うだるような暑さのなか、大阪のサクラが満開だ。

 3年ぶりに復帰したJ1で、セレッソ大阪が快進撃を演じている。7月2日の17節でFC東京を下して12年ぶりに首位に立つと、いったんは鹿島アントラーズにその座を譲ったが、18節で柏レイソルとの上位対決を制して首位に返り咲く。さらに、前倒しで行われた7月22日の22節で浦和レッズを4−2と撃破し、頭ひとつ抜け出した。

 ここまで39得点は浦和についでリーグ2位。18失点はリーグ4位タイの少なさで、得失点差プラス21は、群を抜いてリーグトップの数字だ。

 もっとも、選手たちに浮ついた様子はない。勝利したゲームのあとでも、多くの選手が課題や反省を口にしている。

尹晶煥監督のもたらした策がハマり、首位を走るが。

 なかでも、この状況を最も冷静に受け止めているのが、キャプテンの柿谷曜一朗だろう。シーズンの半分にあたる17節を終えたあと話を聞く機会があったが、そのときチームリーダーは、こんな風に語っていた。

「相手がたまたま外してくれて、僕らがたまたま決めたっていう試合が何度もあったし、もちろん、サッカーってそういうもんやけど、『勝ったけど課題が出た』っていう試合も多い。まだ半分が終わっただけやし、今の状態を維持すればいいなんて思ってなくて。ただ、みんなが現状に満足してないから、この順位にいられるんやと思いますね」

 C大阪は今季、OBである尹晶煥(ユン・ジョンファン)監督を招聘した。サガン鳥栖時代にも首位の経験がある指揮官は、魅惑の攻撃サッカーを繰り広げながら安定感を欠く傾向のあったC大阪にハードワークを植えつけ、守備の約束事を整理した。ボランチやセンターバックが主戦場だった山村和也をトップ下で起用する新布陣もハマり、調子をぐんぐんと上げてきた。

「ここまで納得のいくプレーは半分も出せていない」

 ただし柿谷が言うように、シーズン序盤はセットプレーで白星を拾った辛勝も多かった。今は勢いに乗っているが、対戦相手から対策を施されたとき、どれだけやれるのかも未知数だ。

 また、4年半ぶりに復帰した清武弘嗣のベストな起用法も定まったわけではなく、ほかでもない柿谷自身も得意の1トップではなく左サイドハーフで起用され、窮屈そうにプレーしている。決定機に絡む回数は増えつつあるが、ここまで3ゴール(そのうちPKでのゴールが2つ)と振るわない。

 現在の心境を語る柿谷は、やや悩ましげな表情を見せる。

「僕自身、ここまで納得のいくプレーは半分も出せていないというか……。やっぱり自分はサイドアタッカーやないと思っているし、サイドを駆け上がってクロスを上げる、丸橋(祐介)みたいなプレーはできない。どうしても中に入って行ってしまう。でも、徳島(ヴォルティス)時代もそこでプレーしていたから、イメージをかぶらせながら。まあ、自分の幅を広げる良い機会やな、って思いながらやってますけど」

たまたまタイトル獲れればいい、ってわけじゃない。

 もっとも、柿谷が表情を曇らせるのは、思うようなプレーができていない、という単純な話ではない。柿谷が考えているのは、クラブの未来について。C大阪はどういうクラブであるべきか。サポーターやクラブに関わる人たちに一時的ではなく、長く続く幸せをもたらすためにはどうするべきか。そのために自分にできることは何か……。

「バーゼルに行く前くらいからですかね、いろいろと考えるようになって。これまでセレッソは何度かJ2に落ちたし、タイトルを獲ったこともない。それはすごく悔しいことやけど、じゃあ、たまたま1回獲れればいいのかっていうと、そうじゃない。安定して強いチームにしていきたいと思っていて。やっぱり強いチームって、どの時代も、どの監督が来ても、しっかりとしたスタイルやカラーがあるじゃないですか……」

 例えば、鹿島には一貫したスタイルがあり、攻撃的なスタイルとして双璧をなす川崎フロンターレと浦和は今まさに構築しているところだろう。

監督が変わるごとに、方向性が変わっている?

