7月上旬、カイロで行われたFIBA U19ワールドカップには、NBAチームのスカウトも見に来ていた。

 19歳といえば、本人が希望すればアーリーエントリーしてNBAドラフトの指名対象にもなれる年代だ。実際、今大会に出場した選手の中には、今年6月のNBAドラフト前にアーリーエントリー宣言をし、後に撤回した選手もいた。

 日本代表の中で、以前からNBA入りが目標だと明言している八村塁にとっても、この大会はNBAスカウトの前でプレーするチャンスだった。

 特に昨シーズン、NCAAのゴンザガ大ではほとんど試合の出場機会がなかっただけに、ゴンザガで練習してきたことが、同年代のトッププレイヤーたちを相手にどれだけ通用するのか、八村自身も楽しみにしていた。

 大会中、八村はNBAスカウトから見られていることについて「意識していない」と言っていたが、その一方で「U19になるとNBAのドラフトにもかかるような年代なので。(選手として)出来上がっている人たちがいっぱい来ていて、高いレベル」と言い、「自分も1年間そういう高いレベルでやってきたので、本当の試合でどれだけやれるかっていうのは楽しみにしています」と語っていた。

NBAスカウトが語る選手の評価基準。

 大会中、1人のNBAチーム・スカウトと話をした。NBAの規則で、リーグやチーム関係者はNBAに入る前の年代の選手の評価などを語ることは禁止されている。そのため、八村など個々の選手の具体的な評価は聞けなかったが、スカウトとしてどんなポイントで試合を見ているのかを聞いてみた。

「私の場合──他のほとんどのスカウトも同じだと思うけれど、まず見るのは選手の身体つきだ。

 どれぐらいのサイズで、どれぐらいの力強さがあるか。そして身体能力はどれぐらいか。これはふつう年月とともに変化してくることだ。1人の選手を16歳のときに見て、19歳、20歳になってから見ると大きな変化がある。スカウトとして、選手の将来を予測することも仕事のうちだ。

 次に見るのはその選手のスキル全般。前回見たときからどう成長してきたのか。

 その次はメンタル面だ。どういう行動を取っているか。姿勢はどうか。審判やチームメイトなどに対してどんな対応をしているか。さらにはコーチ陣にどんな反応をしているかといったことを見る」

「正しいときに、正しい場所にいる必要がある」

「前回見たときからどう成長しているかを見る」と言うように、スカウトたちはU19の大会単体だけで選手を評価するわけではない。U16、U17、U18、U19、そしてその合間に行われるナイキ・フープサミット(毎年春に行われる高校生世代のアメリカ代表対世界代表の試合)やNBAのバスケットボール・ウィズアウト・ボーダーズ(世界中のエリート選手を集めたNBA主催のバスケットボールキャンプ)などでも選手をチェックする。実際に現場で見ることができなかった大会でも、ビデオ映像やデータベースを確認する。U19の大会での評価も、その蓄積されたデータのひとつとなる。

「これはプロセスだ。NBAが求める高いレベルにあう選手なのか、簡単にわかることではない。多くのすばらしい選手たちが、様々な理由からNBAでプレーせずに終わっている。

 選手として実力が足りない場合だけでなく、状況によって実現しないこともある。普通の人生と同じだ。成功しないことはある。正しいときに、正しい場所にいる必要がある。そういった選手、磨かれる前のダイヤモンド……とは言いたくないけれど、NBAに入るチャンスがある選手を見つけることが私の仕事だ。実際に入るかどうかは、選手次第なんだ。

 個人的には、早い年齢のうちに見ることができればできるほど、きちんとした評価を下すことができると考えている。成長を見ることができる。『この選手は順調に成長している』ということもあるし、その反対もある。『それほど上手になっていないな』とね。身体の変化などもある。そういったことも含めて、プロセスだ」

選手の情報が行きわたり、評価方法こそが重要に。

 また今は、ひと昔前のように知られざる逸材はほとんどいなくなったという。もちろん、遅咲きの選手や、他スポーツから転向した選手が突然、U19のような大会で頭角を現すことはあるが、多くの大会が何らかの形で記録されるようになり、世界中の有力選手は全員が各チームのデータベースに記録される時代なのだという。

