(10+6+0)−(24+25+11)=−44

 この計算式が何を表すか?

 もちろん野球に関する式だが、すぐさまピンときた人はかなりのデータフリークか巨人オタクと言えるのではないだろうか。

 実はこれは巨人選手の本塁打数なのである。

 最初のカッコの中の10と6と0は7月26日現在、今季のケーシー・マギー内野手と村田修一内野手、そして今季は外国人枠の問題で出場機会に恵まれずに7月26日に楽天に金銭トレードされたルイス・クルーズ内野手の本塁打数である。そして2番目のかっこの中は昨年のギャレット・ジョーンズ外野手と村田、そしてクルーズの本塁打数だ。

 昨年の数字はシーズン終了後のもので、今季は半分ちょっとを消化した時点のものだから、データ的に正確と言えないのは百も承知である。ただ、シーズン終了まで待っても、この数字が飛躍的に変わるかと言えば、そこは懐疑的にならざるを得ない。

 それよりも現時点で「マイナス44本」という数字の大きさに驚くとともに、今季の巨人の厳しい戦いが、実はこの数字から透けて見えてくるのである。

 昨オフにマギーを獲得した補強自体は、決して間違いだとは思わない。阿部慎之助内野手がフルシーズンで働ける可能性が低いことから、阿部が休んでいるときに戦力ダウンをいかに防ぐかを考えた結論が、マギーを補強して阿部と村田の3人で一塁と三塁のポジションを回していくという戦略だった。

マギーを使うことで、巨人は本塁打を捨てた?

 そうして獲得したマギーは、現時点でチームになくてはならない戦力となっている。7月27日時点で打率は3割を越え、打点45も坂本勇人内野手に次いでチームで2番目の数字だ。

 ただ、その一方でマギーを使うことで、チームが捨てたのが本塁打なのである。

 飛ぶボールの時代だった1990年代から2000年代の巨人は、まさにそんな一発の力で相手をねじ伏せるチームだった。ところがここ数年は主砲・阿部の力が衰え、とって替わる生え抜きのホームランバッターが育っていない。かろうじて村田がその役割を担ってきたが、その村田もかつてのパワーは影を潜めている。となると外国人打者に頼らざるを得ない。

 ただ、マギーはそういうタイプの打者ではない。両リーグトップの二塁打33本という数字が示すように典型的な中距離打者である。

 その結果が冒頭の計算式となるわけだ。

「空中戦なら負けない」と豪語した時代は今や昔。

 外国人投手3人を登録しなければならず、野手にマギーを使うことで、昨年25本とチーム最多本塁打を放ったギャレットを一軍に登録できなくなった。交流戦明けから超攻撃的布陣として阿部と村田とともに3人を併用し、マギーを2番で起用してきて一定の成果は出ている。ただ、前半戦は阿部とマギーを使うケースが多く、前年にチーム最多の25本塁打を放っていた村田も、ここまで放ったアーチはわずか6本しかない。

 チーム本塁打数57本はかろうじてヤクルトの56本を上回っているが、リーグで下から2番目、12球団ではロッテ(42本)、ヤクルトに次ぐ3番目である。

「空中戦なら負けない」とかつての原辰徳監督が豪語した時代が夢のように、今の巨人は本塁打のないチームになっているのである。

 なぜ打線にホームランバッターが必要なのかと言えば、厳しい試合、厳しい相手投手に対して本塁打は一発で局面を変えることができるからだ。連打が望めないような好投手でも、1球の失投を仕留めて1点をもぎ取ることができる。

 要は厳しい試合ほど、一発の威力が貴重になるのである。

広島相手に3勝13敗、顕著なのが本塁打、長打力の差。

 ここにもう1つの数字がある。

 3勝13敗――。

 巨人の今季、対広島戦の対戦成績である。

 この惨憺たる数字の裏側には、様々な理由が考えられる。ただ、その中で顕著なのが効果的な本塁打、長打力の差だった。

 今季の両チームの対戦を振り返ると、勝負の分かれ目の多くで、広島は一発の威力で巨人をなぎ倒してきている。

 主だったものを挙げてみる。

 今季初対戦となった4月11日は6−6の7回に、菊池涼介内野手の2ランなどで3点を奪って勝ち越した。翌12日は合わせて6本塁打の乱打戦だったがB・エルドレッド内野手の2発など4本塁打の広島が9−5で圧勝。13日は1点を追う9回に代打の松山竜平外野手の同点ソロから2本塁打7得点を奪って逆転勝ちした。

 その後も5月13日にはエルドレッドの2本塁打などで11−2と圧勝すると、翌14日には1−1と同点の6回に鈴木誠也外野手が勝ち越し2ラン。5月26日からの3連戦も第1戦では菊池が先制2ラン、第2戦はエルドレッドが3−0の3回に追加点のソロ本塁打を放つと第3戦では2点を追う7回に同点2ランを放って、そこから逆転勝ちを収めた。

巨人は15本塁打を越える打者すら1人もいない。

 さらに巨人が3連勝を狙った交流戦明けの3連戦でも田口麗斗、菅野智之両投手の好投で連勝したあとの3戦目は5−5の7回に丸佳浩外野手にこの日2本目となる本塁打が飛び出して広島が勝ち越し、そのまま逃げ切った。また26日には巨人のルーキーの畠世周投手に6回までで11三振を奪われながら、鈴木と丸の2本の2ランで主導権を握って7−2と圧勝した。

 広島の今季のチーム本塁打99本はもちろんリーグトップだ。エルドレッドの22本を筆頭に鈴木が19本、丸が17本と20本前後の打者が3人もいる。一方の巨人は坂本と阿部、マギーがそれぞれ10本塁打を放っているが、20本塁打はおろか15本塁打を越える打者すら皆無なのである。自ずと対巨人戦で赤ヘル打線が放った本塁打は全部で18本もあるのに対して、巨人は対広島戦で半分以下の8本でしかないというデータも出てくる。

 接戦の勝負どころで、チャンスは作っても点が奪えない巨人と、本塁打で一気に流れを掴む広島の差が、この極端な対戦成績に表れているということなのである。

田畑コーチを広島専従のスコアラーに転出させた。

 7月13日に巨人は斎藤雅樹二軍監督を一軍投手コーチに配転し、それに伴い尾花高夫投手コーチをブルペン担当に、ブルペン担当の田畑一也投手コーチを戦略室に転出させて広島専従のスコアラーにした。

「狙いはこれから先のこと。これからチームが浮上するためには最高の配置転換じゃないかと思います。広島戦が(13日現在)3勝11敗というところで、スコアラーの強化を図り、田畑くんに入ってもらって広島専従でやってもらう」

 鹿取義隆GMは配転の狙いをこう説明した。

 マギーが不可欠な戦力であるならば、考えることは、攻撃面でマギーを使うことで生まれた「マイナス44本」という数字を減らすことではない。

 広島戦の勝負どころで打たれてきた本塁打をどれだけ防げるか。配球を含めて防御面を洗い直して、どこまで赤ヘルの一発攻勢を阻止できるか。そこがポイントとなるのだろう。

 その答えを見つけ出せない限り、たとえAクラスを確保してクライマックスシリーズで広島と対戦する権利を得たとしても……巨人に勝ち目はないということだ。

文=鷲田康

photograph by Kyodo News