GI6勝の戦績を誇る王者キタサンブラック(牡5歳、父ブラックタイド、栗東・清水久詞厩舎)が、今週の第62回有馬記念(12月24日、中山芝2500m、3歳以上GI)でラストランを迎える。

 3歳時の2015年、菊花賞でGI初制覇を遂げ、北島三郎オーナーが「まつり」のキタサンブラックバージョンを初めて歌い、大きな話題になった。

 翌2016年からは武豊を鞍上に迎え、注目度がさらに上がった。「現役最強馬」の看板を引っさげ、天皇賞・春とジャパンカップを制し、年度代表馬に選出された。武は敬意をこめて、この馬を「知らない人のいない、国民的スターホース」と呼ぶようになった。

 今年2017年は、まずGIに格上げされた大阪杯を制覇。次走の天皇賞・春では、不滅と思われたディープインパクトの記録をコンマ9秒も短縮する3分12秒5というスーパーレコードで優勝。さらに、レース史上もっとも遅いタイムで決着した天皇賞・秋を、誰もが驚く追い込みの競馬で快勝し、圧巻の強さを見せつけた。

 ハードなトレーニングとタフなレースをこなしてきたキャリアの集大成が、この有馬記念となる。

初めて1番人気になったのは、実は12戦目。

 今でこそ出れば当たり前のように1番人気になるが、少し前までは、実力になかなか人気が追いついてこなかった。

「人気」というのは、馬券での支持という意味の人気である。初めて1番人気に支持されたのは、昨年の京都大賞典。デビューからなんと12戦目のことだった。それまで11戦6勝2着1回3着3回着外1回という安定した成績で、GIを2勝していたにもかかわらず、本命視されない「実力先行型」だったのだ。

 一番の理由は父ブラックタイド、母の父サクラバクシンオーという血統だろう。ブラックタイドはディープインパクトの全兄という良血だが、重賞勝ちはスプリングステークスだけだった。そしてサクラバクシンオーは誰もが知る名スプリンターだった。

 それゆえ、中・長距離戦線を戦っていくうえでの底力を不安視されていたのだろう。

スーパーレコードはバクシンオーの血ゆえ?

 ところが、3000mの菊花賞を勝ったと思ったら、3200mの天皇賞・春を連覇し、しかもディープインパクトのレコードを更新してしまった。

 突然変異のひと言では片づけられない驚異的な走りで、「血の常識」を吹き飛ばした。

 血統がどうあれ、キタサンブラックという「個」のサラブレッドは、長距離でも恐ろしく強い――という現実を私たちが受け入れるまで、時間がかかってしまった。

 しかしいったん受け入れてしまうと、面白いもので、天皇賞・春のスーパーレコードは、バクシンオーから受け継いだスピードがあったからこそ記録できたのではないか、とも思えてくる。

オグリとディープのラストランで勝った2つの有馬。

 武豊の有馬記念での成績は、26戦して1着2回、2着8回、3着1回、着外15回(2010年の出走取消は除く)となっている。

 2勝は、1990年のオグリキャップと2006年のディープインパクト。どちらも国民的スターホースのラストランだった。

 オグリは、天皇賞・秋6着、ジャパンカップ11着と惨敗がつづき「燃え尽きた怪物」と呼ばれるようになっていた。しかし、武が同年の安田記念を勝って以来の騎乗を引き受け、全盛期の闘志を呼び覚まして優勝。「奇跡のラストラン」として伝説となった。

 ディープは、凱旋門賞で3位入線後失格。帰国初戦のジャパンカップで復権を果たし、引退レースを迎えた。コントロールしやすい馬ではなかったので、勝ってもゲートでつまずいたり、道中掛かったりと、完璧なレースはできずにいた。それがラストランにしてついに完成され、「最強馬のベストレース」を披露した。この有馬記念も今年と同じくイブのグランプリだった。

絶好の1枠2番。「できすぎ」の結末は?

 今や、オグリやディープに匹敵するスターとなったキタサンブラック。

 主戦が武豊、馬主が国民的歌手の北島三郎、調教師が気鋭の清水久詞、生産者が勢いのあるヤナガワ牧場と、オグリのように判官贔屓の心をくすぐる材料はあまりない。しいて挙げるなら、先述した血統面ぐらいか。

「サブちゃんの馬にユタカが乗ってGIを勝つなんて、できすぎだ」とみなが考えたがゆえに「実力先行型」になったのかもしれないが、今は誰もが、表彰台で北島三郎と武豊のツーショットが見られることを期待している。

 はたして、キタサンブラックは、オグリやディープのように有終の美を飾ることができるだろうか。

◎キタサンブラック
○スワーヴリチャード
▲シュヴァルグラン
△サトノクラウン
×ブレスジャーニー

 枠順抽選会で、武が「一番ほしかった」という絶好の1枠2番を引いた。

 最後に中山競馬場で「まつり」を聴きたいという願望こみの印だが、キタサンブラックは、「できすぎ」のシーンを見せつづける特別な力があるサラブレッドだと信じたい。

文=島田明宏

photograph by Keiji Ishikawa