今季のパ・リーグ最多勝に輝いた東浜巨は休まない。おそらく今日もまた美しい海とビーチに背を向けて、トレーニングジムへと歩を進めているのだろう。

 12月はプロ野球選手にとって唯一ゆっくりと英気を養える期間。だが、東浜はハワイで自主トレの真最中だ。年末ギリギリまで滞在する予定だという。

「日本シリーズまで戦って、その後は秋季キャンプにも参加しましたけど、配慮をしてもらって軽いメニューでした。僕の中では、そこで十分に休みました。だから僕にオフは必要ないんです」

 ハワイといえば、先頃までホークスが優勝旅行に訪れていた場所だ。東浜も参加メンバーだった。しかし、チームメイトが海のレジャーやゴルフなどを満喫する中、到着当日の球団主催のパーティーに出席しただけで、2日目にはチームを離れジム通いへとシフトチェンジ。現在もそのまま残って練習を続けているというわけだ。

体がパンパンに張っている方が合っている?

 年末の海外トレーニングは3年連続になる。昨年まではロサンゼルスへの“筋肉留学”だった。今オフはより温暖で、かつ移動などを考慮しハワイを拠点にすることに決めた。

 '15年オフからこの取り組みを始めて以来、東浜は目覚ましい成長曲線を描いている。大きな期待を受けてプロ入りするも3年目まで一軍通算18試合登板で6勝と伸び悩んだが、'16年に9勝をマーク。今シーズンは背番号と同じ16勝で初タイトルとなる最多勝を獲得し、完全に一本立ちしてみせた。

 シーズン中も工藤公康監督からトレーニングの課題が与えられ「毎日が筋肉痛で、先発する日が一番ラクだと思えるくらい」という厳しい日々を過ごした。

 1年間を通して先発ローテーションを守り通したのは今年が初めてであり、長いシーズン中にはトレーニング量を調整した時期もあった。しかし、それは逆効果だと実感した。

「体が軽すぎて、ふわふわして上手く投げられない感じでした。体がパンパンに張っている方が僕には合っているのかもしれません(笑)」

「勝った日は缶ビールを2本、負けた日は3本(笑)」

 今年はとにかく野球漬けだった。「今振り返ると、ちょっとストイックすぎたかな(笑)」と照れながらも、そう言い切れるほど自律したシーズンだった。

「オフのトークショーになると、テーマもプライベートな部分が多くて趣味の話とかになるじゃないですか。それが一番困る。先発のピッチャーってチームとは別に登板の2日後が休みになるんですが、今年に限っては休日に何をして過ごしていたのか覚えていないんです」

 唯一の息抜きは、試合が終わった後に缶ビールを飲むこと。

「勝った日は2本、負けた日は3本(笑)。少しアルコールを体に入れた方がスパッと気持ちよく眠れるんです」

気づけばホークス選手専用の“特別アプリ”で反省会。

 ソファに座り、テレビや映画などを見ることが多いが、気づけば球団支給のスマートフォンに手を伸ばしているという。その中には、ホークスの選手専用の“特別アプリ”がインストールされており、試合当日の映像もすぐチェックできる体制が整えられている。

「気づけば、その日の反省会になっていましたね」

 あまり根を詰め過ぎると良くないのかなと言いつつ、この12月の過ごし方。「このチームは、もう嫌になるくらいの戦力の厚さがありますから」とタイトルを獲得してもなお、危機感が薄れることはない。

「ホークスには尊敬できる先輩もいます。和田(毅)さんは今年リハビリにいることが多かったけど、僕が福岡残留の時に筑後で練習していた時も『この人、本当にケガ人なのかな』と思うくらいの練習をやっていました。デニス(・サファテ)の練習も本当にすごいです」

自主トレは若手投手2人、捕手とともに汗を流す。

 今度は東浜がそれを示す立場なのではと問うと「僕にはまだ早いです」と制されてしまったが、ハワイ自主トレには松本裕樹や加治屋蓮といった若手ピッチャーと、今年一軍デビューを果たした21歳捕手の栗原陵矢もともに汗を流している。

「弟子入りとかではない。松本の方からお願いされたので、いいよ、と。僕自身プロに入って最初の3年間はファーム暮らしでした。二軍で最多勝を獲って、それから一軍に上がって上でもタイトルを獲ることが出来ました。いま二軍で頑張っている選手たちの励みになればいいと思います。もちろん、僕だってウカウカしていられません。それはチームにとってはプラスでしかないことですよね」

ドラフト1位・松本裕樹と東浜は境遇が似ている。

 特に松本裕は、東浜ととても境遇が似ている。

 盛岡大附属高校時代は150km近い快速球を投げていたが、高3の夏に肘を痛めてしまう。ホークスはそれを承知でドラフト1位指名し、1年目は全く試合に投げなかった。3年目だった今シーズンはようやく一軍で出番を増やし、一時先発もして15試合に登板。プロ初勝利を含む2勝を挙げたが、4敗、防御率4.78とパッとする成績ではなかった。

 球速は一時期よりも戻ってきたが、140km台中盤がやっとだ。

 東浜もそうだった。プロ1年目は140km前後のストレートしか投げられず、ピッチングには弱々しさが見えた。投球術はハイレベルだったが、プロで突き抜けるほど活躍するためには力で抑え込むことも必要だった。東浜は地道なトレーニングでそれを克服し、現在は最速150kmを超える。

 松本裕も投球術では、東浜に匹敵する能力の持ち主といわれる。これ以上ない手本となる先輩と過ごす時間は、何よりも財産となるだろう。

 ホークスの未来へ紡がれる常勝の系譜。築かれたチームの伝統がまた積み重ねられていくのを感じさせられた。

文=田尻耕太郎

photograph by Naoya Sanuki