪校の“プロ化”の現れなのか?

 これは何を意味しているか?

 ひとつ考えられるのは、高校野球における強豪校の“プロ化”である。

 プロの条件とは何かと考えた場合、1つはアベレージ。つまりどんな状況の中でも常に質の高いプレーができ、安定した結果を残すことが挙げられる。それに比べると、心身共に発展途上の高校生は、プレーやメンタルにムラがある。

 それは高校野球のドラマチックな大逆転劇、番狂わせを生む要因のひとつでもある。優勝候補筆頭と呼ばれるような高校が地方大会や甲子園の初戦であっさり敗退、という例はそれほど珍しいことではない。それが高校野球の特徴であり、逆説的に魅力にもなっている。

控えにもハイレベルな選手を揃える強豪校の選手層。

 しかし連続出場の増加は、その特徴の対極にあるものだ。連続出場は毎年のように安定して強いチームを整備し、取りこぼしなく勝ち続けることが条件。それも選手が入れ替わる中で、一発勝負のトーナメントで――。つまり連続出場記録とは非常に「プロっぽい」記録なのである。

 そこで代打本塁打である。代打本塁打を記録しているチームと、連続出場を記録しているチームのシンクロは、「プロっぽい」というキーワードで結ばれるのではないか、と思うのだ。

 近年の高校野球、強豪校において、2ケタ背番号の選手は「控え」というよりも、立派な戦力の1人であることが多い。複数投手の育成と起用はもちろん、野手も相手の先発投手、調子の善し悪しや戦略次第で2ケタ背番号の選手を先発に起用することが増えている。

 今年のセンバツを制した大阪桐蔭などが典型であろう。そんな選手層、選手起用は高校野球というよりも、むしろ「プロっぽい戦い方」に見えるのだ。

 実際、2014年の夏の甲子園で代打本塁打を放った明徳義塾の田中秀政は、明徳義塾では控えで代打の切り札だったが、進学した天理大では入部まもなくレギュラーを奪取。今年の全国大学野球選手権でも4番打者としてチームを引っ張っていた。

 守れて走れる選手を重宝する明徳義塾・馬淵史郎監督のチームづくり、戦略の影響もあるとはいえ、そんな実力を持つ選手が2ケタ背番号の控え選手だったのである。

チーム間の実力差が広がっていることも関係が?

 ちなみに連続出場の増加、イコール一部の強豪校の“プロ化”は、もうひとつ「チーム格差」という現代高校野球の特徴を反映しているようにも見える。「一部の強豪校とその他の高校の実力差が開いているように感じる」とは、ここ数年、現場の審判や関係者から聞くことが増えた言葉だ。これも連続出場の増加、強豪校の“プロ化”と無関係な話ではないだろう。

 果たして今後も連続出場記録、代打本塁打は増えていくのか。それは本当に強豪校の“プロ化”を象徴するのか?

 そんな視点で今夏の甲子園を観戦してみるのもおもしろい。

文=田澤健一郎

photograph by Hideki Sugiyama