7月13日のプレシーズン開始から数えて、バルベルデ監督のバルサにおける「ハネムーン期間」が終了した。

 この100日を振り返ると、バルベルデはまるで荒波に翻弄される小舟の船頭だ。

 夏の米国ツアーでユベントス、マンチェスター・ユナイテッド、レアル・マドリーに3連勝するも、帰国したところでMSNが解体。その後のスペインスーパーカップではピケが「この9年間で初めてマドリーに劣っていると感じた」ほどの惨敗を喫したが、ネイマールの代役探しは遅れ、クラブ史上最高額を払ってようやく獲得したデンベレは、チーム合流後1カ月もしないうちにケガで戦線離脱した。

 他方、ソシオの間ではバルトメウ会長に対する不信任騒動が勃発し、バルセロナの中心部で死傷者146人を出すテロ事件が起こり、カタルーニャ自治州の分離独立を問う住民投票の日には社会的大混乱が生じてチームは無観客試合を強いられた。

 バルベルデ自身、特に8月は「大惨事の真っ只中に置かれていた」ことを認めており、100日を総括して「退屈することはなかった。でも次の100日はもう少し静かであってほしい」と冗談にしている。

 それでも現在バルサはリーガの首位。8勝1引き分けで、20チーム中最多の26得点に最少の3失点。CLでも3戦全勝の7得点1失点でグループ首位に立っている。

作り上げた左右非対称のフォーメーション。

 前述の険しい道程を考慮する人はもちろんのこと、結果が全てだからそんなもの関係ないという人も、新監督の手腕には拍手を送るほかないはずだ。兎にも角にも、次から次へと現れる障害を乗り越えながら、バルベルデはバルサを変えた。

 目につくのは、まずボールを持ったときの左右非対称のフォーメーションだ。

 大雑把にいえば4-3-1-2なのだが、「3」の右側を務めるラキティッチが昨年までと比べてピボーテのブスケッツに接近し、左のイニエスタが前寄りのポジションをとっている。「1」のメッシに背後のカバーと最高のサポートを与えつつ中盤の支配を可能にする布陣である。

 またサイドも不均衡で、デンベレを失った左は無人のままSBのアルバやディニュがいつでも駆け上がれるようになっているのに、反対側にはウイングとSBの2人体制が敷かれている。

相手の分析と、試合中の布陣変更も大得意。

 次に、全体がコンパクトになった。これは中盤だけでなくディフェンスの強化にも寄与している。ボールを失った直後に仕掛けるプレスの利きが格段によくなったからだ。加えて自陣への戻りや4-4-2への陣形変更もすみやかになり、ゴール前ではウムティティの快刀乱麻を断つパフォーマンスが際立っているので、守備はかなり安定している。堅い守りはタイトルを狙う上で重要なポイントとなるだろう。

 ところでバルベルデは敵の分析と対応にも長けており、この点に関して選手たちの信頼をすでに勝ち取っているという。

 たとえばリーガ第6節のジローナ戦で、彼はチームの大黒柱にあたるピケとブスケッツを先発から外し、右SBは本職のセメドではなくセルジ・ロベルトに、ウイングは同じく本職のデウロフェウではなくビダルに任せた。CLを控えた一戦だったとはいえリスクを感じさせる決断だが、バルサは0−3で勝利した。

 ポジション変更を伴う選手交替も特徴的で、近いところでは第7節ラスパルマス戦の後半、ウイング役のビダルに替えてイニエスタを入れ、元々中盤にいたデニス・スアレスをウイングの位置に動かし、3得点につなげている。

 さらに第8節のアトレティコ戦では、0−1で負けていた60分にセメドとセルジ・ロベルトを、イニエスタとデウロフェウを入れ替え、それまで右のFWだったアンドレ・ゴメスを中盤に下げてスコアを1−1とした。

非レギュラー組のコンディション維持もうまい。

 選手交替を成功させるには途中から出た選手の期待に応えるパフォーマンスが不可欠だが、これについてもバルベルデの“技”が効いているようだ。

 ラスパルマス戦でプレイしたゴメスやロベルトが続くアトレティコ戦のピッチにも立ったように、彼は非レギュラー組にはたいてい2試合以上続けて出場機会を与えている。選手にとっては、心理面も含めて、コンディション調整が楽になる。

思い切ったメッシへの全権委任も成功。

 最後にもうひとつバルベルデの仕事ぶりで評価すべきは、メッシに対して示す敬意だ。

 象徴的なシーンが見られたのは第4節ヘタフェ戦。負傷したデンベレの代わりに選んだデウロフェウを送り出す際、バルベルデは左サイドに立つよう命じたが、まもなくピッチの上でメッシは右へ行くよう指示した。

 監督ならば腹を立ててもおかしくない。ところが「メッシを中心にプレイが展開されることに我々は喜んでいる」というバルベルデは、これを素直に受け入れたのだ。

 昨シーズン終了後、「メッシを活かし、メッシに活かされる選手をメッシの周りに置くこと」こそがバルサ復活のカギと唱える記者がスペインには複数いた。バルベルデも実際にメッシを配下に置き、その才能を日々目の当たりにする中で、彼を気持ちよくプレイさせることが最重要事項と考えるに至ったのかもしれない。

 いずれにせよ、いまのバルサはメッシを軸に昨季以上にまとまり、機能している。先週バルサTVに出演したバルトメウ会長はバルベルデの100日間について感想を乞われ、「カンプノウとソシオは彼と恋に落ちている」と語った。バルベルデ自身もこれまでの出来には満足しているようで、自ら採点するよう求められた際、「こういうのは高めの方がいい」と前置きしつつ「10点満点」と答えている。

 ただし慢心はない。

「いまは物事がうまく運んでいるから何もかもが素晴らしく、みんな抱き合って祝っているけれど、たった1度のコーナーキックの失敗がすべてを台無しにすることも僕らは知っている」

 指揮官がこの調子なら今シーズンのバルサはまだまだ強くなりそうだ。

文=横井伸幸

photograph by AFLO