ロッカールーム前で取材を受けていた渡邊雄太(ジョージワシントン大)に向かって、横からスッと手が伸びてきた。

「グッドゲーム」

 渡邊は一瞬驚いたようにも見えたが、すぐに自分も手を差し出し、2人は握手を交わした。

 11月、ラスベガスで行われたラスベガス・インビテーショナル初戦の試合後のこと。渡邊に握手を求めてきたのは、その日、ジョージワシントン大が対戦したゼイビア大4年のトレボン・ブルーイット。渡邊と攻守でマッチアップしていた選手だ。

 ゼイビア大はこの時点で全米ランキング15位の強豪チーム。ブルーイットは、チームのエースで、対戦時には1試合平均24.3点をあげていた。昨年春、一度はNBAのドラフト入りを考えてアーリーエントリー申請をしたが、のちに取り消して大学に戻ってきた。全米に名前が知られたNBA予備軍だ。

 そのブルーイットとマッチアップした渡邊は、長身と長い手足を生かし、互角の戦いをしていた。ディフェンスではブルーイットのシュートをブロックしたり、チャージングを取り、オフェンスでもジャンプシュートやフローターを決めるなど奮闘。

 逆にやられた場面もあったが、見ごたえがあるマッチアップだった。

 渡邊自身は「通用していたプレーや、ディフェンス面でも抑えることができていたときはあったんですけれど、簡単にシュートを打たれて決められたりする場面も多かった。もうちょっと修正しないと」と、手ごたえを感じながらも、反省の弁を口にしていた。

「相手も自分を意識しているのかなと考えると」

 そんな強敵から求められた握手。嬉しくないわけがない。そう聞くと、渡邊は言葉を選びながら言った。

「そうですね、まぁ、はい。嬉しい……というか、相手も自分を意識しているのかなと考えると、今後やりがいもまた出てきます」

 単に「嬉しい」で終わるのではなく、先へのモチベーションへとつなげる言葉。真面目で向上心の高い渡邊らしい回答だった。

NBAドラフト候補選手に「そのプレーは知っている」。

 強敵との戦いは、渡邊がアメリカに出てきた大きな理由だった。毎試合気を抜けない相手と対戦をすることは、大変ではあったが、それだけ楽しいことだった。

 もちろん、対戦相手からの反応は、ブルーイットの握手のようにポジティブなものばかりではない。

 たとえば昨年12月半ば、当時全米6位にランキングされていたマイアミ大と対戦したときのこと。渡邊をマークしていたのは、好ディフェンダーで、2年生ながら今年のNBAドラフト指名候補選手にも名前があげられるブルース・ブラウンJr.。

 前の試合から日程があいていたマイアミ大はジョージワシントン大のフォーメーションを徹底的にスカウティングしていたようで、渡邊は思うように攻撃させてもらえなかった。フィールドゴール12本中、ネットをくぐったのはわずか3本、平均を下回る9点に終わった。

「僕のプレーは全部読まれていた。僕がシュートするオフェンスをコーチがコールしてそれをやっても、必ず読んでいて、『そのプレーは知っている』みたいなことを何回も言われた」と渡邊は振り返る。

「そういうトラッシュトークを言われるのは慣れているし、もともとそういうことはあまり気にしないんですけれど、実際にプレーは読まれていた。完璧に抑えられて、自分が打ったシュートも無理に打たされたシュートが多かった」

NBAスカウトは、対策された後の引き出しも見ている。

 大学4年となり、名実ともに攻守のエースでリーダーとなった渡邊は、どこと戦うときでも対戦相手にとって一番のターゲットだ。フォーメーションや得意なプレーはすべて研究され、それを抑える作戦を取られる。

 オフェンスの時だけでなくディフェンスの時も、自分の手の内を知られていることを痛感することが増えた。たとえば、ディフェンスで相手に抜かれても、諦めずに最後まで追いかけ、長い手足を生かして相手のシュートをブロックすることが多いのだが、強敵との対戦では特に、それすら読まれ、かわされてしまう。

