絶対王者。

 帝京大ラグビー部の形容句としてすっかり定着した言葉である。大学選手権では、2009年度に初優勝を飾って以来、今季(2017年度)で9連覇。事実だけを見れば、どこにも危なげない勝利を積み重ねてきたように見える。

 ただ数字を見ると、常に圧倒的な勝利をあげているわけではない。今季決勝のスコアは21−20。わずか1点差だ。だがスコアが接近したからこそ、決して負けない王者の強さが際立って見える。

帝京・堀越主将「本当に楽しい試合でした」

 キーワードは「楽しむ」だ。決勝を戦い終えた会見で、帝京大を9連覇に導いた堀越康介主将は言った。

「80分間、明治大学さんが100%の力でぶつかってきて、ファイトしあって、本当にいい試合になったと思っています。本当に楽しい試合でした。ガマンの時間帯が多く続いたゲームでしたが、これを全員で楽しもう、粘り強くガマンしようと試合中もずっと声をかけあって、行動できて、ガマンの時間を楽しめたことが逆転につながったと確信しています」

 日本語の「楽しい」は、「楽」という漢字のイメージに引きずられてか「ラクをする」という印象を与えがちだ。だが、楽しい=ラク、では断じてない。

「傍から見たら厳しい場面に見えたと思いますが、そこを本当に楽しもうと。この1年間は、監督がいつもおっしゃる『ラグビーを楽しむ』ということの深さ、その意味を考えながらやってきました。だから、このゲーム、クロスゲームを楽しむことができたと思います」

望んでいない状況こそ楽しいというメンタル。

 堀越は試合終了1分前のプレーで、プロフェッショナルファウル(故意の反則)を犯したと見なされ、イエローカードを科された。ラグビーのイエローカードは、10分間の一時的退場を意味する。キャプテンの重責を担う身が、残り1分という正念場でピッチを離れる。ましてや点差はわずか1点だったのだ。そこに不安はなかったのだろうか。

「正直、グラウンドで優勝を喜び合いたかったという気持ちはありますが、自分の無駄なプレーからシンビン(一時的な退場処分)になってしまった。それは今後の反省として活かします。仲間たちが『あとは任しとけ』と声をかけてくれて、頼もしく思えたし、何よりも仲間を信じて、外から見ていました」

 ゲームの中で、望ましくない状況が生まれても焦らない。むしろ、望んでいない、苦しい状況こそ楽しいのだというメンタリティ。それを1年間かけて身につけてきたのだと堀越は言うのだ。

明治・古川主将も大ピンチに「楽しいな」。

「楽しい」という言葉は、堀越の発言に先立つこと約10分、敗者となった明治大学の会見でも聞かれた。古川満キャプテンは、1点リードされて迎えた残り4分、自陣ゴール前に攻め込まれたピンチの心境を問われ「楽しいなと感じました」と言ったのだ。

 この場面、帝京大はPGを狙える位置でPKを得たが、4点差に広げて自陣に戻るよりも、敵陣に居座り、スクラムからトライを狙う策を選択した。

 1点を追い、わずかな残り時間に逆転を狙う側にとっては焦り、あるいは「PGを狙ってくれないのか」という落胆があってもおかしくないように思えた。しかし1点を追う明治側も、この戦いを楽しんでいた。

「この舞台で、最後に自分たちがこだわってきたスクラムを出せる。堀越もそれを選んでくれて、最後に意地と意地のぶつかり合いで、お互いに負けられない。やってきたことを出し切る。それが楽しいなと思いました」

桐蔭学園で同級生だった堀越と古川のリスペクト。

 メディアというものが要らないのでは、と思ってしまうほどの表現だった。選手同士が総括して、魅力的な言葉で伝えてくれるからだ。会見で同席していた明大の丹羽政彦監督もこう言っている。

「古川の話を聞いていて、ウチのチームも大人になったなと感じました」

 それは帝京大・岩出雅之監督にも共通した感覚だったようだ。会見の中で「今シーズン、最も成長した選手は?」と聞かれると、こう返していた。

「堀越キャプテンが一番成長したと思います。会見でのマイクの声もはっきり、しっかりした声ですし。こういう席だけじゃなく、ふだんの生活の中でもキャプテンシーを感じる。良いキャプテンを、今年の帝京は与えていただいたなと思っています」

 堀越と古川は、神奈川の桐蔭学園で同級生だった。対抗戦の対戦を控えた週にそれぞれがプライベートで出かけた高尾山でばったり出くわし、驚き、何とも気まずい思いをしたという秘話もある。フロントローとは思えないほどボールを持つ堀越と、ボールをほとんど持つことなく体をぶつけ、ハードワークを重ねる古川。プレースタイルは対照的にも見えるが、深いところで通じ合っているのだろう。堀越は、決勝を控えた日、古川について聞かれ、こう答えた。

「愚直というんですか、痛いところにアタマを突っ込むし、走るし、自分の出来ることを精一杯やるプレーヤーなので、怖さがあります。波のないプレーヤーなので、そこをしっかり潰していきたい」

 戦う相手へのリスペクトに溢れた言葉の中に、容赦ない闘志も矛盾なく存在する。そんなリーダーがいるからこそ、あの素晴らしい決勝が生まれたのだろう。

「10連覇へのスタート台に立てたと思います」

 さて気が早いが、来季は帝京大が「10連覇」という節目の大記録に挑むシーズンとなる。

「僕らの学年は4年のシーズンに10連覇を達成して卒業します」

 帝京大入学時からそう公言していたのが、3年生のWTB竹山晃暉だ。

「9連覇を達成したと同時に、10連覇へのスタート台に立てたと思います」

 優勝後のミックスゾーンでそう言った竹山は、神妙な顔で続けた。

「徹底的に自分の悪いところを直したい。隙のないチームを作るために、チームのことよりもまず自分自身が最上級生に相応しい人間にならないと」

「年ごとに連覇の重み、難しさを感じている」

 この日、竹山はゴールキック3本すべてを決めたが、前半にタックルを外され、明大WTB高橋汰地にトライを奪われた場面があった。竹山はその場面を悔やんでいた。

「チームとして勝利できたこと、優勝できたことはうれしいです。ただ、自分自身については喜びは出てこない。心のどこかで、自分は全力でチームに貢献できたのかという思いがある。ディフェンスで抜かれた悔しさが残るんです。この悔しさに気づけたことは、もっと成長しないといけないと言ってもらっているんだと思います」

 あくまでも謙虚な姿勢、そして言葉。

「7連覇、8連覇と経験してきて、年ごとに連覇の重み、難しさを感じているし、その分、プレッシャーに負けちゃいけないという思いも強くなっています。今日も、簡単に連覇はできないということを教えてもらえた。それでも勝てたのは、やっぱり4年生がしっかりとリードしてくださったからだと思う。今日は先輩たちが4年間、積み重ねてきた力を感じました。決勝なんて、うまくいくことなんてほとんどない。それを覚悟していたから、厳しい試合でもパニックにならずに、帝京らしく戦えたと思う」

 そして、竹山は付け加えた。

「来季はこれまで以上に“帝京を倒せ!”と意識して他の大学は日々の練習に取り組んでくるでしょうし、僕たちも追われる立場じゃなく、挑戦者としてシーズンに向かっていかないと」

 絶対王者は早くも、次のシーズンに向けて「厳しい1年を楽しむ」覚悟を固めていた。

「10連覇」は、その積み重ねの先にしかないのだ――。

文=大友信彦

photograph by Nobuhiko Otomo