日本全国で19大会にわたって行われている、新日本プロレス“真夏の最強戦士決定戦”『G1クライマックス 27』もいよいよ大詰め。残すは8.8横浜文化体育館と、8.11〜13両国国技館3連戦を残すのみとなった。

 G1といえば、この8.8横浜文体と、最後の両国3連戦がすっかり定着した感があるが、ここ10年間で両国3連戦が行われたのは、じつは2015年から今年までの3年間だけ。2014年は中学生相撲大会開催のため両国が使えず、優勝決定戦を西武ドームで開催。“新日本の経営V字回復”の途中であった2008年〜2013年は、両国が2連戦、もしくは最終戦の1大会のみだった。G1の両国3連戦の復活はここ数年、新日人気が本物になった証と言えるだろう。

 一方、8.8横浜文体は2011年から7年連続で開催されている。両国の前に開催されるこの8.8横浜文体こそ、じつはG1恒例の大会なのである。

1.4東京ドーム、3.6大田区体育館と並ぶ、8.8横浜文体。

 新日本において、毎年同じ日付と会場で行われる大会といえば、1.4東京ドーム「レッスルキングダム」や、3.6大田区体育館の「旗揚げ記念日」、5.3福岡国際センターの「レスリングどんたく」などがあるが、そういった特別なイベント名も付いていない、G1公式戦の1大会でしかない「8.8横浜文体」が恒例となっているのには意味がある。

 その原点は、'88年8月8日横浜文化体育館、藤波辰巳vs.アントニオ猪木のIWGPヘビー級選手権。この伝説的な一戦が行われた「8.8横浜文体」という呼称には、昭和のプロレスファンにとって特別な響きがある。いわば「ストロングスタイル記念日」なのだ。

 この藤波vs.猪木戦が行われた1988年は、新日本にとってどん底の時期だった。エース猪木の衰えもあり、人気下降に歯止めが効かず、この年の4月には初めてテレビ放送がゴールデンタイムから、土曜夕方放送に転落。会場はどこも閑散としており、“冬の時代”と呼ばれていた。

古舘伊知郎が実況に復活した師弟対決は激闘の末……。

 そんな中、藤波は新日本の内部改革のために飛龍革命をスタートさせ、5.8有明でビッグバン・ベイダーを破り、初めてIWGP王座を獲得。一方、猪木は自身がケガで返上したベルトの奪回に動き出し、挑戦者決定リーグ戦に優勝して挑戦権を得たものの同リーグ戦で長州力に初のフォール負けを喫しており、限界説が囁かれた。

 そして迎えた8.8横浜文体では、『ワールドプロレスリング』から勇退していた古舘伊知郎アナも「引退試合は必ず実況する」という猪木との約束を守るべく、一夜限りの復活。初めて猪木が挑戦者となった“最後の師弟対決”は、「猪木引退」という意味合いも含みながら行われたのだ。

 ここで猪木と藤波は新日ストロングスタイルの真髄とも言える試合を展開する。稀代の天才レスラー2人が持てる技術と気力を全て出し尽くすと、時間はあっという間に過ぎていき、結果は60分時間切れ引き分けとなった。

 決着はつかず、猪木が引退することもなかったが、旗揚げ以来共に新日本を支えてきた師弟が繰り広げた名勝負はファンの感動を呼び、どん底だった新日本に光を与えた。そして、この昭和・新日本プロレスの“最終回”のような闘いを経て、'90年代のドームプロレス黄金時代へと向かっていくこととなる。

 こうして「8.8横浜文体」は、特別な意味を持つようになったのだ。

今年のメインイベンター、鈴木みのるは29年前を知る男。

 ここ数年、「8.8横浜」のG1公式戦で、棚橋弘至vs.鈴木みのる、オカダ・カズチカvs.鈴木みのる、棚橋弘至vs.柴田勝頼など、“ストロングスタイル”を感じさせるカードが組まれているのは、偶然ではないだろう。

 そして今年の8.8横浜文体。メインイベントで組まれたのは、オカダ・カズチカvs.鈴木みのる。

 横浜出身の鈴木にとって、文体は特別な意味のある場所だ。ファン時代に初めてプロレス観戦した会場であり、プロレスラーとしてデビュー戦を行った思い出の地でもある。そして何より、あの藤波vs.猪木が行われた伝説の'88年の8.8横浜文体で、第1試合を務めたのが、まだデビュー2カ月足らずの新人「鈴木実」だったのだ。

8.8横浜文体のメインを制すればG1決勝へと近づく。

 あれから29年。鈴木は再び8.8横浜文体のリングに上がる。今度はメインイベントで。相手はIWGP王者オカダ・カズチカ。鈴木にとっては、今年2月5日に札幌で敗れたリマッチ。前回は、関節技地獄でオカダを追い込みながら、40分を超える死闘の末、逆転負けを喫している。

 IWGP王者に一矢報いるため、今回はどんな策を練ってくるのか。

 過去3年、この8.8横浜文体のメインで勝利した選手が、いずれもG1優勝決定戦進出を果たしているというデータもある('14年:オカダ=優勝、'15年:棚橋=優勝、'16年:後藤洋央紀=準優勝)。今年もオカダvs.鈴木の結果が、G1優勝戦線を左右することになるのは、間違いないだろう。

「8.8横浜文体」は、いまだ特別な磁場であるのだ。

文=堀江ガンツ

photograph by AFLO