「今年はこんな試合ばっかりで申し訳ない」

 東京ヴェルディに3−3で引き分けた後、カマタマーレ讃岐の北野誠監督は悔しさを噛み締めて、そう言った。

 開幕前の目標はプレーオフ進出の6位以内だったが、前半戦は2勝7分12敗の20位。後半戦に入っても、東京ヴェルディ戦まで3試合を終えて1分2敗で21位(2勝8分14敗・勝ち点14)。J2残留となる20位のレノファ山口FCとは勝ち点差が5と、非常に厳しい状況に置かれている。

「6連敗ですが……」と聞かれると「負けじゃない!」

 ヴェルディ戦は今季のチームを象徴しているようなゲームだった。

 前半の内に先制点、追加点といい形で奪い、2−0のまま前半を終えていれば――攻守ともに機能不全に陥っていたヴェルディに相当厳しい展開だったはずだ。

 しかし前半44分、最終ライン裏のスペースを突かれてアンラッキーな形で失点。すると後半は防戦一方となって2−2とされた。それでも後半37分には、馬場賢治の縦パスから右サイドバックの武田有祐が低いクロスを上げ、ファーサイドで西弘則が3点目を決めたが、直後にまた追いつかれる。6月11日ツエーゲン金沢戦以来の勝利を挙げることができなかった。

 試合後、北野監督は失点のシーンを冷静に振り返りながらも「攻撃はやりたいことはできている。ゲーム自体は悪くなかった」と一定の評価を下していた。ところが質疑応答の中、ジェフユナイテッド千葉戦からの勝てない流れを指摘され、「6連敗ですが……」と聞かれると「負けじゃない」と声を荒げて言い返した。

 驚いたのは、そこからチームの内情について話をし始めたのである。

ここ2年間コンディション調整に苦慮し、故障者続出。

 クラブハウスはもちろん、専用の練習グラウンドがなく毎日練習場を転々としていること。人工芝での練習では、選手に負荷をかけるので十分な練習ができないことなどである。

 この日は長澤拓哉を起用したが、その経緯について「専用の練習グラウンドがないのでうちは練習試合がなかなかできないんですけど、たまたまグラウンドが空いていて練習試合をすることができたんです。そのとき、長澤がよかったので使いました。あの練習試合がなかったら使っていなかったと思います」とも説明している。

 監督とは、与えられた環境の中で結果を出さなければならない仕事だ。しかし、J2のレベルが全体的に上がりつつある今、この状況ではJ2はおろかJ3でも戦えなくなるという危機感を抱いたとしても不思議はない。実際、昨季は練習場所を転々とし、試合翌日のクールダウン、体をケアする場所確保が難しかったせいか故障者が続出した。その結果、19位に終わった。

 今年も故障者が出て、選手のコンディション調整に苦慮している。特に暑い時期は試合でその影響がダイレクトに出てしまう。ヴェルディ戦も後半に入ると、足がつったり動きが落ちた選手がいた。これではリードを守り切ることはなかなか難しい。

「今、負けているのはそれだけが原因じゃない」

 讃岐は、2011年に四国リーグからJFLに昇格し、2014年にJ2リーグに参戦した。しかし前述の通りクラブハウスも専用の練習場もない。そのためクラブライセンスはJ2のままで、優勝か2位に食い込んでもJ1昇格は果たせない。

 ただ、昨年、韓国の釜山アイパークFCから讃岐に移籍してきた渡邉大剛はこう言う。

「たしかにクラブハウスがなく、練習場を転々としているし、人工芝での練習がきついなとか思いますけど、それは讃岐だけではなく、そういうクラブが他にもありますからね。うちはまだ成長段階のクラブですし、今、負けているのはそれだけが原因じゃないと思います。最近はセットプレーでやられていることがすごく多いですし、今日の試合も3−2で勝ち越せたのでしっかり守って逃げ切りたかったんですけど、できなかった。いつも勝てそうな試合で勝てていないですし、同じ過ちを繰り返している。そこは個々の責任が大きいと思います」

 影響はあるが、環境面が直接的な敗因ではないという見解である。

練習施設の整備を求めて5万人超の署名を集めた。

 環境改善にクラブが動いていないわけではない。

 讃岐は昨年11月、J1クラブライセンス取得のために必要な練習施設の整備を求める5万7148人の署名を高松市に手渡している。

 しかし、今のところ大きな進展はない。勝てないことで香川県民のチームの興味が薄れ、行政、地元企業も支援への腰が重くなれば、クラブ全体にとっても逆風となってしまう。

「勝てないことの言い訳にしたくないが、言わないと何も変わらない。U-15、U-18が力をつけていているので、このクラブを潰しちゃいけないと思う。そのためにこれからもずっと言い続けていく」

 北野監督は覚悟を決めているように、そう言った。

「選手は文句を言わずにやってくれている」

 トップチームだけではない。ユースやジュニアユースの選手もクラブの宝である。彼らが昇格し、地元の選手が増え、県民に地元クラブとしての意識がより高まれば、さらに応援していこうと前向きになる。ただ、そのためにはトップチームは環境が整った夢のある場所ではなくてはならない。

 北野監督はそれを理解しているからこそ、現状をありのままに伝えている。自分に言い聞かすように前を向いてこう話している。

「選手は文句を言わずにやってくれている。残留を争っているが、今日の試合をみればJ2でも十分戦えていると思う。これを続けていけばいいと思います」

 ヴェルディ戦では、確かに光明が見えた。

 讃岐は3バックで戦っていた。若干引き気味の戦略を採用した分、前線の負担が大きかったが、パスをダイレクトでつないで攻撃でいい形を作ったり、守備面では相手のシャドーをセンターバックとボランチでうまく捕まえて前半はほとんど自由にさせなかった。

スタイルを確立して、環境改善の機運を高めるのみ。

「でも、うちにはまだ戦術的に幹になる部分がないんです」

 渡邉はそう話した。彼が大宮アルディージャに所属していた頃、守備から入り、カウンターで点を奪って勝つスタイルが徹底された。勝ち続けることでよりスタイルがブラッシュアップされ、強さを増していく。一方、チームの調子が悪くなったとき、自分たちの戦術に立ち戻ってプレーすることで比較的早く、スランプから脱出することができる。

「昨年まではロングボールが多くて、それも意図的というよりも相手に寄られて蹴るみたいな感じが多かったんです。でも、最近は攻撃の作りの部分でよくなってきて、うまくつないで崩せるパターンも見えてきました。そっちの方が自分としてはやりがいがあるし、プレースタイル的にもマッチしている。そこで結果を出していければ、そのやり方で固めていけるので、今は結果がほしいですね」

 たしかにチーム内ではロングボールだけではなく、ボールを握って戦う術も磨きつつある。ゴールも複数取れているし、3点目のようにいい崩しからのゴールもあった。継続していけば形になっていくだろう。

 当たり前だがクラブはよりクラブの質を高めていく努力を続け、選手は今、与えられた環境の中で勝利のために最善を尽くすしかない。そうして結果を出し、少しでも上位進出をはたすことができれば環境改善の機運がより一層高まるはずだ。

 もちろん、待っているだけではなく、寄付を募る方法を考えたり、スポンサー交渉したり、何かしら動いている様子をファンやサポーター、県民に発信していくことも大事だろう。そういう“流れ”を作っていくことが勝利とともに今、チームに求められているのではないだろうか。

文=佐藤俊

photograph by J.LEAGUE PHOTOS