高校野球の三重県大会2回戦、菰野高対高田高を見ていたときのこと、菰野高の先発投手が「151キロ右腕」と評判の岡林飛翔ではなかったので、隣り合わせた知り合いのスカウト氏に「今日は投げないんですかねえ」と聞くと、「140キロ台が5人いるらしいから投げないかもしれませんね」と言う。

 5人の140キロ台を私は確認していないが、1回戦では岡林飛翔(3年)、田中法彦(2年)、岡林勇希(1年)、河内頼(2年)、村上健真(3年)が継投策でマウンドに上り、英心高を5回コールドの29−0で退けている。被安打はゼロで奪三振は15。つまり、アウトはすべて三振という完璧な内容だった。

 このパーフェクトリレーに惹かれて滞在していた大阪から三重までやって来たのだが、高田高戦で岡林飛翔はレフトの守備に就いたまま、マウンドには上がらなかった。普通なら「せっかく三重まで来たのに」とぶつくさ文句を言うところだが、先発の田中のデキが素晴らしく、岡林の存在をしばらく忘れることができた。

「140キロ台が5人」説の信憑性は高そう。

 身長は173、4cmと高くない。それを物足りなく感じなかったのはマウンド上の姿が立派だったからだ。投球フォームはオーバースローで、ストレートは最速147キロを計測。横変化のスライダーもストレートと同じ腕の振りで投げ分け、これにフォークボールが加わる。4回裏、3番打者に三塁打を打たれて1点を失ったが、5回投げて失点はこの1点だけ。被安打1、奪三振7という見事な内容だった。

 2番手でマウンドに上がった左腕、村上のストレートは田中ほど速くはない。この日のストレートの最速は133キロと平凡。それでもボールの出所が見えにくいスリークォーターの投球フォームは目を引き、うまく育てばロッテの松永昂大や楽天の辛島航クラスに育つ可能性があるのではと思わせた。

 この村上まで含めて「140キロ台が5人」なのかどうかはわからないが、前出のスカウト氏に1回戦の話を聞くと岡林飛翔の弟、勇希の話になって、「140キロ台がぼこぼこ出て」と臨場感たっぷりに話してくれた。にわかに信憑性を増した「140キロ台が5人」説。私はかなり信用している。

今年は例年以上に複数投手制の学校が目立つ。

 この菰野高をはじめ、今年は複数の有力投手を備えている強豪校が目立つ。昨年夏の甲子園優勝校、作新学院には篠原聖弥(3年)、大関秀太郎(3年)、高山陽成(2年)、センバツ出場校の前橋育英高には皆川喬涼(3年)、丸山和郁(3年)、根岸崇裕(3年)、花咲徳栄高には清水達也(3年)、綱脇慧(3年)、野村佑希(2年)が揃い、日大三高はともにストレートの最速が150キロに迫る左腕の櫻井周斗(3年)、金成麗生(3年)がいる。

 センバツ優勝校の大阪桐蔭高は3人どころではない。高校生トップランクの徳山壮磨(3年)を筆頭に、センバツで注目を集めた柿木蓮(2年)、横川凱(2年)、香川麗爾(3年)、中学時代すでに最速146キロを計測し、現在は148キロにまで達している根尾昂(2年)など5人の主戦級を揃えている。秀岳館高の両左腕、川端健斗(3年)、田浦文丸(3年)も強烈な陣容である。

県立高校に有力投手が5人も揃う理由。

 菰野高に話を戻すと、同校は県立高校である。私立にくらべて有力な中学生の獲得にはハンディがあるが、同校OBの西勇輝(オリックス)を見てもわかるように、指導者の育成力には信用が置ける。

 さらに今夏の戦い方を見れば、1人の“エース”に偏らない起用法もわかる。複数の投手を揃えようとするなら、ある程度は複数の投手に登板機会を与えるべきで、それによって投手陣全体の成熟度が低下しても、複数の勢いで押し込んでいく、そういう戦い方の覚悟がこれからの指導者には求められると思う。

 県立高校でありながら菰野高からプロ野球選手が輩出され、今夏も有力な投手が5人揃うのが私にはよく理解できる。

 大阪大会の序盤戦を3日間見て、無名校に好投手が多いのにも驚かされた。大阪の中学生球児のレベルの高さ、そして彼らが伝道師のように北海道、東北、四国などに野球留学し、その地域の野球レベルを押し上げていることは広く知れ渡っているが、彼らほど有名でなく、なおかつ地元でも有力校ではなく無名校にとどまって腕を上げた投手がいる。

大阪屈指の進学校にも期待度の高い投手が。

 府内屈指の進学校・天王寺高校の左腕、木村圭吾(3年)、私立大阪学芸高左腕の本格派、山本恭平(3年)、無名校とは言えないが、近大付高の千代(せんだい)七世(3年)がそんな投手たちだ。

 木村のストレートは130キロ前後だが、前肩が開かないフォームから繰り出されるストレートで明星打線を4回まで4安打に抑え込んだ。山本は木村より知られた存在で、マウンドに上がったとき味方応援席から「140キロ!」という歓声が飛んだのは、専門誌にそのように書かれていたからだろう。

 偵察隊のスピードガンによるとこの日のストレートの最速は134キロだったが、自己最速は140キロに達しているようだ。千代のストレートも自己最速140キロに達しているが、私は斜め、横に投げ分けるスライダーのバリエーションのほうに惹かれた。

強豪私立以外に有力選手がいるのは楽しい。

 捕手の無名球児も紹介したい。攻守交代の間、投手は3〜5球ピッチング練習をし、その最後のボールを受け取った捕手は実戦を想定して二塁ベース上に待機する内野手(主に遊撃手)に送球する。これが「イニング間の捕手の二塁送球タイム」で、私は「イニング間〇秒」と紹介することが多い。このときの強肩の目安は2秒未満で、実戦なら2.05未満で強肩と言っていい。

 府立寝屋川高の幸徳将吾(3年)はこのイニング間の二塁送球が最速2.02秒を計測、積極的に内角にミットを構える攻撃的なリードも光った。府立池田高にも永井歩公之(3年)という強肩捕手がいて、イニング間の最速は2.01秒だった。ともに強肩の域には達していないが、「いい肩」くらいの表現はできるレベルにある。

 バッティングはバットという道具を用いて行うので技術習得に時間を必要とするが、投手や捕手のスローイングは道具を使わず、ある程度身体能力で勝負できる。つまり、無名校からも好投手や好捕手が輩出される可能性があるのではないか、ということを言いたかった。

 県立高の菰野高でも5人の140キロを超える本格派を揃えることができ、大阪の無名校からも好投手や好捕手を輩出されるのである。この7月の西日本遠征は私に野球の新たな可能性を教えてくれた。

文=小関順二

photograph by Kyodo News