7月27日から8月3日、アメリカ西海岸で開催された「2017 Tournament of Nations」。初開催の今回は、開催国アメリカに加え、ブラジル、オーストラリア、そして日本の4カ国が参加した。

 女子W杯、五輪という世界大会のない年に、強豪国を集めて真剣勝負の大会を開催し、世界大会を勝ち抜くチームを作る。そんなアメリカの狙いもあって始まった同大会は8日間で3試合、シアトル、サンディエゴ、ロサンゼルスと1試合ごとに会場を替え、移動も伴う中で進められた。アメリカとしては注目されるプレッシャーがある中で、勝利するということを意識させるなど、個の強化のみならず、代表チームとして、いかに世界大会を勝ち抜くかという強化策も練られていた。

 この大会に臨んだなでしこジャパンは、新戦力が数多く招集された。高倉麻子監督は「新しい選手たちには、代表として自立してもらわないと困る。今しかできないことですし、選手を観察しながらチームを作っていきたい。勝ちたい思い、気持ちを表現できる選手が(代表に)残っていくと思います」と、試合ごとに選手の組み合わせを変えながら大会を戦った。

2敗1分けの戦績に指揮官は厳しい表情で振り返った。

 ただ初戦ブラジル戦は1−1の引き分け、続くオーストラリア戦は2−4、最終戦ではアメリカに0−3で敗れ、2敗1分けで大会を終えた。「経験を積ませる」ことは今大会の狙いではあったが、1勝もできずに大会を終えた。

 この結果を受けて指揮官は「これが現在地、すべてにおいてレベルアップしなければいけない。もちろん進んだ部分はあるけれど、まだインターナショナルマッチのレベルにない。チーム全員でしっかり受け止めて、戦えるようにならないといけない。この経験の中で、足りないと体感したことを、それぞれ取り組んでいってほしい」と厳しい表情で振り返った。

 今は新たなチーム作りの過程にあるが、来年には2019年開催のW杯に向けたアジア予選も控えるなど、時間も限られている。ここからは“経験を積ませる”という段階を経て、いよいよ“結果が出せるチーム”を作り上げることが求められてくる。

'12年U-20W杯の中心メンバー、猶本が味わった悔しさ。

 チームとして1勝もできなかったことはもちろん、強豪を相手に、本来自分ができるはずのプレーができなかったことを悔やんだ選手も多い。

 そんな思いを強くした1人が、猶本光選手だ。

 2012年、日本で開催されたU-20W杯では中心メンバーとして注目を集めた猶本。この大会では3位に終わり、表彰式を悔し涙を流しながら見つめていたのが印象的だった。

 次は、なでしこジャパンの選手として世界で戦い、今度こそ勝つ――。その思いを強くした。

 2011年W杯優勝、2012年ロンドン五輪銀メダルを獲得した当時のなでしこジャパンは、次のタイトル獲得に向けて強化を始めていた。2013年2月には、なでしこジャパンの中堅以下メンバーに加え、メンバー入りを目指す選手たちを招集した“なでしこチャレンジ”、そしてU-19代表、U-16代表が集まり、大分で合同強化合宿が行われた。

 U-20代表でともに戦った数名が“なでしこチャレンジ”に選ばれた一方で、猶本はU-19代表のメンバーとして合宿に参加することになった。

 ある日、U-19代表の練習を終えたときのこと。隣のグランドで行われていた“なでしこ”のトレーニングを見つめ、唇を噛んだ。ともに戦ってきたメンバーが先に目指すところに近づいている様子に、「悔しいです」とつぶやいた。その数カ月後には必ず将来、自分がなでしこジャパンの中心でプレーをしてみせるという決意を語ってもいる。

「まだ今の自分では足りていないということ。でも、待っていてください」

悔しさを募らせた数年間を経て、巡ってきたチャンス。

 なでしこジャパンへの思いをあきらめることはなかった。

 猶本は佐々木則夫監督時代に何度か代表に招集されたものの、定着には至らなかった。高倉麻子監督の体制になり約1年が経ったが、チームは同世代、または年下の選手たちも多く選ばれるようになった。猶本は怪我もあり少し出遅れていたが、ここにきてようやくメンバーに選ばれるようになり、今大会にも招集された。

「今回こそは……」

 アメリカなどの強豪相手に自分の力を出したい。そんな思いで迎えた。

「下を向いて腐っていたら時間がもったいないです」

 しかし、スタメン出場したオーストラリア戦では、前半のみで交代となってしまった。

「できたこともあったけれど、もっとできるはずのところを、どこかちょっと相手に遠慮してしまったところもあったかもしれない。もっと守備から……」

 試合後のミックスゾーンで、冷静に試合を振り返っているうちに、悔しさに涙をこらえることができなくなってしまった。

 涙を流した翌日のトレーニングでのこと。

 現実に向き合って、貴重な代表での時間を全力で励もうとする猶本の姿があった。

「球際、スピード、すべてあのレベルの相手に普通にできるようになること。その先に代表定着があると思います。アメリカ戦には出るチャンスはないかもしれないけれど、大会期間の残り日数を全力で取り組みます。悔しいけれど、これまでもそういう思いをして成長してきました。その先の成長した自分に出会えることを楽しみに前向きにがんばります。このままで絶対に終わらない。もっともっと成長できるし、下を向いて腐っていたら時間がもったいないです。前を向いて、必ずまた戦える自分になってみせます」

 悔しい思いのぶん、更になでしこジャパンへの思いの強さが増した。必ずこの思いが報われる日が来るだろう。

「待っていてください」

 こう目を輝かせて言った、彼女の決意を信じたい。

文=日々野真理

photograph by AFLO