それは実に、鮮やかなゴールだった。

 7月29日の清水エスパルス戦、前半42分のことである。山中亮輔が高速クロスを上げると、タイミングよくボックス内に入ってきた天野純が左足でうまく合わせて決めたのだ。

「敬真(富樫)が相手DFを引き付けてくれたので、僕のところが空くかなって思って。でも、まさかあんなに速いボールが来るとは思わなかった。ちょっと後ろ気味だったんですが枠に入れようと体が勝手に動いたという感じです」

 ゴールを決めた後、エンブレムにキスをして、2度叩いた。

 今シーズン2点目のゴールは天野にとって特別な意味があったのだという。

「マリノスはずっと僕を育ててくれたクラブなので、この日産スタジアムでゴールを決めるのが夢だった。それが達成できたので感謝の意味を込めてエンブレムを叩きました」

 天野は嬉しそうにそう語った。

ボランチからトップ下に移り、本領を発揮しつつある。

 2014年、天野は順天堂大学から横浜F・マリノスに入団したが、ジュニアユース、ユースとマリノスでプレーしてきており、日産スタジアムはまさに“聖地”だったのだ。

 天野にとって生涯記憶に残るゴールとなったが、本来であればもっと早く決められたゴールでもあった。昨季は第2ステージからトップ下や攻撃的MFとしてプレー。しかし、なかなか決定的な仕事に絡めず、ゴールも決められなかった。後半はケガ人が増えたチーム状況もあり、不慣れなボランチに入ってプレーするようになった。最終的にはリーグ戦11試合出場、ゴール、アシストともに0。攻撃的な選手としては物足りない成績で終わった。

 今シーズンは開幕からボランチとしての出場が続いた。その天野にとってターニングポイントになったのが、13節の清水戦(3−1)だ。トップ下としてプレーし、勝利に貢献。さらに川崎に勝ち、15節のFC東京戦では自ら決勝点となるリーグ戦初ゴールを挙げてチームは3連勝と勢いに乗った。しっかりと結果を出すことでモンバエルツ監督の信頼を得て、トップ下に定着したのである。

攻守両面で「使いたい」と思わせる選手になってきた。

 試合を見ていると「いい選手だな」と感じる。

 頑固で強烈な負けず嫌いだが、整ったルックスと落ち着いた声にギャップがあり、スター性は十分。洗練された優れた技術を持ち、ひとつひとつのパスの意図が明確でムダなプレーが少ない。安全なプレーを好まず攻めのプレーで相手の急所を狙うが、それでいてパスは受け手にとって優しい。フランス人指揮官はトップ下に結果を求める中、「トップ下は点を取らないと評価されない」と欧州ではスタンダードのマインドをしっかり持っている。

 攻撃だけではなく、守備でも手を抜くことはない。先頭を切ってボールホルダーにプレッシャーをかけ、ピンチの時は自陣まで必死に戻る。攻守に運動量が豊富で、試合の流れを変えられる。監督に「使いたい」と思わせる選手になってきている。

 その姿勢はチームメートにも伝わっているようだ。後方支援するボランチの扇原貴宏も天野の才能を高く評価している。

「純は同じ左利きなんでやりやすいですし、アッと驚くプレーを見せてくれる。セットプレーで精度の高いボールを蹴りますし、キックの質が全般的にめちゃ高い。それでいて攻守に泥臭くプレーするんで今のマリノスの攻撃には欠かせない存在やと思います」

扇原、山中、マルティノスら左利きがアクセントに。

 マリノスには天野、扇原に加え、山中、マルティノスと左利きの選手が多く、その彼らが非常に機能している。清水戦では左サイドの2列目にマルティノスが外に張り、同じく右サイドの齋藤学が中に絞るチーム戦術を採っていたので、天野はトップ下でありながら右ワイドに開いてプレーしていた。

 後半は齋藤が左にポジションチェンジしたこともあり、扇原がひとつポジションを上げて、扇原−齋藤−天野という三角形を築き、山中が絡むなど多くのチャンスを作り出していた。モンバエルツ監督は左サイドに左利きを置くのを好んでいるが、このユニットにプラスしてサイドバックの山中が織り成す攻撃は流れが美しく、破壊力も抜群だ。天野のゴールも、山中のクロスから生まれている。

 今はシンプルなサイド攻撃が目立つが、これからコンビネーションをさらに活かしたり、幅を使うプレーが出てくるだろう。そうなれば攻撃の選択肢が広がり、天野の良さがさらに発揮されるだろう。

「俊さんがやってきたことを、自分が求められる」

 今シーズンは開幕から全試合に出場しているが、天野は自分のプレーにも数字にもまったく満足していない。清水戦(19試合目)を終えた段階で2得点3アシスト。序盤は主戦場がボランチだっただけに致し方ないところがあるが、今のトップ下としては、ポジション的な役割を果たせていないと厳しい表情を浮かべている。

「清水戦でいえば相手の守備の選手の間でボールを受けて、自分でターンをしてボールを持って行って決めるという機会がなかった。ワンタッチで決めるだけではなく、そういうゴールも貪欲に狙っていきたい。今の僕の課題は、個人で試合を決められる選手になることなので、そのためにもどんどんゴール前に入って得点に絡みたいと思います」

 決定力を高め、他の選手との「違い」を意識する天野だが、その個性的なプレースタイルは長年マリノスのエースとして君臨した中村俊輔に通じるところがある。

 試合を決定づける仕事を常に意識してプレーしていたエースは今やジュビロ磐田の一員となったが、ジュニアユースからその背中を見つめ続けてきた天野にとって中村は「大きな存在」だ。

「チームが優勝するにはトップ下の選手が違いを生み出さないといけない。それは俊(中村俊輔)さんがずっとやってきたことですし、そこが今の自分に求められているところだと思っています。俊さんとは同じ左利きですし、プレーが似る部分がありますが決定的な仕事ができる選手ですのでずっと憧れています。早く追い付きたいですし、俊さん以上にもっと輝きたいなって思います」

「うまいけどね。点取るとか、自分の強みを出さないと」

 天野が入団してきて2年目、中村は「うまいけどね。それだけじゃポジション取れないでしょ。点取るとか、自分の強みを出さないと」と厳しく見つめつつ可能性を認めていた。あれからちょっとずつ成長し、今や中村の系譜を継ぐゲームメーカーになりつつある。今後、より危険な存在になれば相手チームに研究され、マークが厳しくなっていくだろう。

 そうしてうまくいかなくなった時、打開できるか否か。

 かつて中村はそうした壁を乗り越えて成長していったが、天野にはまだそうした大きな壁がない。その壁をひとつ、ふたつと乗り越えていけば中村の背中はもちろん日本代表というステージも見えてくる。天野の「違いを生み出す」選手への道程は始まったばかりだが、今後への期待感は大きく膨らむばかりだ。

文=佐藤俊

photograph by J.LEAGUE PHOTOS