まるで夏の夜の花火大会のように、ミランが派手な大玉を次々に打ち上げている。

 夏の移籍市場は、今のところ彼らの独壇場だ。7月23日時点で彼らが新戦力補強に費やした額は、2億1100万ユーロ(約274億円!)にも上る。

 財政難に苦しみ低迷した近年の鬱憤を晴らすような大盤振る舞い。今夏、欧州で最も多くの資金を投下しているのは紛れもなくミランだ。

 わずか2カ月前まで背番号10をつけていた本田圭佑のパチューカ移籍は、もはや1行のニュースにもならない。昨季までのチームは完全解体され、新たに集められた即戦力級プレーヤーたちによって先発の座はほぼ埋まった。

 2年目の指揮を執るモンテッラ監督にとっても不服があろうはずもない。

「(これだけ補強してもらえたのだから)今シーズンは思う存分戦える」

王者ユーベからボヌッチを奪い取ることに成功。

“チャイニーズ・ミラン”となって初めて臨む移籍市場に、ファッソーネCEOとミラベッリSDは即断即決の電撃戦で挑んだ。

 DFムサッキオ(ビジャレアル)とDFロドリゲス(ヴォルフスブルク)を皮切りに、ポルトガル代表FWアンドレ・シウバ(ポルト)、FWボリーニ(サンダーランド)を立て続けに獲得。若くしてFKの名手として知られるMFチャルハノール(レバークーゼン)も獲った。

 昨季大躍進したアタランタの主力である若手2人の入団もまとめ上げた。フィジカルモンスターである20歳のコートジボワール代表MFケシエとU21イタリア代表の韋駄天DFコンティを抱えるモンテッラは、同業者たちから羨望の眼差しを受けるにちがいない。

 ダメ押しは、7月20日に正式発表された大物DFボヌッチの獲得だ。

 ボヌッチは王者ユベントスのスクデット6連覇と昨季のCL準優勝の原動力の1人だった。攻守ともに最高レベルのスキルを持つ当代きってのセンターバックであり、激しいキャプテンシーも兼ね備える。

「彼らが罵れば罵るほど俺はそれを力に変えてやる」

 ユベントスの守備の要を引き抜いたことで、ミランの本気度は誰の目にも明らかになった。移籍金4200万ユーロは決して高くない。

「ユベンティーノたちから裏切り者扱いされることや、カネで動く傭兵だと思われるのは心外だ。ユーベで過ごした7年間は素晴らしいものだったが、物事には何でも終わりがある。俺はブーイングされたら余計燃える性分でね。言っておきたいのは、今季トリノでのアウェーゲームに臨むとき、彼らが罵れば罵るほど俺はそれを力に変えてやるってことさ」

 古巣相手の不敵な言葉も頼もしい。ボヌッチ移籍はカンピオナートのパワーバランスを変えうるほどのインパクトをもたらした。

 ボヌッチと同時に、円熟の司令塔MFビリア(ラツィオ)も加わった。2億ユーロを超える巨大補強は、約30年前のベルルスコーニ時代の端緒を思い起こさせる。興奮と熱狂は数字になって返ってくる。

昨季わずか16450席の年間シート販売数が倍増も。

 昨季、ミランの年間シート販売数はわずか16450席に留まった。しかし、超大型補強を受けた今夏の販売は好調の一途で、クラブ側は昨季から売上倍増は堅いと睨んでいる。チャンピオンズリーグで優勝した直後の2007年夏に記録した43000席越えも夢ではない。

 市場の動きにブックメーカーも敏感に反応する。

「Unibet」や「Snai」といったベッティング大手各社は、ミランをユーベ、ナポリに次ぐ優勝候補の3番手に軒並み設定した。優勝配当倍率は6倍から8倍で、昨季2位のローマや仇敵インテルより人気は高い。

 中国ツアーの最中にあるチームは、22日のプレシーズンマッチに4万人を集めた。先発と途中出場組合わせて新戦力10人が投入された試合で、ドイツ王者バイエルンを4−0で撃破する金星を上げ、ミランを取り巻く熱は高まる一方だ。

「仕上げのチェリー」はベロッティかオーバメヤンか。

“チャイニーズ・ミラン”の経営を仕切るファッソーネCEOは、ここまでの移籍市場の成果に笑みをこぼす。

 21日付の伊紙『ガゼッタ・デッロ・スポルト』インタビューで、一度は初夏に破談した守護神ドンナルンマとの契約延長再交渉をまとめ上げた部下のSDミラベッリの手腕を讃えつつ、クラブの中期展望を意気揚々と語った。

「今夏の移籍市場は、計画以上の上出来だといえる。各々の移籍金額は適正価格で馬鹿げた投資ではない。2022年までにクラブの総売上額を現在の倍にすること、それから世界の5本の指のクラブに入ることが我々の目標だ」

 驚くべきは、ファッソーネとミラベッリに未だ補強の手を緩めるつもりがないことだ。

「(ケーキのてっぺんに飾る)仕上げのチェリーがまだ残っているじゃないか」

 標的は昨季自己最多26ゴールを上げたイタリア代表FWベロッティ(トリノ)か、ブンデスリーガ得点王のFWオーバメヤン(ドルトムント)とされている。いずれにせよ、“とどめの大玉花火”といえる大物ストライカー獲得をもって、ミランの新チームは完成する。

ミラニスタは歓迎、でも一般ファンは「危険すぎる」。

『ガゼッタ』紙は、7月下旬にミランの超大型補強の是非を問うアンケートを行った。ミラニスタたちこそ「大量の資金投下は正しい」という声を多く寄せたが、一般のファン含む集計で最多37%を集めたのは「これは危険すぎるギャンブルだ」という危惧だった。

 不安視されるのも無理はない。

 国際監査法人デロイト社による報告書「フットボール・マネー・リーグ」によれば、ミランの2015-−2016年シーズンの売上総額は2億1470万ユーロだった。

 ファッソーネCEOとミラベッリSDは、1年の総売上に匹敵する額をたった2カ月で使った計算になる。

 欧州で最も多額の資金を投資したのだから、李会長以下新経営陣は即優勝という結果を求めそうなものだが、今季のミランにとってスクデット獲得へのプライオリティはそこまで高くない。

 彼らが本気で狙うべきは、4位以上に与えられる来季CL出場権とそれに伴う売上額アップであり、さらにいえば2018-2019年シーズンに計画する香港か深センの株式市場への上場に向けた足固めこそ、クラブとしての至上命題だ。

ミランの3冠達成にブックメーカーは150倍の設定。

 来年中には買収資金としてヘッジファンド「エリオット」社から借り受けた3億ユーロ超の返済期限も待っている。

 とはいえ、今季のミランがスクデット戦線やヨーロッパリーグ(EL)をかき乱すダークホース的存在になる期待は高い。

 巨大な中国市場で放映権収入やライセンス商品などの売上を伸ばすためには、肝心のチームが好成績を残し人気を博すことが一番だ。

 27日、ミランは早くもEL3次予選で今季初の公式戦を迎える。

 CSUクラヨーヴァ(ルーマニア)というマイナークラブ相手によもや不覚をとることはないと思うが、シーズンの道のりは長い。前述のブックメーカーは、ミランの3冠達成(スクデット、コッパ・イタリア、EL)に150倍のオッズを設定している。

「何事も不可能はない」(ボヌッチ)

 274億円をかけた、盛大な大花火連発による宣戦布告は放たれた。

 大惨敗も大勝利もありうる。どう転ぼうが、今季のミランから目を離すことはできない。

文=弓削高志

photograph by AFLO