今季のUEFAヨーロッパリーグ(以下EL)前半戦最大のサプライズかもしれない。欧州カップ戦へ27季ぶりに出場しているアタランタが、グループEで堂々首位突破を果たした。

 知名度や実績、資金力ではるか格上のリヨン(フランス)やエバートン(イングランド)を凌駕して、決勝トーナメント進出を勝ち獲った。イタリア北部の小さな地方クラブが欧州全体に与えたインパクトは決して小さくない。

「我々は難しいグループリーグを戦いながら急速に力をつけた。どんなチームであれ、うちを相手にするのは骨が折れるはずだ」

 アタランタを率いて2年目の指揮官ガスペリーニは、望外の快進撃を見せた教え子たちの成長ぶりに目を細める。

 決勝トーナメントの相手ドルトムントも、すでに警戒態勢だ。アタランタ旋風の勢いは広い欧州の舞台でもまだまだ衰えそうもない。

 昨季、国内きっての戦術家ガスペリーニを迎え入れたアタランタは、若手選手を中心にした攻撃サッカーであらゆるクラブ記録を塗り替えながら国内4位に食い込み、27年ぶりの欧州カップ戦出場権獲得という快挙を成し遂げた。

リヨン、エバートンと同組になり期待は萎んだが。

 しかし、本戦グループリーグの抽選会で昨季大会ベスト4の名門リヨンと、FWルーニー復帰で意気上がるエバートンとの同居が決まると周囲の期待は萎んだ。

 キプロス島代表のアポロンはともかく、英仏2クラブは欧州カップ戦の常連であり、経営規模や選手リストの合計評価額でいえば、アタランタが逆立ちしても勝てるはずがない。地元紙からは「これではまるで(レベルが上の)チャンピオンズリーグの組合せだ。突破は困難」と悲観論が噴出した。

 アタランタには、さらにホームスタジアムの難題もあった。地元ベルガモに約90年前に建設された「アトレーティ・アッズーリ・ディターリア」はUEFAの試合開催基準を満たせず、アタランタはホーム3試合を約200km離れたサッスオーロのホーム「マペイ・スタジアム」で“間借り”開催することを余儀なくされた。

 開幕時点でアタランタのUEFAクラブランキングは127位。大会前から予見された逆境に、クラブのペルカッシ会長も「ELより優先すべきはセリエA残留」と明言したほどで、27季ぶりの欧州の晴れ舞台は“思い出作り”の場だと誰もが思っていた。

 ガスペリーニ監督と選手たち、そしてグループリーグ3試合分の“ホームチケット”を即座に購入した1万人のサポーターをのぞいて。

「ゴメス? 誰それ?」に主将がカチン。

 勝負は出足で決まった。

 初戦でエバートンを相手にまさかの3−0快勝を収めた後、アタランタは2節目のリヨン遠征に臨んだ。

 今季のELファイナルを誘致している強豪リヨンは早々と高揚しすぎたのか、エース兼主将のMFフェキルが試合前にアタランタを挑発してきた。

「有名な選手は見当たらないな。(主将の)ゴメス? 誰それ?」

 アタランタを引っ張る主将ゴメスは、昨季の大躍進を担った主役の1人だ。プロビンチャーレ・レベルでは反則級の高い技術レベルを持ち、陽気なダンスでチームのムードメーカーも務める。身長165cmのファンタジスタは物言うタイプの小さな親分だ。

 昨季までの活躍が認められ、今年の6月に29歳と遅咲きながら母国アルゼンチンの代表デビューも飾った。

 だから、5歳年下であるフェキルの「誰それ?」発言にはカチンときた。この世界、相手に舐められたらお終いだ。

「これで奴らも少しは俺の顔を覚えただろ」

 しかし敵地「パルク・オリンピック・リヨン」に乗り込んだアタランタは、アウェーの重圧に圧された。彼らは欧州では新参者同然だからで無理もない。前半終了間際に先制点を許すと、劣勢は明らかだった。

 30間近のベテラン主将とアタランタにとって踏ん張りどころだった。

 57分、ゴール前FKを得たゴメスは短いステップから右足を振りぬいた。低い弾道がゴールに吸い込まれた瞬間、リヨンの主将フェキルは相手の闘志に火をつけた己の失言を後悔したはずだ。

 敵地での値千金のドローがグループEの趨勢を決めた。試合後、ゴメスは「これで奴らも少しは俺の顔を覚えただろ」と胸を張った。初めてプレーするELに小さな親分も興奮を隠さない。

「ELはさ、やっぱりテンションが上がる。どんなに疲れていても、やる気が出てくるんだよ」

攻撃偏重は欧州で通用しないという下馬評を覆して。

 グループEの主導権を握ったアタランタはその後も首位をキープし、5節では敵地ながらガスペリーニ流アタックを爆発させ、エバートン相手に5−1の大勝を挙げて決勝トーナメント進出を決めた。

 リヨンをマペイ・スタジアムに招いての最終節は、首位突破をかけた決戦になった。

 戦術の鬼と化したガスペリーニは、選手の疲労度や戦況に合わせて先発布陣3-4-1-2から3-4-3、4-4-1-1を経て4-5-1へと、3度もシステムを流動的に変更した。攻めの守りで1−0の完封勝ちを収め、グループ首位通過をもぎ取った。

 若手中心の攻撃偏重サッカーは欧州レベルでは通用しない、という下馬評を覆しながら、アタランタはグループリーグ6戦で勝点14を積み上げた。

 実質的に初出場の彼らが、EL本戦出場全48チーム中2番目に多い勝点を叩き出すという快挙を成し遂げたのだ。UEFAクラブランキングは、開幕前の127位から92位にまでジャンプアップしていた。