 それだけ徹底マークされた中でも、渡邊は常に結果を出すことを求められている。今季のジョージワシントン大は若く、経験が浅い選手が多く、試合に勝つためにも渡邊が活躍することが絶対条件だ。

 それだけではない。NBAスカウトたちは、相手から対応されたときにどれだけ適応できるか、どれだけ引き出しを持っているのかも見ているのだ。

「アメリカのディビジョンⅠというレベルで、相手に研究されているというのは、相手も自分のことを警戒してくれている証拠。そこを打開できたときに新たな成長が待っているのかなというふうに思っているので。相手の研究のさらに上をいけるようにしていきたいです」

「シュートは自分の武器として、なきゃいけない」

 そのためにも、自分の一番の武器を安定して出せるようになることが必要だ。

 最近ではディフェンス力が評価されることが増えてきた渡邊だが、アメリカに出てきた当初から、他の何よりも得意とし、よりどころとしていたのはシュート力だ。

 子供のころから父とともに毎日シュート練習してきた積み重ねが、その自信につながっている。今でも、夜のシュート練習は欠かさない。

 しかし大学に入ってからは、得意だったはずのシュート力が安定しない。よく入る試合もある一方で、同じぐらい、まったく決まらない試合もある。

「自分のシュートも波がありますし、しかもスカウティングされているので余計に安定してこない。でもスカウティングされるっていうことはわかっているんで、まずは自分のリズムをしっかり作って、自分の中ではコンスタントに、いつでも同じようにいいシュートを打てるようにしないといけないと思っています」

 そして、それだけ波があることを自覚しながらも、得意なことは何かと聞かれれば、きっぱり「シュート」と言い切る。

「逆にそう言えなくなると自分はこのレベルで……このレベルだけでなく先を考えたときに生き残っていけない。そのためにシュートは自分のひとつの武器としてなきゃいけない。だから得意なことは何かと聞かれたら、やっぱりそれはシュートになると思います」

 自分を信じ、貫き通す芯の強さはトッププレイヤーに必要な素質だ。渡邊にとってシュートへのこだわりは、そのひとつなのかもしれない。

貴重な日本とのつながりであるツイッターを一時中断。

 ゼイビア大と対戦したラスベガス・インビテーショナルが終わった後、渡邊は自らのツイッターアカウントに「今シーズン終わるまで一旦ツイッター止めまーす! またシーズン後にお会いしましょう」と書き込み、更新を止めた。

 遠く海を越えたアメリカで上を目指す渡邊にとって、ツイッターは日本にいるファンとつながることができるツールで、かけられる言葉が励みになったこともあった。それでも中断しようと思ったのは、改めて自分を見つめなおしたかったからだという。

周囲の視線よりも、自分で自分を見つめるために。

「ツイッターは誰からでもコメントをもらえますし、いろいろな情報が入ってくる。いいことを言ってくれる人もたくさんいましたし、もっとこうしたほうがいいとアドバイスくれる人もいたり、たまに悪い言葉を言われたりもしました。そういう中で、誰かわからない人からのそういう言葉を見るのに時間を費やすのが少しもったいないなと思って。

 全然気にしていないようにしていても、やっぱり気になってしまったり、そういう自分がいた。いいこと、悪いこと、たくさん言われていましたけれど、まずはそういう外からの言葉ではなく、自分自身をしっかり見つめなおそうと思って。それで、今シーズンが終わるまではツイッターは見ないようにしようと思い、やめました」

 大学最後のシーズンである今シーズンにかける思いが、それだけ強いということの表れでもある。

「去年、おととしはそんなことは考えもしなかったけれど、今年は自分の中でやめなきゃと自然に思えた。それだけ大学最後の年を大切にしようと思っている部分もあります。今シーズンどれだけ活躍できるかが将来につながってくる大事な年なので──」

 周囲にまどわされることなく、自分の力と積み重ねてきた努力を信じ、前に歩み続ける。今の渡邊は、そんな心境に到達している。そうすることで目の前の壁を乗り越え、さらに高い場所に行けると信じて──。

文=宮地陽子

photograph by Yoko Miyaji