先日、『ガーディアン』紙を斜め読みしていると、ジョゼップ・グアルディオラの大きなモノクロ写真と「トンネル・クラブ」の文字が目に留まった。よく見ると、マンチェスター・シティによる観戦パッケージの宣伝広告だった。

 ホームのエティハド・スタジアムで、試合前には選手控え室とピッチを結ぶトンネルへのアクセスを許され、試合中はベンチ裏の席で観戦。試合後には監督の会見や選手のインタビューの様子を眺められる特典のある、新たなVIPプログラムである。

 ただトンネルと言われて思いつく第一印象は、やはり暗闇だろう。ペップ体制1年目の昨季は6試合連続未勝利やCL16強敗退など、指揮官にとっても不名誉な初物尽くしで最悪のシーズンだった。

いまだにサイドバックを軽視する人もいるが……。

 ただ昨季終盤の時点で、暗闇の向こうに灯が見えていたファンもいたに違いない。ラスト8試合を6勝2引分けで終えたマンCは、ボールを支配するだけではなく、ボール奪取後の素早いカウンターでも敵を仕留められるようになった。

 また不安定だった守備は、バンサン・コンパニの戦線復帰によって著しく改善された。いまだにコンパニ頼みという見方もあるが、31歳のCBは怪我さえなければいまだにプレミア随一であると言える。良くも悪くも若さが目立つ23歳のジョン・ストーンズを、コンパニというベテランが支えている。

 何より今夏は、資金力豊かなマンCの水準からしても積極的な補強ぶりを見せている。特に目立つのはSBである。ここ近年、戦術的に見てSBの重要性がさらに高まっているが、いまだにイングランドでは「最終ラインの端」という見向きが根強い。だからこそ、こんな声が挙がったのだ。

「SB3名に、合計約1億2800万ポンド(約185億円)も?」

30代の4人をすべてお払い箱に。

 ただ、今回ばかりは別の話だ。バカリ・サニャ、ガエル・クリシ、パブロ・サバレタが契約満了でお払い箱になり、アレクサンダル・コラロフが控え扱いを嫌ってローマへと移籍した。去った4名がそろって30代だったことから、メディアでは「リジュベネーション(若返り)」とも表現されるが、マンCを「グアルディオラ化」するための改造ということで“グアルディオレーション”という造語を当てたい。

 この“グアルディオレーション”は、1年目の苦戦にチームがめげていないことも意味する。守りを固めて辛抱強くカウンターを狙うチームが多い中でも、グアルディオラは後方から足元でつないで攻撃を組み立ててきた。これからも、失ったボールは即座に奪って攻め勝つサッカーを貫く覚悟のようだ。

 そのスタイルをマンCに植えつける上で、SBは難易度の高いポジションだ。なぜなら単なるオーバーラップだけでなく、ビルドアップ時にはボランチやその手前インサイドの位置にも入る戦術理解力を求められるから。

 相手ペナルティエリアに近づく際には、引いて守る敵を崩す手段を増やすべくプレーメイカーとも絡む。ケビン・デブライネやダビド・シルバらがいる2列目には、新たにベルナルド・シウバが加わっているが、彼らと呼吸を合わせられるだけのセンスと視野、ボールコントロールも要求される。もちろん、後方に残したスペースを突かれるリスクが常に伴うことから、咄嗟に戻って守備に入る走力を備えていることは大前提となる。

グアルディオラの希望に沿う選手はいなかった。

 ところが昨季のマンCには、ペップ本人の言葉を借りれば「限られたスペースを使って攻め、広いスペースを守らなければならない」チームに適したSBはいなかった。指揮官が「アップダウンを繰り返せる持ち駒がない状況に適応するしかない」と嘆いたのは昨年4月のこと。それ以前からグアルディオラ流SBの動きは封印されていた。

 後方のリスクを考慮し、守備力の高いフェルナンジーニョを起用して、肝心のビルドアップがスムーズさを欠いてしまった試合もある。ゴール前に侵入されると、新GKに抜擢したクラウディオ・ブラボの弱点であるハイボールと1対1のプレーによって、失点の危険をより一層高めた。グアルディオラにとっては、監督として初めてタイトルを獲れずに終わった結果よりも、自分流の戦い方ができなかった内容が最大の無念だっただろう。

大枚をはたいてスペシャリスト3名を獲得。

 しかし、フロントが3億ポンド(約435億円)規模とも言われる補強予算で応えて臨む今季は違う。右SBにはサッカーのスタイルに共通点があるトッテナムから、カイル・ウォーカーを手に入れた。また、競争相手として逆サイドもこなせるダニーロをレアル・マドリーから獲得。左SBの新たな担い手は、モナコから引き抜いたベンジャミン・メンディ。スペシャリスト3名がSB陣に揃った。

 マンCの改革が一度機能し始めれば、四方八方から攻撃を繰り出すことだろう。相手守備陣の意識がアウトサイドに向けば、それはそれでしめたもの。前線中央では前述のプレーメイカー陣が虎視眈々とチャンスメイクを狙っている。

 最前線では、セルヒオ・アグエロの放出をグアルディオラ自身が否定しており、若く勢いのあるガブリエル・ジェズスも中足骨骨折から復帰する。そしてモナコの新星キリアン・ムバッペを1億ポンド台の移籍金で奪い取る線も消滅してはいない。

万全の2年目はプレミア優勝とCL4強が現実目標。

 当然ながら、改造の成果が開幕からすぐに現れるという保証はない。最後尾の起点としてベンフィカから買ったブラジル人GKエデルソン・モラレスは、プレシーズンに実現したマンチェスター・ダービーで無謀な飛び出しにより得点を献上している。だが今季のグアルディオラは、持ち駒に合わせて妥協していた昨季とは違い、自身が意図する戦い方で挑み続けられる環境にある。

 その環境を手に入れた2年目は、自身へのプレッシャーも前年以上で、プレミア優勝とCL4強が現実目標と言ってもよい。

 国内大手ブックメイカー(予想屋)の優勝オッズも2倍で、20チーム中最も低い倍率だ。新VIPパッケージを購入して観戦するマンCのファンは、エティハド・スタジアムのトンネルで「グアルディオラ化」されたチームと遭遇することになるだろう。

 そして本格的なグアルディオラのマンCがガラス張りの新トンネルを抜ければ、優勝候補筆頭として立つプレミアのピッチにある。

文=山中忍

photograph by Getty Images