「僕らはこのために半年間やってきた」

 インターハイ3回戦・前橋育英vs.青森山田の試合後、勝利を収めた前橋育英のCB角田涼太朗はこう口を開いた。

 前橋育英にとって、青森山田は特別な存在だった。今年のチームは、練習や試合で少しでも覇気の無いプレーを見せた時、山田耕介監督から必ずこう活を入れられていた。

「青森山田だったら、もっとやっているぞ!」

「こんなんだから青森山田に0−5で負けるんだ!」

 昨年度の高校選手権決勝。多くの観衆で埋まった埼玉スタジアムで、彼らは青森山田に0−5と完膚なきまでに叩きのめされて準優勝に終わった。そのピッチにはDF松田陸、角田涼太朗、渡邊泰基、後藤田亘輝、MF田部井涼、田部井悠、FW飯島陸の7人の2年生が立っていた。

 彼らが3年となり、新チームは「打倒・青森山田」と「日本一」を掲げてスタートした。昨年の主軸が残り、渡邊が新潟に内定し、松田もプロ入り確実、角田もプロ入りの可能性があるなど、全国屈指のタレント集団として強豪ひしめくプリンスリーグ関東の上位を走っている。

田部井「青森山田の名前が出ること自体が問題」

 だが彼らの心の中には、いつもあの敗戦と、青森山田の存在があった。

「僕はあのピッチに立っていたので、悔しさは凄くある。失点にも絡んでいるし、青森山田の言葉を出されると、やっぱりスイッチが入ります」

 左サイドバックの渡邊がこう語ると、田部井悠も「監督に『青森山田が〜』と言われ続けているのは、まだ自分たちに問題があると言うこと。青森山田戦の負けは絶対に忘れてはいけないことだし、教訓として生かさなければいけないことだからこそ、言われなくなるまで僕らが強くならないと」と、青森山田の名前が出ること自体が問題と、状況を厳しく客観視している。

 その相手に、早くも公式戦でリベンジを果たすチャンスが訪れた。インターハイの組み合わせが発表され、順当に勝ち上がれば3回戦で激突することになったのだ。

決戦の朝、選手権決勝の映像をあえて見直す。

「3回戦が1つの山。もちろん目標は日本一ですが、3回戦で青森山田を叩いての日本一じゃないと意味が無い」(田部井涼)

 この時から、全員の目の色が変わった。そしてインターハイが開幕すると、初戦の三重戦で7−0の大勝を飾り、2回戦の東海大相模戦では先行されるも、後半だけで3点を挙げて試合をひっくり返した。その頃、1回戦シードの青森山田は別会場で大会初戦の東福岡戦を迎えていた。

「3回戦で青森山田と戦うことが目的で、ここにやってきたと言っても過言では無い。昨日のゲームも申し訳ないけど、『青森山田よ、勝て!』とみんなで言っていた」(山田監督)

 その願いが届いたのか、青森山田は東福岡を3−1で下し、3回戦に駒を進めて来た。

 ついに実現したリベンジマッチ。決戦の朝、山田監督は選手達に選手権決勝のビデオを見せた。しかも試合のシーンではなく、試合後の表彰式のシーンだった。

「青森山田が優勝カップを掲げるシーンをピッチから眺めているシーンがフラッシュバックをしてきた。スイッチが入りました」(田部井涼)

「あの悔しさが鮮明によみがえってきた。もうあんな想いはしたくない、勝ちたいと心から思えた」(田部井悠)

先制点を奪われても、2点は与えない。

 モチベーションを最高潮に高め、臨んだ決戦の時。だが、青森山田がいきなり牙をむいた。開始早々の5分、GKからのロングキックをMF郷家友太にヘッドでそらされ、MF田中凌汰に中央を突破されて、青森山田に先制ゴールを許す。試合はそこから、勢いに乗った青森山田ペースとなった。

 しかし、前橋育英はある決意を共有していた。それが「選手権決勝の教訓」だった。

「決勝ではそこからあっさりと追加点を獲られてしまった。追加点を奪われるとキツいと言うのは分かっていたので、もう一回締め直して、気持ちを入れた」(松田)

「先制点を奪われたことはもう仕方の無いこと。でも、2失点目は絶対にない。選手権のようなことになってはいけない」(渡邊)