 C大阪でもかつてレヴィー・クルピ監督の時代に、香川真司や乾貴士を中心に攻撃的なスタイルが確立された。それは、清武、家長昭博、柿谷、南野拓実といった選手たちによって継承されたが、その後はどうか……。

「レヴィーのサッカー、ポポヴィッチのサッカー、大熊(清)さんのサッカー、ユンさんのサッカーっていうように、矢印が全部そっちに向かってると感じていて。だから、あの監督の時は強かったとか、あの選手がいなくなったら弱くなるってことを繰り返している。それでは本当に強いクラブにはなれない。その方向性を、選手とクラブが一緒になって作っていかなあかんと思っていて」

 C大阪を攻撃的なカラーで染めたクルピ監督のチーム作りは、「攻撃ありき」だった。ゴール前で違いを生み出せる選手を重宝し、彼らの守備の負担を軽減させるために、彼らが攻撃のアイデアを存分に発揮できるように、縁の下の力持ちを配備した。

 一方、尹晶煥監督のそれは真逆。「現代サッカーではスター選手であっても、チームの一員としてハードワークしなければならない」という考えのもと、まず守備意識の徹底を図った。プレッシングのスタート位置を定め、コンパクトな陣形を保つように指示し、攻守を素早く切り替え、球際で負けないことを求めた。

「監督か、自分か」の二者択一からの脱皮。

 とはいえ、尹晶煥監督は守備的なチームを目指しているわけではない。監督自身、現役時代はクリエイティブなゲームメーカーだったのだ。そこには「守備をするための守備ではなく、攻撃につながる守備でなければならない」という狙いがある。守備の徹底が図れた今、チーム作りは「それをいかに攻撃につなげるか」という段階に入っている。

 柿谷もそのことは理解している。だから、まずは監督の指示に従いながら、その上でC大阪らしい攻撃の彩りをどう加えるかにチャレンジしている。クラブの未来と方向性に想いを馳せながら――。

 かつては「自分のサッカー観を捨ててまで、セレッソでプレーする意味はない」と思っていたという。その考えは、基本的に今も変わらない。だが、「監督のサッカーか、自分のサッカーか」という二者択一ではなく、監督のサッカーの中で自分をどう表現するか――。大人のフットボーラーとしてのアプローチができるようになったのだ。

心の拠り所は「奥さん、アキさん、シャケさん」。

 もちろん、それでも悩むし、何が正しいのか迷うときもある。だが、今の柿谷には信頼して相談できる人たちが身近にいる。

「奥さん、アキさん(西澤明訓)、シャケさん(酒本憲幸)。この3人から『それは間違っている』って言われたら、素直に聞き入れられる。自分を抑えるのは簡単じゃないけど、抑えられなくて和を乱した経験もあるし、信頼している人たちに支えてもらっているから、難しい状況でも冷静にやれているのかなって。それに、ありがたいことに今は言葉にしたり、行動に移す立場を任せてもらえている。言葉や行動を含め、クラブを中から変えていこうとするとストレスもたまるけど、やりがいもある。プレーで引っ張るのが大前提やけど、それだけじゃあかんっていうことも経験してますからね」

 4−2で快勝した7月22日の浦和戦。いつものように左サイドハーフで出場した柿谷は、クロスで杉本健勇のゴールをアシストし、カウンターのチャンスではサイドから斜めに絶妙なスルーパスを通し、決定機を演出した。

 だが、おそらく柿谷は、自身のプレーにまったく満足していないだろう。杉本が7本のシュートを放って2ゴールを奪い、今季のゴール数を2桁の大台に乗せたのに対し、柿谷は0本に終わった。

 それでも、自陣に何度も戻って浦和のサイド攻撃を防ぎ、ラファエル・シルバと丸橋が揉めたときにはすぐに駆け寄り、丸橋をなだめる様子を見て、確信せずにはいられなかった。

 C大阪の快進撃をピッチ内外で支えているのは、間違いなくこのキャプテンだ、と。

文=飯尾篤史

photograph by J.LEAGUE PHOTOS