「岡田にも、ちゃんとお礼を言わないといけないですね」

 3勝を挙げて6月度の月間MVPを受賞した十亀剣が、女房役への感謝の言葉を口にした。

 5月まで1勝2敗と負けが先行していた十亀だったが、岡田雅利とバッテリーを組んで、風向きが変わった。「炭谷(銀仁朗)さんのときにも勝っているので」と、連勝の要因はキャッチャーだけにあるのではないと前置きをして、十亀は続ける。

「2人の違いを挙げるなら炭谷さんは1試合を考えてリードするキャッチャー。岡田は、まずはその投手のいいボールでどんどん行こうと考えるタイプですかね。以前は試合の前日に“明日は誰がキャッチャーですか?”ってコーチに聞いていたんですけど、今は岡田だろうなって僕もわかっているから聞かなくなりました」

「岡田なら、これまでと違う展開にできるかな」

 岡田起用のきっかけについて、秋元宏作バッテリーコーチは語る。

「最初はWBC帰りの銀(炭谷銀仁朗)に疲労もあったので、オープン戦からずっと出ている岡田を使ってみようと……。守備もよかったし、若い投手が投げるときには、岡田のようなムードメーカーがマスクをかぶるのもいいのではないかという判断でした。今、バッテリーを組んでいる十亀などは、“岡田なら、これまでと違う展開にできるかな”というところに期待しての起用でした」

 岡田は今シーズン、36試合に出場(7月23日現在)。正捕手、炭谷銀仁朗に次ぐ出場数を記録し、ライオンズにとって欠かせない戦力となっている。十亀以外では入団2年目の多和田真三郎や、現在は二軍で調整中の高橋光成など、若いピッチャーの先発試合でマスクをかぶった。7月22日の北海道日本ハム戦では先発の多和田を好リードし、継投した投手3名での完封勝利にも一役買った。

若手にはあえて「当たってしまってもいいから」と。

 若い投手とバッテリーを組むときの心構えを岡田に聞いた。

「多和田に限らず、その投手のいいものを出したいと考えて配球を考えます。多和田の場合は、基本的には自分に任せてくれることの多い投手。首を振ることがまずないので、それでもイニングの終わりに“もし自分で投げたい球があればちゃんと言えよ”と話して、多和田の意見も聞いてコミュニケーションを取るようにしています」

 優しい気質の多和田は、相手打者にデッドボールを当ててしまうと、そのあと、インコースを攻められなくなる傾向があった。

「言い方は悪いですけど“当たってしまってもいいから思い切り来い”と、あえて言葉にして言いました。バッターや相手ベンチにわかってもいい場面もあるので、そういうときはジェスチャーも交えます」

分かりやすいジェスチャーこそキャッチャー岡田の特徴。

 ミットで地面をたたく仕草や、一度、ひざを伸ばして高めに構える動作など、大きく、わかりやすいジェスチャーもキャッチャー岡田の特徴だ。秋元コーチは言う。

「あれが彼のいいところでもあります。気の優しい投手と組んだときには、そういう性格も踏まえて、しっかり引っ張っていってくれます。ゼスチャーも、あそこまで大きいと、彼がどういう風に考えてリードしているのかベンチまで伝わってきますしね」

 岡田は続ける。

「フォークを決め球にする投手は、ランナーがいるときはどうしてもワンバウンドを怖がってしまいます。実際に、その怖さから、いちばんの勝負所で真ん中に行ってしまって痛打されることも多い。それで負けたら、投手だけじゃなく自分も後悔すると思う。だから、誰にでもわかるようなゼスチャーで、どんなボールでも止めるぞと、投手に気持ちを見せています」

同じ大阪桐蔭、森友哉との関係はライバル? 後輩?

 岡田は大阪桐蔭高校から大阪ガスを経て2014年、ドラフト6位で入団した。大阪桐蔭高校時代は2年生から正捕手となり、中田翔(北海道日本ハム)とバッテリーを組んでセンバツに出場。ベスト8の成績を残している。

 同じ2014年に高卒で入団した森友哉とは年齢が6歳離れている。しかし、同じ大阪桐蔭高校出身という縁もあり、入団直後から一緒に行動することが多かった。野球を離れれば冗談を言ってじゃれ合い、言いたいことをはっきり言い合う姿は兄弟のように睦まじかった。

 そんな2人だが、2016年のシーズン前、森が再度、キャッチャーとして挑戦することを表明した際には、距離を置くことも考えたという。「今年はそういう気持ちは押さえて、ライバルとして同じポジションを争う意識でやっていきます」と岡田は語っていた。

 ただし、そんな岡田の気持ちはお構いなしに、懐き、自分を慕ってくれる森を無下にはできず、けっきょくは元の関係に戻った。現在、森は骨折からの復活をかけて二軍で調整中だ。

「“おまえの出る幕はないよ”という状態に」

「最近も一緒に食事に行ったり、電話で近況報告をしています。けっきょくは距離を置けてないですね、ハハ。今は森がケガで離脱しているということもあるので、本当の勝負は森が帰ってきてからだと思っています。森が帰ってきたときに、自分が今の位置におれるのか……。森が帰ってきたからといって、自分がマスクをかぶれなくなってしまうのではダメだと思う。僕も負けるわけにはいかない。あいつが帰ってきても“おまえの出る幕はないよ”という状態にしておきたいですからね」

 ライバル心をのぞかせるが、岡田の言葉は、リハビリに励んでいる後輩へ向けた「早く戻ってこい」というエールにも聞こえる。

銀さんも調子いいですけど、僕だって活躍したい!

「銀さん(炭谷)も調子がいいですし、でも僕だって試合で活躍したい。やはり試合にもっと出ることを目指したいですね。自分の売りは思い切りの良さだと思います。ここまで、試合経験は積ませてもらっていますけど、優勝を決めるような大事な試合でかぶった経験がありません。そういう場面でのリードのミスの怖さを知らないので、それを逆に強みにして大胆なリードをしたい」

 途中出場の機会も増えていることから、「先発捕手がその試合で何をしようとしていたかをくみ取ることも大切」だと語る。

「今後も、こちらのバッテリー対相手打線の対戦成績などを考えて起用していくことになると思います。もちろん結果がすべての世界なので打たれたらダメなんですが、岡田のリードは炭谷にとっても刺激になると思うので、岡田には今のまま、彼らしいプレーをしてほしい」(秋元バッテリーコーチ)

 より多くの出場機会を求めて岡田の奮闘は続く。

文=市川忍

photograph by Kyodo News