世の中にはありとあらゆる教本が存在する。もちろん、サッカーも例外ではない。

 大規模な書店に足を運べば、最先端のトレーニングメソッドから観戦術まで、目から鱗が落ちるような情報の詰まった一冊に必ず出合えるはずだ。

 ただ、サッカーは奥が深い。まだまだ掘り下げられていないテーマの1つに挙げられるのが、GKのオーラだ。

 オーラという言葉の意味を調べると、「人体から発散される霊的なエネルギー。転じて、ある人や物が発する、一種独得な霊的な雰囲気」(出典:デジタル大辞泉)とある。いまひとつ分かりにくいのは、目に見えるものではないからだろう。客観的に測れるものではなく、主観で云々せねばならない。正解がない、実態がないということだ。

GKのオーラについて、エキスパートに聞いてみた。

 では、GKのオーラとは? 

 この疑問をエキスパートにぶつけることにした。回答者はケルンでU-21および育成部門のGKコーチを務める田口哲雄氏。GK大国ドイツの名門クラブで長らく活躍し、トップチームのゴールマウスに君臨するティモ・ホルンに加え、2部ウニオン・ベルリンの正守護神ダニエル・メーゼンヘラーらを育成した指導者だ。

「オーラがあるGKは立っているだけで、ゴールマウスを小さく見せることができます。サイズが同じGKでも、シュートする側にとっては大きくも小さくも見えますから」

 そのオーラが最も大きいフットボーラーは誰か。田口氏は即答する。

「ブッフォンですね。彼にはプロ駆け出しの頃から独特の雰囲気がありました。良い意味での余裕があり、昨シーズンのチャンピオンズリーグ準決勝(モナコ戦)でムバッペのシュートを防いだ際には、笑いながら相手を称えていました。そこに嫌味はありませんでしたし、お高く止まっていない。そうした態度がオーラとして表れていると思います」

ノイアーとブッフォンのオーラは質が違う。

 GKのオーラは得てして威圧感や信頼感という言葉にも置き換えられる。その両方を兼ね備えた選手として、筆者が真っ先に思い出すのはオリバー・カーンだ。現役のプレーヤーならば、マヌエル・ノイアーの名前を挙げる方が多いかもしれない。では、ノイアーもブッフォンと似たオーラの持ち主なのか。田口氏は言う。

「まずノイアーの場合は身体のサイズに恵まれているので、それだけで圧倒的な威圧感があります。極端な話、シュートする選手はポストの内側をピンポイントで狙わないと入らないという感覚があるでしょう。それがシュートミスに繋がる場合もあります。元デンマーク代表のピーター・シュマイケルも同種のオーラを放っていました」

 一方で、サイズに恵まれなくても、オーラを放っているGKは存在するという。その代表格として、田口氏はスペインと日本の名手の名前を挙げた。

「オーラは能力があってこそ付いてくるものです。例えば、カシージャス。彼の場合は名前、経験、実績に基づく独特の雰囲気がありますよね。日本人で言えば、高校時代の川口能活です。同世代の中ではサイズの小ささが目立たなかった部分もありますが、圧倒的なオーラがありましたよ」

GKのユニフォームは半袖より長袖がいい。

 矛盾するようだが、確かな能力を備えていてもオーラが小さいGKがいるのも事実。その大小を決定づけるファクターは何か。また、オーラを身に付けるためのトレーニングはあるのか。

 田口氏は指導の際、選手たちに技術的な部分以外の助言も与えているという。

「主観的な話になりますが、見た目、佇まいも重要です。腕をぶらんと下げているような選手には、姿勢を正すよう注意しています。自信を持って、肩を広げるようにと。それからユニフォームの着こなし方も指摘するようにしています。具体的に言えば、配色について。上が黄色なのに、下が赤色ではおかしいですよね。体格が良い選手ならともかく、半袖の着用も薦めていません。どうしても着たければ、ユニフォームと同じ色のアンダーシャツ(長袖)を着させます。腕が長く見える効果があるからです」

Jリーグに韓国人GKが増えるなど、日本は人材難。

 ピッチ外でのアドバイスにも余念がない田口氏が手塩にかけて育てたのが、前述したケルンの守護神ホルンだ。13歳の時からトップチームに上がるまで指導した愛弟子で、近い将来のドイツ代表入りが有力視されている。

「ティモ(ホルン)もデビュー当初は細くて、若くて、今ほどのオーラはありませんでした。実績を重ねることで、段々と雰囲気が出てきましたね。ただ、同世代の選手と比べると、はっきりとした違いがありました。会話している時に13歳ながら落ち着きがありましたし、子供っぽさがなかったんです。集中力がありました」

 そのホルンがドイツ代表の扉を開くうえで、乗り越えなければならない選手の1人がレバークーゼンのベルント・レノだ。ノイアー、マルク・アンドレ・テア・シュテゲンに次ぐ序列の彼を上回る評価を得ないかぎり、A代表入りを果たすのは難しい。そのチャンスのほどは―-。田口氏は言う。

「贔屓するわけではありませんが、レノにそこまでのオーラは感じません。ミスの頻度もライバルと比べると高いですし、威圧的な雰囲気も醸し出していません。ティモに(招集の)声がかかる日は来るはずです」

 現在の日本には、残念ながら世界のトップクラブで活躍しているGKは存在しない。むしろ、Jリーグのクラブに韓国人GKが増えるなど人材不足に陥っている印象だ。技術面もさることながら、サイズや言語の問題がクローズアップされがちだが、オーラという要素にももっと焦点を合わせてもいいのではないか。

文=遠藤孝輔

photograph by AFLO