スポーツ現場でよく聞く言葉がある。

「メンタルが弱い」「あの選手は大事なところで弱いんだよな」とか、「メンタルが弱いから結果がついてこない」といった声は、どんな競技でも頻繁に聞こえてくる。

 では「メンタルが強い選手」とはどんな選手を表すのか。

 そもそも世界の舞台に立っているのだから、フィジカル的にもメンタル的にも弱い選手はいないはずだ。国内の熾烈な戦いを乗り越えてきているし、実力的にも十分に戦える選手が世界大会に立っているのだから。

 今回のブダペストで行われた水泳の世界選手権でもそうだったが、ベストの結果を出せた選手、出せなかった選手の何が異なるのだろうか。

 私は、結果を出す選手たちはどのようにレースに向かい、何を実行しているのかについて純粋に知りたいと思った。私も現役時代に何度も世界大会の決勝という舞台に立っているが、自分の前でトップを泳いでいた選手たちのことをもっと知りたいと思ったのだ。

 オリンピックの舞台で戦う選手が、その競技の卓越したセンスや才能の持ち主であることは容易に想像がつくが、最終的に結果を残す選手がどんな選手なのか、ということでもある。

精神的な強さを示す「メンタルタフネス」。

 結論を一言で言うと「人間的に素晴らしい選手」「感謝の気持ちを表現できる選手」こんな選手が結果を出すケースが多いが、私が研究のメインにしたのは、「メンタルの強さとは」という疑問だった。メンタルについて、エビデンスベースで究明したいと感じて、早稲田大学、順天堂大学で研究してきた。

 調べていく中で、メンタルが強いというのは心理学的な言葉で言うと「メンタルタフネス」ということが分かった。

 様々な視点を検討した結果、「Psychological Strategy」や、「Psychological Preparation」などを経て、最終的に精神的な強さを示す「メンタルタフネス」という概念に辿りついた。

 しかしこの分野の先行研究を整理していると、日本での文献は数が少ない。海外の研究成果を探していくと、スポーツにおいて、このメンタルタフネスが競技力向上にとって重要であると示す結果が数えられないほど見つかった。中には「メンタルタフネスは、競技力向上に最も重要である」と結論付けているものさえあった。

 対象の競技を野球やサッカーに絞り込んだものでも、スポーツ全体としたものでも、傾向は同じだった。

メンタルタフネスを計る尺度を作りたい。

 私自身も、最高の考え方に出会ったと確信した。

 世界選手権やオリンピックでメダルを獲る選手にある「メンタルタフネス」をなんとか数字で計る方法はないものか。そんな疑問から、研究テーマは「エリートスイマーのメンタルタフネス尺度開発」というものになった。

 日本人スイマーを対象として、メンタルタフネスとはどんな項目で構成されているのか、というのが主な内容だ。

 私が作った項目をまとめると、(1)強靭な精神(2)競技コミットメント(3)心理的コンディショニング(4)セルフコントロール(5)レジリエンス(精神的回復力)という5つがメンタルタフネスの重要な要素になる。

 特に注目すべきは、心理的コンディショニングだ。その中でも「試合に向けて、調子を上げることができる」という項目が競技結果に大きく影響することがわかった。

メンタルタフネスは後天的にも作れる。

「自分ならばできる」と思える気持ちを表す、セルフエフィカシー(自己効力感)とも関連する項目だ。

 要するに、「レースでこういう泳ぎをして、このように目標を達成できる」という心理状態に自分を置けるかどうかが、結果に大きく影響しているのだ。

 いかに自分を信じられるか、というところに最後は行き着くのかもしれないが、1つの概念を紐解いていくだけで、数々のことが明らかになる。

 フィジカルと同様、メンタルもトレーニングすれば強くなるのだ。今後、トレーニング方法がさらに構築されていくことを心から願う。

 最後に、メンタルタフネスの定義では先天的にも後天的にも構築できる心理的スキルだと言われている。自分は弱いと感じている選手も強い選手になれるのだ。

 少しでも現役でこれから頑張る選手の助けになればと思う。

文=伊藤華英

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