もうすぐ、世界陸上ロンドン大会。筆者も長距離・マラソンの解説者として現地に赴く。

 大会の注目は、もちろんウサイン・ボルト(ジャマイカ)だ。

 現役最後のレースとなるスーパースターが、世界のファンへどんな走りのメッセージとパフォーマンスを残してくれるか。想像しただけでもワクワクする。

 ボルトが世界で注目されはじめたのは2007年大阪世界陸上200mの銀メダルである。それ以来、10年間世界のトップを走り続けた。

 この間、オリンピックと世界陸上で金メダルを量産し、世界新記録も連発した。

 圧倒的なレース内容で勝利した後、天に向かって弓を引くおなじみの「ライトニング・ボルト」ポーズも、世界中の子供が真似をするほど有名だ。

 昨年の夏リオ五輪でも同様だった。

 ボルトが登場したとき、数万人のスタンディングオベーションがスタジアムを埋めた。ライバルでさえ畏敬の念で彼を迎えた。まさに別格なのだ。

 これほどまでファンを魅了し続けたアスリートがかつて存在しただろうか。

 引退は惜しまれるが、ラストランをしっかり目に焼き付けておきたい。

100mは多士済々だが、中長距離がゼロに。

 そしてもう1つの注目は、日本の男子短距離陣である。

 リオ五輪のリレーで銀メダルを獲得した男子短距離チームに、サニブラウン・アブデルハキーム(東京陸協)、多田修平(関西学院大)の若い新メンバーが加わった。

 日本人初の100m9秒台とリレーでのメダルが期待される。

 一方で、個人的に残念なことがある。障害走を除いて日本男子の中長距離出場者がゼロになったことだ。

 日本選手権の10000mで圧勝した大迫傑が、ホクレンディスタンスチャレンジ網走大会で、今期まだクリアしていなかった参加標準記録突破にチャレンジした。

 しかし、わずか1秒65届かずに代表権を獲得できない結果に。

世界の戦いを肌で知る機会を失ったのは大きな損失。

 前回2015年の北京大会では、村山謙太、村山紘太(旭化成)、大迫傑(ナイキオレゴンプロジェクト)設楽悠太(Honda)、鎧坂哲哉(旭化成)の5名が参戦した。

 誰も参加標準記録に達しなかった結果なので仕方ないが、ペースチェンジが激しい世界のレース展開や初心者を飲み込んでしまう大会の雰囲気をリアルタイムの肌感覚で知るのは大切なことである。

 それが実体験できる世界大会は、4年に1度のオリンピックと2年に1度の世界陸上しかない。

 チャンスを一度でも逃すと、国内の駅伝などがモチベーションの中心になりがちだ。「井の中の蛙」になってしまうことだけは避けたいが、3年後の東京五輪に向けて心配な状況ではある。

なんとマラソンが同日開催に。

 ところで、ロンドン大会では、マラソンが男女同日レースとなった。

 これまでの世界陸上のマラソンは、男女で約1週間の開きがあった。

 夏のフルマラソンゆえ、涼しい早朝スタートという選手の健康面への配慮と、テレビ視聴率への影響を考慮してのタイムテーブルだと思う。

 ロンドン大会のマラソンは、男女とも大会3日目の8月6日。スタート時間は、男子が、午前10時55分、女子が、午後2時ちょうどだ。

 8月の日本でもしこの時間にマラソンを実施したら、地獄のような暑さだろう。

 しかし、夏でもエアコンが必要ないといわれるロンドンは違う。天気予報によると、8月6日の気温は13〜21度。まるで早春のレースだ。

 男子は、トラックの王者からマラソンに参戦中のケネニサ・ベケレ(エチオピア)。

 そして、女子はリオ五輪銀メダリストのユニス・ジェプキルイ・キルワ(バーレーン)を中心に、かなりの高速レースになるだろう。

今回のスタート地点はタワーブリッジに。

 コースもロンドンオリンピックの時とは少し変わった。

 テムズ川に沿って走る周回コース、そして、ロンドンの中心にある観光名所を回ることは、2012年ロンドンオリンピックの時とほぼ同じ。

 しかし、スタートとフィニッシュ地点が違う。

 オリンピックの時は、イギリス王室の象徴であるバッキンガム宮殿だった。衛兵交代式でも有名な観光名所だ。

 そして、今回の世界陸上は、ロンドン観光もう1つの定番スポット、タワーブリッジがスタート、フィニッシュになった。

 日本のファンは、マラソンを1日に2度、連続してテレビ観戦することになる。

 野球にたとえると先攻は男子。後攻が女子だ。

 先攻の男子がもしアフリカ勢にやられても、後攻の女子が仇を取ってくれるか。

 かつてない面白さになると思う。

 マラソンは沿道リポート担当なので、現地の醍醐味をしっかり伝えたい。

文=金哲彦

photograph by AFLO