メジャーリーグは今、何度目かのホームラン全盛時代に突入している。Sportsnet Statsによると、今季前半に記録された計3343本塁打は、過去最多だった2000年前半の3312本塁打を上回ったらしい。

 パフォーマンス向上薬品は別にして、選手のトレーニング方法が飛躍的に進歩を遂げた、バットからの飛び出し角度が変わった、ボールそのものが飛ぶようになった、昔に比べると球場が小さくなったなど、本塁打量産の理由も盛んに議論されるようになった。それはそれでいい。大事なのはホームランという記録が今一度、注目されるようになったことだろう。

 7月17日、ワシントン・ナショナルズのライアン・ジマーマンが、通算235号本塁打を放った。それは1969年創設の前身モントリオール・エクスポズ時代からの球団記録を破る新記録だった。

 ジマーマンは試合後の会見で、こう言っている。

「この記録は同じチームに長くいないと達成できない。エクスポズやナショナルズのどの選手よりも打っているってのはいいね」

移籍が日常茶飯事で同じ球団で長くプレーしづらい。

 FA制度や年俸調停制度が洗練されているお陰で、メジャーリーグでは同じ球団で長くプレーするのが難しい。ジマーマンは「チームの主砲」ではあっても一度も本塁打王になったことのない選手であり、球団記録の更新は彼の言う通り、彼が2005年のドラフト1巡目(全体4位)指名でナショナルズに入団して以来、他球団へ移籍することなく同じチームで長くプレーしているから達成できた記録である。

 ジマーマンが記録した通算235本塁打は「選手が同一球団で放った本塁打」記録では28位に相当する(買収などで経営母体が変わっても、本拠地を引き継いでいる場合は同一球団とみなす)。彼の前には現役選手が何人か名を連ねており、彼らは現在も同記録を更新中である。「球団別」の最多本塁打記録24位はブルワーズで、ライアン・ブラウンが通算297本塁打(以下7月25日時点)で更新中だ。同25位はレイズでエバン・ロンゴリアが255本塁打で更新中。そして27位はマーリンズで、イチローの同僚ジャンカルロ・スタントンが240本塁打で更新中だ。

 最少のパドレスなどは163本塁打であり、すぐにでも破られそうなものだが、同球団で161本塁打を記録してパドレス史上2位となったエイドリアン・ゴンザレス(現ドジャース)を見ても分かるように、才能ある選手をすぐに手放すことで有名だから、今後もしばらく更新されないかも知れない。

アーロン、ルース、メイズと偉大な名前が並ぶ。

▽同一球団における通算最多本塁打と達成した選手(※は現役)
1 ブレーブス 733本 ハンク・アーロン
2 ヤンキース 659本 ベーブ・ルース
3 ジャイアンツ 646本 ウイリー・メイズ
4 ツインズ 559本 ハーモン・キルブルー
5 フィリーズ 548本 マイク・シュミット
6 カブス 545本 サミー・ソーサ
7 レッドソックス 521本 テッド・ウイリアムス
8 パイレーツ 475本 ウイリー・スタージェル
8 カージナルス 475本 スタン・ミュージアル
10 アストロズ 449本 ジェフ・バグウェル
11 ホワイトソックス 448本 フランク・トーマス
12 オリオールズ 431本 カル・リプケン・Jr.
13 マリナーズ 417本 ケン・グリフィー・Jr.
14 タイガース 399本 アル・ケイライン
15 レッズ 389本 ジョニー・ベンチ
15 ドジャース 389本 デューク・スナイダー
17 レンジャーズ 372本 フアン・ゴンザレス
18 ロッキーズ 369本 トッド・ヘルトン
19 アスレチックス 363本 マーク・マグワイア
20 インディアンス 337本 ジム・トーミー
21 ブルージェイズ 336本 カルロス・デルガド
22 ロイヤルズ 317本 ジョージ・ブレット
23 エンゼルス 299本 ティム・サーモン
24 ブルワーズ 296本 ライアン・ブラウン※
25 レイズ 255本 エバン・ロンゴリア※
26 メッツ 252本 ダリル・ストロベリー
27 マーリンズ 238本 ジャンカルロ・スタントン※
28 ナショナルズ 235本 ライアン・ジマーマン※
29 ダイヤモンドバックス 224本 ルイス・ゴンザレス
30 パドレス 163本 ネイト・コルバート

