これが読まれる頃には白黒ついている可能性も高い、ネイマールの件である。

 2017年夏最大のトピックとなるのは間違いない今回の騒動は、7月17日の『スポルト』紙と『マルカ』紙の記事(前者の見出しは「ネイマール、バルサは居心地悪い」、後者は「ネイマールに移籍の可能性」)から始まった。

 翌日、ブラジルのサッカーサイトが「ネイマール、PSGのオファーを受け入れる」とスクープすると、寝耳に水のバルサ副会長は「200%ここに残る」と移籍を完全否定。フランスのメディアも同様に反応し、中でも大手『レキップ』紙は昨年ネイマールがPSGとの交渉を利用してバルサでの年俸アップを勝ち取ったことに言及し、PSG関係者の次のコメントを掲載した。

「ネイマールのショーはもうごめん。違約金は非常に高額だし、(獲得は)現実的じゃない」

 ところが、代理人を務めるネイマールの父を追ったカタルーニャラジオが、PSGが彼に約束した“成約ボーナス”の莫大な額を報じると風向きは移籍寄りに。その後ピケがネイマールと撮った写真に「残る」と付けてSNSに投稿するも、あくまでピケの願望であって、ネイマール本人は口を閉ざしたまま。それがまた移籍の信憑性を高めた。

ネイマールがPSG行きを望む理由は、やはりお金?

 こんな状況にあってネイマールが自分の意志を明らかにしないのは、昨年の契約延長時、バルサが代理人(父)に約束した2600万ユーロ(約34億円)を確実に引き出すためと受け止められた。このボーナスの支払期限は去る7月31日だった。

 ところで、ネイマールにPSG行きを望む理由はある。

 ひとつは身も蓋もないが、お金だ。

 バルサでの年俸は、少なくとも2021年までは手取りで1500万ユーロ(約20億円)。前述のとおり、PSG移籍が噂された昨年夏にバルサと合意して10月下旬にサインした額で、チーム内ではメッシに次ぐ高給である。

 しかし今回PSGは、その倍額で2022年までの5年契約を彼にオファーしたとされている。加えて、受け取るのは父親ではあるけれど、くだんの成約ボーナスだ。サントスからバルサに加入した際にネイマール父は4000万ユーロ(約52億円)を受け取ったそうだが、PSGの提示額はこれを上回るという。

クライフが予言していたメッシとの共存不可能性。

 もうひとつは、チームの絶対的エースになることだ。

 史上最高の選手ともいわれるメッシが君臨するバルサでは、どれほど活躍したところでナンバーワンにはなれない。2010年のイニエスタやシャビのように、バロンドール賞には手が届かない。

 振り返ると、バルサのネイマール獲得が決まったとき、故ヨハン・クライフは「鶏小屋ひとつに雄鳥二羽は収まらない」と警告を発した。時が流れ、ピッチの上でメッシとネイマールの連係が機能するに従い、これを冷笑する人は増えていったが、天才が予見していたのは現在のこうした事態なのだ。

290億円の違約金をPSGが「払う」と決断。

 ネイマール流出の危機を前に、バルサは自ら築いた高い防御壁を信じていた。

 7月1日を境に2億ユーロから2億2200万ユーロ(約290億円)に跳ね上がった違約金のことである。たった1人の獲得にこれだけ払うのは馬鹿げているし、赤字に繋がる過剰な支出は、UEFAのファイナンシャルフェアプレイ(FFP)規定で抑制されている。

 それでもPSGは「払う」という決断を下し、FFPというハードルを飛び越えるべく知恵を絞ってきた。たとえばPSGのケライフィ会長が持つカタール・スポーツ・インベストメント社にネイマールを2022年W杯のイメージキャラクターとして採用させ、3億ユーロ(約390億円)の報酬を払わせ、ネイマールに違約金を負担してもらうというシナリオだ。

 フランスのBFTVがFFPクリアの条件に挙げたように、2018年1月30日までに複数の選手を売り、1億110万ユーロ(約143億円)作る覚悟だってあるのだろう。ベッラッティをバルサに譲り、ネイマールの“移籍金”の額を交渉するという奥の手さえ用意しているかもしれない。

ネイマールは第2のフィーゴになってしまうのか。

 ちなみに、違約金には日本の消費税に当たる付加価値税や所得税(クラブに代わって選手が収める場合)がかかるので、PSGが払う総額は2億2200万ユーロでは済まないという見方もある。

 しかし2002年に元ブラジル代表FWロナウドがインテルからマドリーへ移籍した際、リーガが国税庁に問い合わせたところ、違約金は「報償金」として扱われるため税の対象にはならないという回答を得ている。

 実際、2012年のハビエル・マルティネスの入団に際し、バイエルンはアスレティックが定めた違約金4000万ユーロしか払っていないので、PSGも額面通りでいけるはずだ。

 それにしても、バルサファンは裏切られたという思いで胸がいっぱいになっていることだろう。ほんの少し前、米国ツアーでユベントスやマンチェスター・ユナイテッド相手にゴールを決めてくれたヒーローが踵を返して出ていくなんて――。

 ネイマールは第2のフィーゴとみなされるのだろう。PSGがカンプノウに来ることになったら、指笛が盛大に吹かれ、「金の亡者!」や「傭兵野郎!」などと書かれた幕が大きく広げられるに違いない。

 ネイマールが選んだ道はプロとしては正しい。けれど、ファンの気持ちもよくわかる。

文=横井伸幸

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