グシャリ、という濁った音を残し、ボールがスタンドへと吸い込まれていく。ホームランを「快音」と表現する機会は多いが、山川穂高の本塁打の場合は「快い音」というより、耳慣れない奇妙な音だ。

 中村剛也、浅村栄斗、森友哉などフルスイングを売りにするバッターが多い埼玉西武ライオンズの中でも、山川の打球は一際強烈で、えげつない。

 5月、二軍戦に出場している際には、山川のホームランが外野フェンスに張られた防御ネットを軽々と越え、球場の奥にある選手寮のサッシを直撃。8日間で、立て続けに3枚の窓ガラスを破壊した。

「入団してから寮の窓ガラスを割ったのは、トータルでは5枚くらいですけど、寮の横に停めてあるコーチや先輩の車にぶつけたときは焦りましたね」

 愛嬌たっぷりの笑顔で語るが、その人並み外れたパワーを、現在は一軍でいかんなく発揮している。

則本から2本を含む、3打席連続ホームラン。

 59年ぶりの13連勝を記録し、1位のソフトバンクホークスとのゲーム差を一気に縮めたライオンズだが、チームに勢いをもたらしているのが山川のバッティングだ。8月に入ってからの打率は5割ちょうど。4本塁打で実に14打点を叩き出している。

 不振のメヒアに代わり山川がスターティングメンバーとして出場したのが7月26日のことだった。当初はノーヒットに終わる日もあったが、連勝を続けるチームとともに山川もぐんぐんと調子を上げる。

 圧巻だったのは8月2日の東北楽天イーグルス戦。日本球界のエース、則本昂大から2打席連続の本塁打を放ちノックアウトすると、続く第4打席目もレフトスタンドへと豪快に運び、3打席連続の本塁打で観客の度肝を抜いた。

入団当初から「おかわり2世」と呼ばれた長打力。

 入団当初から「おかわり2世」と呼ばれ、その長打力には大きな期待を寄せられてきた。しかし、長距離砲の多いライオンズでは、そう簡単には出番は巡ってこなかった。昨年はシーズン半ばになってやっと出場試合が増え、49試合に出場。山川の能力を思えば物足りなさが残るシーズンだった。

 それでも、覚醒の片りんは見せていた。49試合で放った本塁打数は14本。およそ3試合に1本のペースである。山川は昨年をこう振り返る。

「昨シーズンはまず、開幕から野球をしていると言えるような仕事ができていなかったことが悔やまれます。シーズンの終盤、チームが4位、5位という位置にいるときに、試合に出していただけるようになった。試合に出られたことは収穫ですけど、上位を争っているときに出場するのとでは当然、プレッシャーが違うと思います。もし、優勝争いのプレッシャーの中で、昨年の本塁打数が記録できたら胸を張れるんですけどね」

ようやく見つけた、精神的に崩れない方法。

 今シーズンもスタートは出遅れた。しかし、昨年までの山川とは一味違う。8月5日のソフトバンク戦、延長で敗れはしたものの9回裏、相手の抑えのエース、サファテから同点のタイムリーヒットを記録した。

「すごいボール球。でもなんでも振ってやろうと思った」と語る打球は三遊間をしぶとく抜いて、同点に追いつくタイムリーヒットとなった。

 この日、6番に入った山川は1打席目、2打席目、3打席目と先発の千賀滉大に連続三振に抑えられていた。直後、修正点を見つけるためにベンチ裏で自分の打席の動画を見直した。

「千賀投手が本当に素晴らしいボールを放っていた。もうこれは自分の負けだって、すっきりと割り切れました。そのあと投手が代わったこともあって、よし、ここからまた改めてスタートだって気持ちを切り替えて打席に入ることができました。以前までだったら、たぶん、切り替えられていなかったですね」

 第4打席目は二塁打で出塁。そして第5打席目、ここ一番での同点タイムリーへとつながった。試合の中で気持ちをリセットし、精神的に崩れない方法を見つけたことが好調の大きな要因となっている。

「目標は立てません。今日、明日の繰り返しです」

 もちろん、メンタルだけではなく、技術のチェックも欠かさない。毎日、試合を終えて帰宅すると、湯船に浸かりながら自分の打席の動画を見るという。体の疲れをとりながら、ゆったりとした気持ちで全打席を分析するのが日課となった。好調を維持するための毎日の作業が功を奏している。

 山川の活躍もあり、ライオンズは上位とのゲーム差をじりじりと詰めている。上位争いが続く終盤戦へ向けての目標を聞くと、山川は即答した。

「目標は立てません。今日は終わったので、また明日。その繰り返しです」

 結果を残さなければ次のチャンスはない。そんな危機感が山川の原動力となっている。

 チームにとっては正念場となるシーズン後半戦。山川には相手との勝負と同時に、レギュラー獲得という自分との戦いが続く。

文=市川忍

photograph by Kyodo News