2020年の東京五輪に向けて野球の日本代表、侍ジャパンの稲葉篤紀監督が始動した。

「3年後の東京五輪は国をあげての大会。野球が復活するということで、しっかりと金メダルを取りたい」

 7月31日の就任会見でこう語った稲葉新監督の強みは、国際経験が豊富なことである。

 現役選手としては法大時代の1993、'94年と2年連続で日米大学選手権に出場したのをスタートに、プロ入り後には2007年の北京五輪アジア最終予選で代表入りし、翌'08年の本大会にも出場。'09年には第2回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で4番を任され、'13年のWBCにも出場した。

 また、現役時代から'13年の親善試合などでもコーチに就任しており、引退後には'15年の欧州選抜チームとの強化試合で小久保裕紀監督率いる侍ジャパンの打撃コーチにそのまま就任。その後も、同監督と二人三脚で'17年3月の第4回大会までチームを切り盛りしてきた経験がある。

 おそらく現在のプロ野球関係者ではトップクラスの国際試合の経験を持っている人物と言える訳である。

 しかも本人が「私自身は北京五輪でメダルを取れずに帰ってきた。リベンジしたいという気持ちがずっとあった」と語るように、WBCとは一味もふた味も違う五輪独特の重苦しい雰囲気を経験してもいる。

 その経験値の高さが、稲葉監督に白羽の矢がたった大きなポイントだった。

稲葉監督をバックアップするフロント体制はどうか?

「とにかく金メダルを取ることしか頭にない」

 こう語った新監督の初陣は11月に行われるアジアプロ野球チャンピオンシップ(11月16日〜、東京ドーム)となる。まずはその戦いをファンを含めた我々は見守るしかないが、そこまでにもう1つ、大事なことがあるのだ。

 それは稲葉監督をバックアップし、場合によってはきちっと評価できるフロント体制の確立である。

プレミア12敗退の反省から、強化本部が設置された。

 2015年のプレミア12で優勝を逃した直後に、問題になったのが日本野球機構(NPB)にはサッカーの技術委員会のように、監督を選任し、その監督のチーム作りを支援すると同時に結果評価をする組織がないことだった。

 プレミア12の敗北で、当時にわかに小久保監督の指導力に疑問の声が湧き上がったのは事実だ。だが、当時から侍ジャパン強化委員会(井原敦委員長)はあったが、そもそも代表監督をどこがどういう経緯で任免するのかがはっきりしていなかった。おのずと同委員会では監督の評価をすることもなかったわけである。

 しかもWBCの本大会が迫り、国内組はともかく、海外メジャー組の招集などでは本人との交渉はほぼ監督任せだった。

 結果的にメジャー組から投手の参加はなく、ヒューストン・アストロズの青木宣親外野手(現トロント・ブルージェイズ)しか呼べなかった。

 所属チームや代理人にしっかり根回しをして、責任を持ってチーム作りを支援する。そういうGM的な役割を担う部門と責任者がいなかったことは、今後の大きな課題として指摘されてきたことである。

 そのために3月のWBC後に、侍ジャパン強化委員会の中に強化本部を設置するなど組織的な形は整えたが、結果的には全く機能していないのが実情なのである。

監督は決まったが……。

 稲葉監督の選任でも歴代監督のヒアリング後に強化委員会の幹事会で井原委員長(NPB事務局長)と山中正竹副委員長(全日本野球協会副会長)に一任され、決定過程は不透明なままだった。その結果、最終的にオープンな話し合いも持たれないままに決定されている。

 また監督をサポートするために設置された強化本部は本部長に山中副委員長が就任することは発表されたが、実際に現場を仕切る副本部長2人は決まっていない。

 監督は決まったが、差し迫った問題としてはコーチ人事をどうするかという問題がある。

五輪はベンチ入りできるコーチが少ないという問題が。

 現時点では稲葉監督と親交があり、同年代の日本ハムの金子誠打撃コーチや同じく日本ハム時代の同僚で米大リーグ、テキサス・レンジャーズなどでプレー経験のある建山義紀氏などの名前が取り沙汰されているが、いずれも代表でのコーチ経験はない。

 五輪の場合はベンチ入りできるコーチはヘッド格を含めて投手、野手を担当する3人だけ。そのため1人のコーチの役割が重要で、より多角的な仕事が求められることになる。

 特に投手コーチはブルペン担当もおらず、過去の大会でも継投の準備やタイミングで様々な苦労があった。それだけにコーチ経験のない建山氏の名前が出ていることを疑問視する声が過去の五輪コーチ経験者などから上がっているのも事実である。

強化本部がほとんど機能しないままでの船出に。

 五輪の場合は海外組の招集はなさそうなので、チーム編成にはGM的な役割が必要不可欠というわけではないかもしれない。

 ただ、コーチ人事1つをとってみても、監督と綿密に話し合い、客観的な意見を出し合って、責任を持って調整する役割の人間が現時点でいない。

 組織的には強化本部がその役割を担うはずだが、そこが全く機能しないままの船出となってしまっているわけである。

 東京五輪は参加6チームで、しかもWBCのようにメジャー組は参加しない予定という。

 おそらく本大会に出てきても米国は3Aクラスの選手が主体だ。

 そこに韓国やオーストラリア、台湾などのアジア勢、キューバを含めた中南米のチームとオランダ等が絡んで金メダルを争う形になるようなら、日本も国内組のトップ選手を集めた代表チームとなるところは'15年のプレミア12とほぼ同じである。

アテネや北京での敗北の経験を忘れるな。

 プレミア12では「勝って当たり前」と言われたが、たまたま絶好調な投手と対戦したり、采配を1つ間違えれば、背中合わせの距離に敗北がある。野球は最も「まぎれ」の多い競技であることを証明する大会となったのだ。

 その結果が準決勝で韓国に敗退した苦い経験であり、過去のアテネや北京での五輪の戦いでもあった。

 そういう意味では稲葉監督も野球の怖さ、国際大会の難しさはプレミア12で十二分に味わっているはずで、その経験を踏まえて稲葉流を築きあげていけばいい。

 そのためにプロ、アマ両球界がやらなければならないのは、組織として監督をしっかり支え、野球に専念できる体制を作り上げ、そして最終的な勝利を手にできるようバックアップをすることしかない。

 全て監督任せの時代は終わったはずである。

文=鷲田康

photograph by SAMURAI JAPAN via Getty Images