波乱という表現は、そもそも使えないのかもしれない。

 サッカー天皇杯におけるJクラブの敗退だ。

 ベスト16がほぼ出揃った2017年度の天皇杯では、筑波大学がベガルタ仙台とアビスパ福岡を連破した。国内のピラミッドでは“J4”にあたるJFLのヴァンラーレ八戸も、ヴァンフォーレ甲府を退けた。

 福島県社会人リーグのいわきFCも、その名を全国へとどろかせた。“J7”に相当するカテゴリーの彼らが、J1の北海道コンサドーレ札幌を撃破したのだ。3回戦ではJ1の清水エスパルスに0−2で敗れたものの、リスクを恐れない勇敢なサッカーを披露した。

 昨年はどうだったのか。1回戦でJ2のFC岐阜がJFLのHonda FCに、町田ゼルビアが神奈川大学に敗れ、2回戦ではJ1の名古屋グランパス、甲府、仙台がJ3の下に位置する都道府県代表のクラブに白星を献上した。J2の松本山雅FCも、Honda FCを止められなかった。

ヨーロッパのカップ戦を見てみても、格上が……。

 ヨーロッパのカップ戦はどうだろう。

 2016-17シーズンのドイツ・DFBポカールでも、カテゴリーの低いクラブが大会を盛り上げた。このシーズンのブンデスリーガ1部で旋風を巻き起こすライプツィヒが、2部のディナモ・ドレスデンに敗れているのだ。

 1部が2部に負けることが例外的でなければ、1部が3部に敗れるのはどうだろう。ブレーメンが、3部のシュポルトフロインデ・ロッテに1−2で逃げ切られている。

 1部と4部の対戦が、PK戦までもつれるのはどうだろう。ほぼベストメンバーといっていいマインツが、4部のSpVggウンターハヒンクと3−3の撃ち合いを演じ、PK戦で辛うじて勝利している。

 ドイツのカップ戦でも、格上が当たり前のように苦杯をなめているのだ。延長戦やPK戦の末に1部のクラブが生き残った、というゲームも少なくない。

シーズンが深まるにつれてリーグ戦の重要度が増す。

 一発勝負のカップ戦は、格上クラブにシビアだ。

 かつてのJSLや現在のJクラブは、勝って当然という認識に包まれてピッチに立つ。全身を縄で縛られているかのようなメンタリティだろう。それに対して格下チームは、失うものがない。過度の緊張に襲われることがなく、伸び伸びとプレーできる。

 天皇杯に出場するJクラブには、心の重りがもうひとつあるのではないか。

 J1のリーグ優勝やACL出場を狙うにせよ、J1残留やJ1昇格を目ざすにせよ、シーズンが深まるにつれてリーグ戦の重要度が増していく。万全のコンディションと準備でリーグ戦を迎えたいと考えるのは、各クラブに共通する思いに違いない。天皇杯を軽視しているわけではないが、それ以上に獲り逃してはいけないものがJクラブにはある、というのが率直なところではないだろうか。

「天皇杯で負けたチームからオフになる」歪みの解消を。

 とはいえ、Jクラブに前向きな変化もある。

 J1リーグが2ステージ制だった昨年、一昨年の天皇杯は、4回戦終了後に1カ月以上のインターバルがあった。J1リーグのチャンピオンシップ(CS)とクラブW杯があったためである。天皇杯で準々決勝まで勝ち残りつつもCSに無関係のクラブは、シーズンオフに突入したクラブをうらやましく眺めながらトレーニングを続けざるを得なかった。

 シーズンオフ突入の足並みが揃わない不均衡は、緩やかではあるものの是正された。今シーズンのJ1は12月2日が最終週となっており、この時点で天皇杯は準々決勝が終わっている。ベスト4入りすれば、チーム強化費という名の賞金を得ることも決まっている。優勝すれば1億5000万、準優勝なら5000万円を獲得できる、3位にも2000万円が支給される。シーズン終了が先延ばしになっても頑張れる価値を、はっきりと見出すことができるわけだ。

 天皇杯決勝を元日に行なうことを恒例とし、Jリーグのシーズンが春秋制である以上、「天皇杯で負けたチームからオフになる」という歪みは解消されない。それが大会序盤の波乱の導火線になっているとしても、大切なのは最終的な着地点を間違わないことだろう。

天皇杯を多く獲得しているG大阪、鹿島の経験値。

 Jクラブが序盤で姿を消すことがある一方で、昨年も一昨年もJ1のクラブがベスト8を独占している。2014年はJ2の3クラブが8強に食い込み、このうちモンテディオ山形が決勝へ進出したものの、J1のガンバ大阪がカップを掲げた。

 天皇杯での上位進出とJ1残留(あるいはJ1昇格)を天秤にかければ、クラブの思いが後者へ傾くのは避けがたい。そのうえで言えば、天皇杯も国内3大タイトルであり、ACLへ連なる大会であるということだ。国内最古のカップ戦としての権威はもちろん、天皇杯をつかむ意味は1億5000万円の賞金にとどまらない。

 2014年にJ1リーグ、リーグカップ、天皇杯の国内3冠を達成したガンバ大阪は、過去10年の天皇杯で最多4度の優勝を飾っている。国内3大タイトルをもっとも多く獲得している鹿島も、3度の優勝を記録している。

 タイトルは選手を、チームを、高みへと導く。リーグ戦でもカップ戦でも、頂点を極める歓喜は飽くことが無い。

 だからこそ、強豪と呼ばれるクラブはリーグ戦に負けない熱量を天皇杯にも注ぐ。新しいタイトルがクラブの足元を逞しくすることを、経験として理解しているからだ。

 3大タイトルのなかでもっとも優勝するのが難しいのは、実は天皇杯かもしれない。リーグ戦やリーグカップよりエクスキューズが多い一方で、3大タイトルでもっとも多くの熱量を注げなければつかめないからである。

文=戸塚啓

photograph by Kyodo News