WBA世界ライト・フライ級王者の田口良一(ワタナベ)が23日、東京・大田区総合体育館で同級1位のロベルト・バレラ(コロンビア)を下して6度目の防衛に成功した。

 試合後、テレビ解説を務めたWBO世界同級王者の田中恒成(畑中)がリングに上がり、2人でそろって対戦をアピールした。

 国内史上まだ一例しかないという「統一戦」にかける両者の思いとは─―。

 2人の王者の統一戦への熱い思いが、田口の3試合ぶりのTKO勝ちを生み出したように思えた。先に統一戦を呼び掛けたのは22歳の若き2階級制覇王者、田中だった。

 田中は5月20日、名古屋市の武田テバオーシャンアリーナで世界タイトルマッチを行った。16戦全KO勝ちのパーフェクト・レコードを持つアンヘル・アコスタ(プエルトリコ)を下した直後、リング上で解説席にいた田口を呼び、「今年中に僕とやりましょう!」と呼びかけ、さらに畑中清詞会長の了解まで取り付けたのだ。

 ファンの前で既成事実を作るパフォーマンスは、思い付きでやったわけではない。田口にその気があることをよく知った上でのラブコールだった。

前戦の不調から、王座陥落もささやかれていた田口だが。

「両想い? 恥ずかしながら」

 田口が6度目の防衛を成功させたあと、記者に囲まれた田中は、そう答えて満足そうな笑みを浮かべた。

 田中の熱烈な“求愛”にリングで答えたのが田口だった。

 スイッチを繰り返し、ゲームメイクのうまいバレラとの試合は、常に前に出るタイプの田口が空転させられる、という予想もあった。前回のV5戦がドローだったこと、試合前から田中戦がクローズアップされていることも不安材料になりえた。王者が足をすくわれるのは、えてしてこういうときなのだ。

 そして、ゴングと同時に動き出した田口は決して万全には見えなかった。動きが軽快とは言えず、バレラに攻勢を許した。

5月にいい試合をした田中に負けてはいられない!

 参謀役の石原雄太トレーナーは「減量がきつかったのでは?」という問いに次のように答えた。

「試合前に両脚がつりそうになったんです。いや、違和感と言うんでしょうか。だから足は心配だった。ただ、ベストとは言えないまでも、よく動いてくれたと思います」

 田口の気迫が、わずかなコンディションの乱れを凌駕した。

 5月にいい試合をした田中に負けてはいられない。

 そもそも統一戦が実現した場合、前評判は元アマエリートで、プロで無敗のまま2階級を制した田中の優位に傾くはずだ。強さをアピールしなければならないのは田口だった。

 受けに回った時間はわずかだった。「最初からいく。8ラウンドでスタミナを使い果たしてもいいと思った」の言葉通り、初回中盤からバレラをロープに押し込み、何度もボディブローを叩き込んだ。

 バレラの粘りに失速しかけたシーンもあったが、田口は燃料切れになることはなく、そのたびにエンジンをふかし直して挑戦者に迫った。そして9回、バレラを滅多打ちにしてストップ勝ち。「いい形で勝てて、やっと(統一戦の)土俵に立てた」。試合後に本音が口をついた。

「どちらが強いか、拳を交えてはっきりさせよう」

 2人が統一戦にこだわる理由はシンプルだ。

 それは「どちらが強いか、拳を交えてはっきりさせようじゃないか」というボクサーの根源的な欲求である。

 そして多くのファンが考える「どちらが強いか、はっきり見せてくれ」、あるいは「同じ階級にチャンピオンは2人いらない」との思いにこたえることが、プロとしての役目だと自覚しているからだろう。

 1960年代に世界チャンピオンがこの世に1人ではなくなってから、統一戦の話がいつの時代もついてまわった。チャンピオンがともに日本人同士であればなおさらだ。

 1970年代の西城正三と柴田国明にはじまり、同じ階級に2人の王者がいるときは、必ず統一戦の話題が持ち上がった。

日本国内で、統一戦は長きにわたり実現しなかった。

 2013年に日本がWBA、WBC、IBF、WBOの4団体を認めてからは、同じ階級に複数の日本人王者がより誕生しやすくなり、現在のライト・フライ級はWBCの拳四朗(BMB)を入れて3人の日本人世界王者が君臨する。ミニマム級、フライ級、スーパー・バンタム級も複数の王者が存在する。

 残念ながら、国内で統一戦は長きにわたり実現しなかった。

 日本人選手同士による統一戦は、2012年の井岡一翔(井岡)と八重樫東(大橋)の一例だけ。相手が外国人王者となると、過去に一度もない。

 1984年にWBA王者だった渡辺二郎がWBC王者パヤオ・プーンタラット(タイ)に挑戦した例(渡辺はWBA王座はく奪)と、2010年にWBC王者だった長谷川穂積がWBO王者のフェルナンド・モンティエル(メキシコ)と対戦したケース(WBO王座はこの試合にかけられなかった)は事実上の統一戦だが、この2試合を含めても過去に3試合だけ、ということになる。

2人の王者に付くテレビ局が違う場合、どちらで放送?

 理由はいくつかある。

 世界戦を放映するテレビ局が違えば、どちらの局が放送するのか、というハードルがある。試合会場をどこにするのかというところでも、両者の利害がぶつかりかねない。そしてもちろん、ベルトを失うリスクは何よりも大きな障壁であろう。

 多くの場合、たとえ選手が望んでも、プロモーター側、つまりジムの会長のレベルで話がまとまらないことが多い。

 こうして選手は多くを語らずその思いをグッと飲み込み、ファンは「な〜んだ、やっぱやらないんだ」とそっぽを向いてしまうのだ。

 そうした状況を選手自身で乗り越えようとした田中の行動力と、それにこたえた田口のパフォーマンスは特筆に値する。

田口「年末にはやりたい。面白い試合になる」。

 田中の言葉は気概にあふれていた。

「試合はオレが決めるわけじゃないけど、これだけ口にしたからにはオレにも責任がありますから」

 統一戦は現状では正式に決定していない。田中が9月13日、エディオンアリーナ大阪で行われる防衛戦に勝利することが大前提で、本当の交渉はそれから先だ。とはいえ、両雄の心は既に決まっている。

 田口はリング上で「年末にはやりたい。ファンの方が見ても、面白い試合になると思う。期待してほしい」と宣言。一方の田中も「9月13日は間違いなく負けません。そこは安心してほしい」と言葉に力をこめた。

 リングの内外で奮闘した両雄の努力が報われることを願わずにいられない。ボクシングを愛するだれもがそう感じているはずだ。

文=渋谷淳

photograph by Hiroaki Yamaguchi