ジャイアンツの1位がボンズではない理由。

 上記のような「球団別」記録を見ると、「なるほど」と思うものもあれば意外なものもある。同記録の歴代1位が733本塁打のブレーブスで、それがハンク・アーロンによって達成されたことや、同2位が659本塁打のヤンキースで、それがベーブ・ルースによって達成されたことは意外ではないだろう。

 ただし、同記録の3位がジャイアンツのウイリー・メイズであることは、1990年以降にメジャーリーグに興味を持った人ならば意外に思うかも知れない。

「ジャイアンツ」、「本塁打」という言葉が並べば、歴代最多の生涯通算762本塁打を記録したバリー・ボンズを思い浮かべてしまうからだ。ボンズの生涯記録の一部はパイレーツ時代の通算176本塁打も当然含まれており、ジャイアンツ時代の586本塁打はメイズに次ぐ球団2位の記録になる。パイレーツ時代の記録は同球団の5位に相当し、それは今も現役で頑張っているアンドリュー・マカッチェン外野手の193本塁打に次ぐ記録である。

最後の4割打者、テッド・ウイリアムスも名を連ねる。

「球団別」記録の7位が521本塁打のレッドソックスで、それがテッド・ウイリアムスによって達成されたことを意外に思う人もいるのではないかと思う。

 なぜならボンズ同様、「レッドソックス」、「本塁打」とくれば、次にくる言葉は「ビッグ・パピ」=「デイビッド・オルティス」であるはずだからだ。去年限りで現役を引退したオルティスはレッドソックスでは通算483本塁打で、「最後の4割打者」ウイリアムスに次ぐ球団2位の記録。それは元三冠王のカール・ヤストレムスキーの452本塁打を上回る数字だった。

 同8位タイが475本塁打のカージナルスで、それがスタン・ミュージアルによって達成されたことについても、若い世代のメジャーリーグ・ファンにとっては「あれ? カージナルスだったら、マグワイアかプーホルスじゃないのか?」と思うかも知れない。

年間70本塁打を達成したマグワイアでも球団史上6位。

 今年、エンゼルスで通算600本塁打を達成したプーホルスは、カージナルス時代に限って言えば通算445本塁打で、それは最多のミュージアルに次ぐ歴代2位だった。1998年に当時の新記録シーズン70本塁打を達成したマグワイアの方は、カージナルス時代に限って言えば通算220本塁打で球団史上6位に留まっており、「球団別」本塁打記録を保持しているのは通算363本塁打を記録して同19位に名を連ねるアスレチックスでのことだ。

 ちなみに「球団別」最多本塁打記録2位のヤンキースは、前出の659本塁打と球団最多のルースに続いて、同2位が536本塁打のミッキー・マントル、同3位が493本塁打のルー・ゲーリック、同4位が361本塁打のジョー・ディマジオ、同5位が358本塁打のヨギ・ベラと伝説の名選手がズラリと並んでいる。

松井秀喜のヤンキース通算140本塁打の記録は……。

 同6位はパフォーマンス向上薬品との関係を公にして以降、尻切れトンボのような形で現役を退いたアレックス・ロドリゲスで、その後に1998年からのワールドシリーズ3連覇に貢献した中心選手であるバーニー・ウイリアムス(287本塁打)、ホルヘ・ポサダ(275本塁打)、そしてデレク・ジーター(260本塁打)と続く。

 日本人最多のメジャーリーグ通算175本塁打を記録した松井秀喜は、ヤンキースで通算140本塁打を記録しており、これは1960年代に活躍したトム・トレッシュという選手に並ぶ球団史上32位タイ記録である。

 現役最多で80本塁打のブレット・ガードナー(現ヤンキース)を大きく凌いでいるが、現在、売り出し中のア・リーグ本塁打王アーロン・ジャッジが追い抜いていく可能性は高い。

文=ナガオ勝司

photograph by AFLO