欧州サッカーにとって始動の時期となる7月。今年はドルトムント、セビージャが来日し、Jクラブと対戦した。

 まだまだチーム立ち上げの時期で、フィジカルトレーニングすら始まっていない中でのアジア遠征は、いわば興行でもある。行った土地でイベントやサッカー教室でファンを楽しませ、テレビ放映を盛り上げ、スポンサーまわりをし、そして新規のファンを獲得すべく知名度アップ、もしくは定着のために分刻みのスケジュールを送る。

 中国を訪れたシャルケやACミラン、インテルなどにしても状況は同じだ。名所をまわった様子をSNSで発信し、地元の共感を呼ぶ。選手たちも意図をわかっているから、さりげないコミュニケーションもおこなう。もちろん、普段接していない土地の人々に応援されるのは嬉しいことだから、選手たちもより積極的になる。体力的にも慣れない土地の慣れない気候も厳しいが、少しは息抜きにもなる。彼らが欧州以外の土地に試合をしにいくのは、そんな数多の意味合いがある。

FC東京がドイツへ行ったの、知ってます?

 そして日本に欧州のクラブを迎えているのとほぼ同時期、FC東京はドイツを訪れた。

 2年前にフランクフルトを訪れて以来、2年ぶりの欧州遠征。ルヴァンカップのプレーオフに回ってしまうことでスケジュールが詰まってしまう不運もあったのだが、これがなかなかの強行軍だった。

 7月17日の夕方にミュンヘンに到着、練習開始。翌日も午前に練習、それも紅白戦15分2本を行い、午後にはミーティング、そしてミュンヘン郊外にバス移動してアウクスブルクとの親善試合へ。

 深夜にミュンヘンに戻ると、翌19日も午前練習、そして今度はオーストリア方向の郊外に移動してマインツと親善試合。20日もさらに午前練習を挟んで、午後便で帰路についた。

 運悪くというか、珍しくというか、FC東京が試合を行った2日間は今年のドイツの夏でも最も暑い部類の2日間だった。湿度こそ日本より低いが、日差しは眩しく、気温も30度前後と試合をするには厳しい条件だった。

チームを立て直すきっかけに、という狙いはわかるが。

 篠田善之監督はこういう。

「厳しい環境でも戦えるということが、成長の糧になればと思います。なかなかこういう素晴らしいチームとできる機会はないので、そのために遠くまで来ました。クラブも実現のためにすごく努力してくれました。2年前はフランクフルトに招待されたのですが、今回は自分たちから働きかけました。前回の経験がすごくよかったので。当時はフランクフルトとの1試合だけで、物足りなかった。で、今回2試合組んだら2試合連続になってしまった」

 チームは7月の中断期間前までの18試合を終えて、勝ち点25で10位。決して降格圏にいるわけではないが、大久保嘉人、太田宏介、林彰洋、高萩洋次郎、永井謙佑といった大物を獲得し、タイトルを狙って始まったはずのシーズンとしては物足りない。そんなチーム状況をどうにか立て直すきっかけにしようというのがこの遠征の狙いだった。

宿泊はビジネスホテル、若手の飛行機はエコノミー。

 だが、選手たちは複雑だ。

 もちろん遠征の意図もわかるし、普段はできない相手との試合ということもあって高揚感もある。経験値としては貴重な機会だということは百も承知だ。ただ、ホテルは清潔ではあるがビジネスホテルで、ベテランはビジネスクラスだったものの、若手選手は欧州までの飛行機はエコノミークラスだった。そんな厳しい条件で3泊5日で2試合、強行軍に参っている様子も見られた。

 選手の中では、ベルギーでプレー経験のある林彰洋は前向きなグループだった。

「移動は大変ですけど、ここで試したやり方が決まればもっと選手が気持ち良く動けるかなというのが感じられる2試合だった。とはいえ日本に帰ったらここより10度くらい暑い中でやるから、同じことができるわけではない。やっぱりどれだけ体力を削らないようにするかも考慮しながらやらないといけないと思います。この半年、良い試合と思ったのは1試合もないから、立て直すきっかけにしたいです」

太田宏介「ちょーしんどかったですよ」

 太田宏介はもっとこの遠征を有意義にする方法があったのではという。

「2日連続で試合して、移動もあって暑くて。相手も2チームともキャンプ中で疲れてるし、やっているほうとしては本当にキツかった。(親善試合では3バックにもトライした)時期としてはこれを習得して、はまっていけばよいと思うけど、本当はシーズン前にやりたいことだった。でも、こういう相手に新しいシステムは簡単じゃないとはいえ、刺激的で楽しいこの2、3日でしたよ。でも、ちょーしんどかったですよ。身体はまじで、今までで一番きつかったかもしれない」

東慶悟「でもね、僕たちシーズン中なんですよね」

 そして、東慶悟も難しい表情を見せる。

「いい経験でしたけどちょっと(スケジュールなど)考えないといけないですよね。なかなかやれる相手じゃないし、日本にいたらできない良い経験だとは思うけど、もっと良いコンディションならもっと良い経験にかわるのに。せっかくの時間をいい時間にしたいのに、今めちゃくちゃ眠いですもん。それに2日連続だから、1試合につき45分間しかできない。90分間の経験はできない。若い奴らにはいい経験になったと思うけど、Jで試合に出てる選手にはストレスもかかるし、ね」

 田舎町で行われる練習試合特有のセキュリティのゆるさで、ロッカールーム間近まで子供達がサインをねだりにくる。牧歌的で、開放的な空気感、ビールとソーセージの匂いと、ドイツ人の子供に囲まれながら、話を続ける。

「こういう雰囲気はなかなか味わえるものじゃないですよね。でもね、僕たちシーズン中なんですよね。大事な試合がある。でもクラブには他の意図があるのかもしれない、ビジネス的なね。書けない話? そんなことないですよ、むしろ書いてください。そうでないと変わっていかないから」

選手たちがビジネス的な意図を訝るのは?

 選手たちが「ビジネス的な意図があるのでは」と思ってしまうのも無理はない。

 FC東京の選手たちは、この2試合だけDMMのロゴが入ったユニフォームを着用していた。DMMといえば、ベルギー1部のシントトロイデンの株式を取得し、今後欧州サッカーシーンへと乗り出していこうとしている企業だ。

 とはいえ、その効果を計るのはなかなか難しい。欧州での露出はクラブが公式サイトで中継したくらい。ドイツ中が注目する試合ではないから、ドイツへのアピールは薄い。日本国内へのアピールはいかほどのものなのかわからないが、いわゆる報道メディアの東京からの同行者はゼロだったことを考えても、結果は限定的だ。

 欧州のクラブがアジアに来るのと同じ効果を、FC東京が欧州を訪れることで出すのはなかなか難しいだろう。ただ“東京”という名のついたクラブならば、もう少し展開のしようもあるように感じられた。

 ただ欧州を経験するというのでは、なんとももったいない。とはいえ、スケジュール的にはこれがギリギリだということもカレンダーを見れば一目瞭然。もっと選手を大事にし、クラブをアピールし、そのうえで経験値を積むにはどうしたら良いのか。綺麗な解決策は浮かばないが、見ているものとしてもいろいろと考えさせられる2試合だった。

文=了戒美子

photograph by Kiichi Matsumoto