ロードレース世界選手権の最高峰クラスのMotoGPクラスは、昨年、シーズン最多記録となる9人のウィナーが誕生した。

 今年もシーズン前半戦の9戦を終えて5人のウィナーが誕生している。その5人のポイント差が26点。上位4人に至っては、わずか10ポイント差という大接戦。

 こうして2年連続の大混戦に「今年もMotoGPは面白い」と感じているレースファンは多いようだ。

 大接戦になっている最大の理由は、昨年からMotoGPクラスにタイヤを供給しているミシュラン・タイヤのパフォーマンスにある。1レースに支給されるタイヤは、前後ともにソフト、ミディアム、ハードの3種類。路面温度に対して敏感で、ベストなパフォーマンスを発揮する温度レンジが狭いと言われるミシュランだが、それは1社供給時代になっても変わっていないようだ。

今季前半を振り返ってみると……。

 どのタイヤを選択するかで勝敗が決まる。

 フリー走行、予選でしっかりセットアップを済ませ、決勝でライバルたちと同じタイヤを選択していたとしても、ちょっとしたコンディションの変化でまったくパフォーマンスを発揮できないことも多い。

 つまり、決勝レースは「走ってみないとどうなるかわからない」というレースが続いているのだ。

 そこで、これまでの9戦を振り返ってみたい。

 ディフェンディングチャンピオンで総合首位のマルク・マルケスは、2勝を含む5回の表彰台で129点。

 総合2位のマーベリック・ビニャーレスは、3勝を含む4回の表彰台で124点。

 総合3位のアンドレア・ドビツィオーゾは、2勝を含む3回の表彰台で123点。

 総合4位のバレンティーノ・ロッシは1勝を含む4回の表彰台で119点。

 総合5位のダニ・ペドロサは1勝を含む5回の表彰台で103点。

 ノーポイントのレースは、マルケスとビニャーレス、そしてペドロサがそれぞれ2回。ドビツィオーゾとロッシが1回ずつとなっている。

史上最低ポイントでの年間王者が誕生か?

 シーズン18戦が定着してから、シリーズチャンピオン獲得のひとつの目安として、どんなに悪くても300点以上という数字がある。

 大混戦となった昨年は、チャンピオンになったマルケスの獲得ポイントは298点。この数字は、過去10年を振り返っても相当に低い数字だが、今年はシーズンの半分となる9戦を終えて129点。このままの乱戦が続けば、近年では見たことがない低いポイントでのチャンピオン誕生となりそうだ。

 その特徴のひとつが、ランキング上位につけるライバル同士の直接対決がほとんどないこと。

 ポイント上では大接戦、大混戦となっているが、コース上でのバトルはほとんどないのである。

 そのときどきのレースで、タイヤのパフォーマンスをうまく発揮できた選手が優勝し、表彰台に立っているという、不安定なレースが続いているからだ。

レースが混沌とし過ぎて、逆に仲良くなったライダー達。

 今年の大会前日のプレスカンファレンスは、どこか和気藹々としている。

 シーズン前半戦の締めくくりとなる第9戦ドイツGPの恒例の会見でも、終始、和やかな空気が流れた。'15年まで続いたブリヂストン1社供給時代のように、タイトルを争うライバルがはっきりと見えてこないことが、この「和気藹々」の原因だ。

 今回はだれが相手になるのか――ましてや、自分が優勝争いに加われるのかどうかということも皆目見当がつかないし、ライダーたちも異口同音に「今回はどうなるんだろう。やってみないとわからない」とコメントすることになり、その結果、自然とリラックスした会見になってしまうのだ。

MotoGPから7年間も離れていたブランク。

 見ているファンには、まったく予想のつかないわくわくするシーズンになっているのだろうが、選手やチームにとっては、タイヤパフォーマンスの予想がつかず、マシンのセットアップに苦労するシーズンである。まさにストライクゾーンが見えない状態でレースを続けることになり、フラストレーションも大きい。

 初日のフリー走行で、すべてのコンパウンドのタイヤテストを終えてしまえば、だいたいの結果が見えてしまうことも多い。そのため、優勝争いをしてしかるべき選手たちが、「今回は5位以内」「今回は表彰台を目指す」といったかなり具体的な目標をレース前に掲げることも多くなってしまっている。

 こうして大混戦になっているのは、ミシュランタイヤのパフォーマンスにあると書いてきたが、しかし、2輪のロードレースでもっとも長い歴史と実績を誇るミシュランの技術力の高さに異論を挟むものはいない。

 高いグリップ力、高い耐摩耗性など、ブリヂストン、ダンロップとの3社によるタイヤ戦争時代は、ライバルメーカーが真似のできない高いパフォーマンスのタイヤを供給してきたのだ。それがこういう結果になっているのは、MotoGPから離れて7年間のブランクを縮めようと急ピッチで開発を進めていることにあるようだ。

新開発の「左右非対称コンパウンドタイヤ」。

 タイヤというのは、通常、リア、もしくはフロントと、順番に別々のメニューで開発していくのが常套手段だが、現在のミシュランは、前後同時に開発を進めているという。

 さらに、1社供給ということで、すべてのライダー、メーカーのリクエストに応えようと次々に課題にチャレンジしているところである。

 勿論、ライダーや、ホンダとヤマハ、そしてドゥカティやスズキといったメーカーの要望はそれぞれまったく違う。そういう意味では、MotoGPに復帰して2年目のシーズンを迎えるミシュランの仕事量は、タイヤ戦争時代よりもハイレベルなものだと言ってもいい。

 特にシーズン中盤戦に投入してきたフロントタイヤの左右非対称コンパウンドは、ミシュランとしては今季もっとも大きなチャレンジとなっていたが、転倒者が続出するなど、ライダーたちから不評を買うことになっていた。

ミシュランが演出した!? 戦国時代のMotoGP。

 こうして、2017年シーズン前半は、見ているファンにとっては、予測のつかない楽しいシーズン。が、ライダーたちにとっては、フラストレーションをためるシーズンとなっている。

 同じライダーが優勝争いをしていて、いつも表彰台に同じ顔が並ぶという戦いが続いていたブリヂストン時代。

 対してミシュラン時代は、ルーキーのヨハン・ザルコやヨーナス・フォルガー、中堅のダニーロ・ペトルッチなどが表彰台に立つなど、予測不可能な戦いも多い。しかし、あと数年すればミシュランも、ブリヂストン時代のように、トップチームとトップライダーたちが表彰台を独占する時代に到達するのかも知れない。

 そう思えば、ミシュランがMotoGPに復帰したこの1、2年は、ファンにとっても関係者にとっても、「戦国時代」として記憶に刻まれるシーズンなのかも知れない。

 シーズンは残り9戦。

 果たして、これからどんな戦いが繰り広げられるのだろうか。それもこれも――ミシュランの頑張りにかかっていると言ってもいいだろう。

文=遠藤智

photograph by Satoshi Endo