黄色く染まったサポーターの前、柏レイソルの選手たちが歓喜の声を上げている。

 約1カ月ちょっと、4試合ぶりの勝利で3位に浮上。しかも年俸6億円のポドルスキら豪華補強をしたヴィッセル神戸を破っての勝ち点3は、優勝争いに踏みとどまり、新たに勢いに乗る意味でも非常に大きかった。

 試合後、サポーターの前にスタメン、サブの選手全員が出て、日立の旗やのぼりをわっしょいわっしょいと掲げた。神戸戦は「Hitachi Day」だったからだが、その中には細貝萌もおり、チームメイトと一緒に笑顔で日立の旗を持っていた。

「今の柏はベテラン、特にハジ(細貝萌)さんの存在が大きいですね」

 手塚康平ら若い選手からそんな話を聞いたのは、柏が連勝している時だった。

 中谷進之介、中山雄太、中村航輔ら20〜22歳の若い選手たちが躍動し、勝ち続けている中、レギュラーではない細貝の存在が大きいというのだ。

ボランチのスタメンになると思っていたが……。

 細貝は今年3月、ドイツのシュツットガルトから完全移籍で柏レイソルに入団した。

 前チームでは怪我などがあって出番を失い、存在感を示すことができなくなった。そのため移籍を決断し、自分自身の再生と「若い選手の見本になり、いい影響を与えたい」と何かしらの“遺産”を残すために若手が多い柏を選択した。

 ドイツから帰国した時はすでにJリーグのシーズンが始まっていたが、おそらくはボランチですぐにプレーできると思ったはずだ。だが、リーグ戦では20節の神戸戦までスタメン出場がなく、今は試合をキッチリ終わらせるクローザーの役割を果たしている。ドイツで6年間もプレーしていればプライドもあり、「なぜ」と思うこともあるだろうが、細貝自身は「ドイツでもこういう経験(サブ)をしているので難しくはない。自分はまったくブレることなく、自分のできることをやってチームに貢献するだけです」と、不満気な表情をいっさい見せない。

宇佐美も浅野も柏の選手も、細貝に助けられている。

 そうした謙虚な姿勢は、細貝の性格でもある。

 チームのためにという意識が強く、エゴ的なプレーを見せることがない。監督から指示されたことをしっかりこなす真面目なタイプだ。また、非常に面倒見がいい。ドイツ時代は宇佐美貴史、浅野拓磨らの食事など生活面を始め、いろんな面倒を見ていた。宇佐美は「ハジ君は優しくて本当にお世話になった」と感謝していたし、チームメイトだった浅野も「ハジさんには食事を始め、生活面でも支えてもらい、すごくお世話になりました」と、細貝の面倒見の良さに感動していた。

 そうした姿勢や面倒見の良さは柏でも変わらない。

 クラブハウス2階の『ピアノ』で食事をしながら若い選手にドイツの話をしたり、相談に乗ったり、若い選手の兄貴分になっている。また、試合に出らない状況が続いても決して腐らず、文句も言わず、それでいてトレーニングはしっかりこなす。そういう姿勢を見せられた若い選手は、やらずにいられない。細貝は公私ともに存在感を増しているのだ。

大谷の姿勢も、若い選手への影響が大きい。

 細貝以外にも柏には大谷秀和という生え抜きのベテランがいる。

「おじさん扱いされるけど、練習は若い選手と同じメニューをこなしています」と笑うが、ピッチでは自分のプレーを発揮しつつ、彼らがやりやすいように全体をマネジメントしている。

 また、下平隆宏監督が就任した時も、中谷ら若手の主力はユース時代に下平監督のやり方を学んでおり、すぐに監督の目指すサッカーに対応できたが、大谷はそのサッカー習得のために若い選手に教えを乞うた。ベテランでも分からないことがあれば若手に聞き、学ぶ。こうしたことは30歳を超えるとなかなかできないが、やれるところに大谷の凄さがあり、若い選手はそういう姿勢を見ている。

 大谷さんが自分たちに聞いてまで監督のサッカーを理解しようとしているんだから、分かっている自分たちはよりしっかりやらないといけないと思うだろう。もっとも大谷は分からないことを聞くだけではなく、暗に若い選手に俺以上にしっかりやれよというプレッシャーをかけていたりするのだが、そういうベテランと若い選手の関係が非常にいい流れになっている。

鹿島の小笠原、のような存在に。

 こういう選手がいるチームは、負けても簡単には崩れない。

 たとえば鹿島には小笠原満男がいる。小笠原は毎試合出場しているわけではないが、ベンチで若い選手のプレーに目を光らせている。鹿島はいろんな意味で厳しいチームだが、ベテランが背後に控えている緊張感や競争がいいプレーを生み、勝ち点3を積み重ねることができる要因になっているのは間違いない。監督が代わっても鹿島らしくブレずに戦えているのは小笠原らベテランの存在があるからだろう。

 神戸戦、柏のスタメンの平均年齢は24.7歳で、神戸より4.3歳も若かった。

 若い選手が多いチームは、勝っている時は勢いがあるが、負けが続き、勢いを失うと立て直すのが難しくなる。そういう時、ベテランがチームを引っ張ることが求められるわけだが、神戸戦はまさにそういう試合だった。6月25日の札幌戦に勝ってから7月は鹿島、セレッソ大阪に連敗し、仙台戦も1−1のドローに終わるなど、勝利から見離されていた。勝利が必要だった神戸戦では前半、プレスが甘いとみるやキム・ボギョンやディエゴ・オリヴェイラを大谷が前線からのプレスに動かすなどチームをうまくコントロールし、後半に逆転して勝ち点3を獲得した。

 細貝は、「前半、試合の流れがよくなかったけど、後半立て直して勝てたのは大きいし、ポジティブにとらえていいと思います。チームの雰囲気もいいし、これからですよ」と笑顔を見せた。

 今、柏は若手が先頭に立ち、伸び伸びとプレーしている。それが結果につながっているが、それはベテランの大谷、細貝がしっかりと後方支援しているからだ。特に試合に出場できない選手の声や悩みを受け止めている「ハジさん」の影響力と存在感は、同じドイツから移籍してきた神戸のポドルスキも及ばないほど絶大なのである。

文=佐藤俊

photograph by J.LEAGUE PHOTOS