 チームで改めてその想いを共有し、DF陣がゴール前の最後の場面で身体を張る。前半30分まで続いた青森山田の時間をしのぎ、決定機を作らせなかった。

待ちに待ったセットプレー一発で同点に。

「しのげばどこかでチャンスは必ず来る。特にセットプレーは自信があるので、セットプレーに持ち込んで点を獲るチャンスを作り出す狙いだった」と渡邊が語ったように、我慢を続けた結果、その時はやってきた。

 31分、田部井悠の左CKをファーサイドで渡邊が高い打点のヘッドで折り返す。これを角田が冷静にボレーで蹴り込んで、同点に追いついたのだ。

 直後の35分には、青森山田に左サイドを崩されて決定的なチャンスを作られるが、ゴール前でボールをフリーで受けたMF壇崎竜孔のシュートを、「ここで決められたら、また決勝と同じ展開になると思った。冷静にコースを切って反応した」と、GK湯沢拓也がビッグセーブで防ぎ、1−1の同点で前半を折り返した。

 迎えたハーフタイム。山田監督は1−1で引き上げて来た選手達に、冷静かつ熱烈な言葉を送った。攻守において具体的な指示を出した後、選手達に向かってこう言い放った。

「今の相手がどんな相手かは、みんなが一番分かっているよな。勝たなきゃいけない相手。あと35分(インターハイのハーフの試合時間)だぞ、次の試合のことは考えなくていいからやりきれ!」

 選手とともに屈辱と悔しさを味わった指揮官の言葉は、魂となって選手に乗り移った。

後半から一気に攻め手を強め、3−1で勝利。

 後半開始のホイッスルと同時に攻撃のスイッチを入れた前橋育英が猛攻を仕掛ける。後半早々の37分には左CKから逆転ゴールを挙げ、さらに攻め手を強める。

 渡邊が左サイドを制圧し、田部井涼と塩澤隼人のダブルボランチがテンポ良くボールを配球。2年生FW榎本樹と、ハーフタイムに投入された飯島が果敢に裏を狙って、青森山田ゴールに迫った。

 60分には左サイドをドリブル突破した渡邊の折り返しをニアで榎本が蹴り込み、試合を決定付ける3点目。後方では昨年のレギュラーが全員残った4バックが最後まで堅い守りを見せ、青森山田の反撃を許さなかった。

 3−1のまま試合終了のホイッスルが鳴り響いた瞬間、前橋育英の選手達は喜びを爆発させた。

 冬のリベンジを、夏の宮城で成就させた前橋育英。試合後、リベンジ達成の喜びに溢れているかと思いきや、選手たちは冷静だった。冒頭の「この勝利のために半年間やってきた」という角田の言葉はこんな風に続くのだ。

角田「選手権で勝ってこそ本物だと思います」

「でも、選手権で勝ってこそ本物だと思っています。ここで勝ったのは大きいですが、選手権で負けたら意味が無い。この勝利の先は、まずはインターハイ優勝をして選手権はチャレンジャーとしてではなく、王者として臨んでそこでも青森山田を下す。そのために費やしたい」

 他の選手も同じ気持ちだった。

「あくまで僕たちの目標は日本一。この勝利で気を抜くこと無く、最後まで勝ち抜きたい。それに本当のリベンジはやっぱり選手権の舞台で果たしたい」(渡邊)

 これですべての物語がフィナーレを迎えたわけではない。さらに続きがある。

 当然、青森山田も夏のリベンジを目指して強化のスピードを早め、選手権での再戦が決まったら、全身全霊で挑んでくるだろう。山田監督が青森山田の名前を口に出してチームに刺激を与えたように、青森山田の黒田剛監督も前橋育英を意識して、チームに刺激を与えるだろう。

 この“宮城決戦”は両チームの因縁をさらに深めたことになる。

 これから先も、彼らが練習や試合で緩んだプレーや態度を見せたら、山田監督の口からは再びあの言葉が出てくるだろう。

「青森山田だったらもっとやっているぞ!」

 そしてその言葉にこう付け加わるに違いない。

「このままではリベンジされてしまうぞ!」と――。

文=安藤隆人

photograph by Takahito Ando