「私が“(突破は)いける”という手応えをつかんだのは、エバートンとの初戦に勝ったときだ。うちは今、大きな経験と自信を手に入れたよ」

主力をごっそり引き抜かれても、何度でも育てる。

 この年末、ガスペリーニは伊紙『ガゼッタ・デッロ・スポルト』の「コーチオブザイヤー」表彰を受けた。昨季のセリエA4位躍進と今季ELグループリーグ首位通過、戦術的な攻撃サッカーの実現、そして有力な若手の大量輩出実績を評価されての選出だった。

 表彰の際、ガスペリーニは「若い選手たちをじっくり指導できる環境があるからここに来た」と育成王国アタランタの健在ぶりを強調した。

 MFケシエにDFコンティ(ともに現ミラン)、MFガリアルディーニ(現インテル)といった昨季の主力たちはごっそり引き抜かれたが、ガスペリーニは今シーズンの新チームの軸に新戦力のMFイリチッチや出戻りMFデローンを組み込みながら、他のクラブで芽が出なかった元有望株の再生にも取り組んだ。

自分はこのチームにとってオンリーワン、という感覚。

 かつてアッレグリがミランを率いていた'11年に、弱冠16歳でCLデビューを果たした大型MFクリスタンテは、その後トップチームでの機会を得られず、3年前に600万ユーロでベンフィカに売り飛ばされた。

 パレルモやペスカーラを転々として、今年1月にやってきたアタランタでガスペリーニと出会い、クリスタンテのキャリアは劇的に変わった。

「監督は毎日何か新しい言葉や練習を提案してくれて、こちらが理解するのを待ってくれる。ありきたりな助言じゃなく、1人ひとりに合わせた言葉を投げかけてくれるんだ。選手全員に“自分はこのチームにとってオンリーワンなんだ”と自信を持たせてくれる。これこそ、ガスペリーニが他の監督たちとちがうところだと思う」

 得点センスを開花させた彼は、ELでエバートン相手に計3ゴールを上げ、セリエAでもすでに6得点。ミランと対戦したクリスマス前の18節では、古巣が夏に1800万ユーロを払ったDFムサッキオを出し抜いて先制点を上げ、サンシーロを沈黙させた。

 アタランタはつねに高次元の”自分たちのサッカー”を求めて、ゲームの重心を30m敵陣寄りに動かすことを考えながらプレーしているが、ELで外国勢との実戦を経験した彼らは攻撃一辺倒ではなく、引くべきときに引き、我慢すべきときに我慢する術を覚えたのだ。

八百長に関与した厄介者も、名将の手にかかれば。

 若手育成の健全路線で知られるアタランタには、八百長に関与し長期出場停止処分を受けた古参DFマシエッロを重用する意外な一面もある。

 他のクラブから見れば厄介者であっても、実力と費用対効果に鑑みて重用する実利主義と懐の深さは、どこか狂気を孕んだような勤勉さで知られるベルガモの町のクラブ独特のものだ。

 清濁併せ呑む器量を備えたガスペリーニは、戦術大国イタリアにあって、智将の評価を揺るぎないものにしつつある。

「イングランドやフランスの上位クラブと戦って4勝2分。イタリアのチームもまんざらではないし、セリエAは勝つのが最も難しいリーグであることは証明できたかなと思うよ」

ドルトムントを引いて「うちのクジ運は最高」。

 来年2月から始まるEL決勝トーナメントの1回戦の相手は、ドイツの強豪ドルトムントに決まった。

 練習場のバールでチームメイトと抽選を見守っていた主将ゴメスは「ちっ……ついてねえな」とツイッターでつぶやいた後、ドルトムントのライバルクラブ、シャルケでプレーする同胞の友人FWディサントのユニフォーム画像を添えて「やってやるか!」と投稿した。ユーモアたっぷりの親分はすでにやる気十分だ。

 抽選直後には「うちのクジ運は最高じゃないか」と皮肉めいたガスペリーニも気を取り直して「もう何でも来いだ。美味しいところはうちが全部持っていこうじゃないか!」と闘志を新たにする。

 今年8月、両者は中立地オーストリアでプレシーズンマッチを戦っており、そのときはアタランタがMFイリチッチのゴールによって1−0で勝った。ただし、このときは主将ゴメスも相手のエースFWオーバメヤンも不在だった。

 アタランタの選手もサポーターも、ドルトムントのホーム「シグナル・イドゥナ・パルク」の脅威と熱狂ぶりは熟知している。負ければ即敗退の真剣勝負である今回の好カードを、どれだけのファンが地元ベルガモのスタジアムで観たい、と願ったことだろう。

新スタジアムの購入も決定した伝説のシーズン。

 今年5月、ベルガモ市当局は競売に出していたスタジアム「アトレーティ・アッズーリ・ディターリア」の売却先をアタランタに選定したと発表した。

 念願のマイホームを手に入れるアタランタは、外観を一新させ、全天候型のイングランド式への改修を目指し来夏にも工事に着手する。欧州カップ戦で使用できるのは工事が完了するふた夏先の'19年からだ。

 ガスペリーニとの契約はオプションまで含めると'21年まで残っている。イタリアの再建を託す次の代表監督に推す声も高まっているが、笑って就任を否定する智将はアタランタで欧州を目指す。

「スタジアムに来てくれたファン、家族連れの子供たちがアタランタに熱狂してくれる。たまらなく嬉しいことだ」

 北都ベルガモの冬は厳しい。

 ただ、どんな形で終わろうとも、アタランタのサポーターたちにとって今季は伝説とすべきシーズンだ。長い冬も、2018年に待っている欧州の強豪との対戦を家族や友人たちと、夕食会やバールでニンマリと語らいながら盛り上がれる。

 何て心弾む年越しだろう。

文=弓削高志

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