「多くの新しいテクノロジーによって、秘密はなくなってきた。(有望選手を)隠しておくということも滅多になくなった。若い選手たちは大会で露出し、エージェントが売り込むようになってきた。それだけに、今は選手をどう評価するかの問題になってきている。私と君で同じ選手を見ても、意見は違うかもしれない。同じ評価をするかもしれない。

 選手の立場からいうと、(スカウトに)見られるだけのフェアなチャンスを得るようになった。今ではすべてのNBAチームが世界中にスカウトがいるか、あるいは様々なコネクションから情報を得ている」

「日本にとって最大の問題はサイズだ」

 彼らが情報を得るコネクションのひとつは、各地のコーチたちだ。最近では日本もBリーグや代表レベルで、海外から来たコーチや、海外との繋がりを持つコーチたちが増えてきたが、そういったコーチたちの評価が参考になる。

 実際、このスカウト氏の昔からの知り合いも日本でコーチをしていて、このインタビューの直前にも、コーチと情報交換したところだったらしい。

 NBAチームで海外スカウトとして20年間にわたって働いてきた彼は、今回のU19日本代表が、以前の日本代表と比べて変化してきているのを感じたという。

「日本にとって最大の問題はサイズだ。世界と競うためには、フィジカル面でより強くなり、大きくなる必要がある。でも、バスケットボールの要素の面ではよくなってきている。それは試合を見ればわかる。試合を見ていると、日本は数年前と比べて戦術、戦略面できちんと計画して実行されていることがわかる。(身体的に)できないこともあるけれど、何をやろうとしているのかは見てわかる。

 シュート、トランジション、パス、すべてのことがよくなっている。まだ少し時間がかかるのかもしれないけれど、全体的には試合も競っている。初戦(スペイン戦)も挑戦だったけれど、数年前だったら勝負にもなっていなかったのではないかと思う」

NBAは、選手が大学を卒業することを推奨している。

 個々の選手について話せないことを承知で、最後にもう一度、今大会での八村塁について尋ねてみると、苦笑しながら、話せるぎりぎりのコメントをしてくれた。

「彼はすばらしい学校(ゴンザガ大)にいる。NCAAの決勝にも出た学校だ。大事なのは、成長する時間を与えることだ。NBAとしては、選手が学校に残ることを支援している。私たちはいつでも、成長するために一番いいのは大学を終えることだと言っている。彼がこの先成功することを願っている。でも、今の時点では、彼についてコメントすることはできないんだ」

世界強豪国のコーチたちは八村をどう評したか。

 最後に、コメントできないスカウト氏に代わって、FIBA U19ワールドカップで日本代表と対戦した世界の強豪国ヘッドコーチによる八村評を載せておこう。こういったコーチたちの評価は、そのまま繋がりがあるNBAスカウトたちの情報源にもなることは、先ほど書いた通りだ。

ロイ・ラナ(カナダ代表ヘッドコーチ)

「彼(八村)はとても、とても才能ある選手だ。止めるのがとても難しい選手だった。彼は間違いなく、この先長い間、日本のバスケットボールにとって重要な選手となるだろう。

彼は(相手チームとして)完全に止めることができるようなタイプの選手ではない。できるだけ抑えるように、彼の試合への影響をなるべく制限するようにしていた」

アンドレア・カポビアンコ(イタリア代表ヘッドコーチ)

「ハチムラはトッププレイヤーだ。走ることができる。ボールを持っていても、持っていなくても走ることができる。ゴールに正対しても、ゴールを背にした状態からでも1対1で攻めることができる。3ポイントシュートも打てるし、オフェンス・リバウンドも取れる。トッププレイヤーだ。将来の可能性がある選手だ」

ルイス・ギル(スペイン代表ヘッドコーチ)

「ハチムラは、この大会のトッププレイヤーの1人だと思う。彼にはこの先、NBAの可能性も含め、明るい将来が待っている。フィジカル面でも、戦術面でもよくやっていて、いいシュートを持っている。多くのことができる選手、この大会でのベストプレイヤーの1人だ」

文=宮地陽子

photograph by FIBA