少し前のことになるが、昼間の静岡地方にドカンと雨が降った日に、まさかやるまい……と思っていたらその晩、その静岡の草薙球場で「フレッシュオールスターゲーム2017」が行なわれたから驚いた。

 今年は、入団4年目までの「将来のホープたち」が腕を競い、9回引き分けに終わったものの、イースタン、ウエスタン、両チームから出場した合計17人の快腕・剛腕たちの投げっぷりに目を奪われた。

 16人の若手投手が1イニングずつマウンドに上り、ただ1人2イニング投げたソフトバンク・古谷優人(北海道・江陵高、1年目)と、1イニングでも2三振を奪った楽天・藤平尚真(横浜高・1年目)が「優秀選手賞」を獲得した。

 “1イニング組”の中には、ほかにも2三振、3三振を奪った投手もいて、両チームがそれぞれ11三振ずつ、合計22三振を奪って奪三振の山を築く、「投高打低」の試合展開となった。

貧打線というよりも、投手のボールが良すぎた。

 両チームの打線が放ったヒットは4安打ずつ。

 貧打戦と酷評した人もいたが、ほんとのところ今年のフレッシュオールスターは、バットマンたちにとってはちょっと気の毒な事情もあった。

 登板した17投手が投じたボールの活きが良すぎた。さすが各チーム選り抜きの快腕・剛腕たちだ。

 まず、ボールが速かった。

 ほとんどの投手がコンスタントに145キロ前後をマークし、しかもその速球の“質”がすばらしかった。

 今はボールの回転数まで計測できる機器があるそうだが、おそらくどの投手もトップクラスの回転数を計示したはずだ。

 コントロールのほうは置いておくとして、そのスピードと速球の質にかけては、一軍で活躍している先輩たちとそんなに違わない……そんな実感だった。

1イニング限定なら150キロを投げる投手は結構いる!?

 以前、誰に聞いたか忘れてしまったのだが、プロの選手がこんなことを話していたことがある。

「プロの投手なんて、先発して5イニング、6イニング投げようと思うから、140キロ前半ぐらいですけど、1イニング限定で『さあ、行ってこい!』って送り出されたら、150キロぐらい投げる力、みんな持ってますよ」

 その話を聞いて思い出したのが、ソフトバンク・攝津正のことだった。

 社会人野球・JR東日本東北(仙台市)の8年間、ずっと主戦投手で投げ続けた攝津は、社会人では知らぬものがいないほどの“安定株”として、いつもコンスタントに好投を繰り返す投手だった。

 しかし、速球の球速帯がいつまで経っても「135キロ前後」。そこがネックになって、社会人屈指の好投手なのに、ドラフトでは毎年“候補”のままでとどまっていた。

「社会人当時は全力でストレート投げたことないんです」

 それが2008年のドラフトでソフトバンクに5位に指名されて入団し、中継ぎとして登板すると、たちまちのうちに150キロ前後に球速がアップ。終盤の1イニングを、持ち前の精緻なコントロールを伴った力のピッチングで抑え込み始めたから驚いた。

「僕、社会人当時は全力投球でストレート投げたことないんです。いつもどこかで力をセーブしながら、完投できるように、勝ち上がったら次の試合も先発・完投できるように、そんなことばかり考えながら8年間投げてましたから」

 こちらは確か、新聞談話だったように思う。

 常勝・ホークスのセットアッパーという重責を担って、順調に結果を積み上げていた頃だった。攝津のそんな“打ちあけ話”に接して、投手にはそんな世界もあるんだ……と妙に胸ときめいたのを覚えている。

スピード以上に、変化球の感動は大きかった。

 今年のフレッシュオールスターで快投を演じた若い投手たちの投げっぷりを見て、実は、私が心を動かされた理由は、スピードだけじゃない。

 登板した17人の投手の多くが、オッ! と思わず声が出てしまうような“飛び道具”を持っていた。

 飛び道具、つまり変化球である。

 むしろ、感動はこちらのほうが大きかった。

 2イニングで3つの三振で奪ったソフトバンク・古谷優人のスライダーは、ホームベースの上で真横にふっ飛ぶように滑り、中日・笠原祥太郎(新潟医療福祉大・1年目)のスライダーはホームベースの上で地面に突き刺さるほど鋭くタテに落ちた。

 スライダーなら“2奪三振組”の千葉ロッテ・成田翔(秋田商・2年目)も印象深い。動きは小さくても、その分キュッと鋭く動いて高精度にコントロールされ、カウント球にも勝負球にも使える頼もしい武器になっていたし、同じ千葉ロッテ・酒居知史(大阪ガス・1年目)のフォークは速球と同じ腕の振りと軌道でやって来ると、打者の手元でスッとボールゾーンに沈んで、スイングをかいくぐって見せた。

巨人・1年目の畠は一週間後に一軍で初勝利。

 ソフトバンク・小澤怜史(日大三島高・2年目)もタテのスライダーと区別しにくい高速フォークで若い打者たちを苦しめ、巨人・畠世周(近畿大・1年目)のスライダーとチェンジアップも、速球以上の猛烈な腕の振りが味方になって、オール・ウエスタンの4番・メヒアが完全にタイミングを逸していた。

 その畠世周が一週間後の19日、一軍の中日戦で先発し8回の途中まで2点に抑えて、プロ初勝利を挙げた。

 首位・広島カープに大きく離された4位。前日には、山口俊の残念なニュースも流されて、あまりよくないムードの中での快投だけに、チームにとっては、ただの“1勝”とは意味合いの違う勝ちだったはずだ。

投げられない状態で入団した畠が……。

 いいな……と思ったのは、畠世周が捕手・小林誠司のミットだけを見つめて、一心に投げ込んでいた姿だ。

 ヒジを手術して、投げられない状態で入団してきた投手だ。しかもドラフト2位の上位指名。

 思いは千々に乱れたはずだ。

 私自身、「巨人2位・畠世周」の今季について楽観的だったとは言いがたい。

 あやまらなきゃな……という気持ちと、それだけに、この先の無事と奮投を願う思い。そんな中で、コンスタントに140キロ後半をマークするスピード豊かな速球に加えて、スライダー、カーブ、チェンジアップにフォーク……ほかにも、何か微妙な動きをする“隠し球”もこの目にチカッと来ていた。

 魔球と呼ぶほどの変化を伴うボールはないにしても、投げ損じが少なく、多彩な球種をムラなく変化させて、70%以上構えたミットに決められる能力。

打者のタイミングを外す意欲は、成功の友。

 何より感心したのは、走者を背負った場面で、セットポジションからクイックリズムでスライダー、チェンジアップを投じて、打者のタイミングを外そうとする旺盛な意欲だ。

 年若く、抜群の身体能力を有した投手が、見えないほどの快速球を投げたいと願う心理はよくわかる。

 しかし、野球とはバックスクリーンに表示される球速を競うゲームではない。

 持ち前の快速球、剛速球をより輝かせるためにも、その“対極”にある変化球の打者の手元での変化とそのコントロールを磨くこと。

「勝てる投手になりたい」

 もしも投手を目指す若人がほんとにそう願うのならば、スピードを上げることよりも、むしろこっちのほうではないか。

 投手の“仕事”とは、あくまでも、打者のタイミングを外すことなのである。

文=安倍昌彦

photograph by Kyodo News