満身創痍のサンウルブズに、一筋の光が差し込んだのは試合終了まであと少しという時間帯だった。

 オーストラリアはメルボルンに本拠を置くレベルズのゴール前に迫り、レベルズが何度も繰り返すペナルティでことごとくスクラムを選択。スコアが10−30と離れているにもかかわらず、いやだからこそ、トライにこだわって攻め続けた。

 後半36分にはポスト正面の5メートルスクラムから左へ展開。途中からSOに入った立川理道のパスを受けたCTB中村亮土がゴールラインに飛び込んだ。

 トライか否か。

 TMO(テレビジョン・マッチ・オフィシャル)に委ねられた判定は、ボールの真下にレベルズの選手の足があってグラウンディングが認められないというもの。つまり、ノートライだ。

 続く5メートルスクラムからサンウルブズは右に攻めた。が、レベルズはオフサイド覚悟で防御に飛び出し、反則をとられたもののトライは与えない。サンウルブズは、このエリアに入って5回目のスクラムを選択する。

 位置はまたもポスト正面だ。

 これまでは、この位置から立川を左に配し、すべてそこにボールを集めてアタックを仕掛けてきた。レベルズの防御も、立川に最大限の注意を払っている。

 ボールを持った途中出場のSH田中史朗は、またもや左に走る。が、今度は左に走りながら右にパス。内側に駆け込んだNO8エドワード・カークがそのままインゴールに飛び込んだ。

 中村のコンバージョンが決まって17−30。

勝ち点1の希望が見えたラスト1分。

 残りは1分。

 次のキックオフからアタックを仕掛けるチャンスがもう一度残されている。

 チャンスを活かしてトライを取りきり、かつコンバージョンを決めればスコアは24−30と6点差になり、前節に続いて7点差以内負けの1ポイントを獲得できる。しかも、前節は「トライを狙わないのかよ!」と言いたげなブーイングも飛んだ1ポイントだったが、この試合は大敗に等しいところから逆襲しての嬉しいポイント獲得となる――はずだった。

日本代表でもあるレベルズのNO8が。

 現実はシビアだった。

 レベルズはキックオフを深く蹴り込み、きっちりと圧力をかけてミスを誘い、レベルズボールのスクラムにする。そして、NO8で日本代表でもあるアマナキ・レレイ・マフィが単独でサイドアタック。一気にゴール前まで迫って連続攻撃に持ち込み、ダメ押しのトライを狙う。

 サンウルブズは、カークがラストパスを阻止しようと試みたが、これもTMOの末にインテンショナル(故意)ノックオンと判定され、レフェリーは、ペナルティトライを宣告。レベルズに自動的に7点が追加され、サンウルブズにかすかに灯った1ポイント獲得の可能性は消滅。前節以上にアンチクライマックスな結末となった。

フィジカルな戦いで怪我人が続出。

 このゲームは、始めから危機的状況が連続する展開だった。

 9分にはCTBラファエレティモシーが10分間のHIA(脳しんとうチェック)でピッチを離れて、代わりに野口竜司がWTBのポジションに入り、CTBにはWTBだったウィリアム・トゥポウが回る。

 14分には司令塔のSOヘイデン・パーカーがハムストリングを傷めて立川と交代。

 さらに20分にはWTB山田章仁が、タックルに入った際に顔面を強打して退いた。

 この時点で控えのバックスは田中だけ。ジェイミー・ジョセフヘッドコーチ(HC)は、FWの徳永祥尭をWTBとして投入する。

 その時点でスコアは0−10。レベルズは、デカくて強い選手をガンガンぶつける「ダイレクトでフィジカルなゲームプラン」(デイヴィッド・ヴェッセルズHC)ですでに2トライを挙げ、優位に立っていた。

 そんな状況で7人のバックスのうち3人が20分間で入れ替わり、しかもそのうち1人は本来はFWのプレーヤーだ。確かに徳永は7人制日本代表としてリオデジャネイロ五輪に出場した高い身体能力を持つ選手だが、FWとバックスではそもそもポジショニングも違えばスピードの出し方も違う。まして攻守に他の選手との緻密な連携が要求されるだけに、この時点で勝利の2文字は大きく遠のいた。

立川理道が変えた流れ。

 しかし、サンウルブズが観客席を沸かせたのは、窮地に立たされてからだった。

 流れを変えたのは立川だった。

 21分、自陣深くでボールを持つと相手に向かって直進。タックルされても諦めずにほふく前進でチームを前に出す。そして、レベルズのオフサイドを誘って相手陣でのラインアウトにつなげた。しかしこのラインアウトが上手くいかず、前半だけで4回もボールを失って攻撃の起点を作れなかったが、それでも粘り強くアタックを続けて26分にPGを返し、7点差とする。

 そして35分、レベルズSHウィル・ゲニアにかけ続けたプレッシャーが功を奏し、コンタクトをさけてボールを大きく展開したところを、トゥポウが狙い澄ましてインターセプト! そのまま50メートルを独走し、中村のコンバージョンで10−10のタイスコアに追いついた。

 失いかけた希望を取り戻したハーフタイムが終わると、ゲームはふたたび暗転する。

 レベルズは2分にPGで3点をリードすると、5分にはスクラムからサインプレーを仕掛け、メンバーが大きく変わったサンウルブズの組織防御を翻弄。トライを追加してリードを広げ、その後も2トライを加えて得点を30点まで伸ばした。

本当に準備期間が問題だったのか?

 詳細を省いて敗因だけを挙げれば、フィジカル勝負に敗れて負傷者が続出したことに尽きる。

 ジョセフHCは、負傷者続出の要因を「準備期間が足りない。スーパーラグビーの他のチームは、2カ月半のプレシーズンを経て強化しているが、先週のブランビーズ戦も今週のレベルズ戦も明らかに体力差があり、接点で負けていた」と説明した。

 ちょっと待ってもらいたい。

 本当にこれは準備期間が短かったことに起因しているのか?

 サンウルブズは今季、トップリーグの日程を短縮して事前準備期間を2週間長くとったのではなかったのか。

 もちろん、それでも他チームより準備期間が短いのは明らかだが、昨季も参入初年度の'16年も、ここまでバタバタと選手が倒れることはなかった。スーパーラグビー開幕1カ月前までトップリーグや日本選手権が行われた関係で、疲労が溜まった選手がいる反面、フィットした状態を維持した選手もいたからだ。

負傷者続出の原因すら突き止められず。

 むしろ、この間に選手個々のコンディションを首脳陣がきちんと把握し、管理していたのか。その上できちんとセレクションが行われたのか。試合前のウォーミングアップのメニューと方法に間違いはなかったのか――など、まず自分たちの問題を検証すべきではないのか。

 国内シーズンがいつの時点で終了するかは、昨年秋の段階で分かっていたことだ。しかもサンウルブズのメンバーは、日本代表スコッドともかなりの部分で重なっていて、ほとんどの選手のフィジカルデータがジョセフHCの手元にはあるはず。

 ならば、本当に「こんな準備期間ではフィジカルを強化できない」と思うのであれば、そのデータをもとに、昨年のシーズン中から選手1人ひとりにフィジカル強化の目標値を明確に与えることだってできただろう。

 そうした作業がなされ、緻密なコンディショニングが行われていながらなお負傷者が続出したのであれば、ジョセフHCの言葉は説得力を持つ。が、今のところは、負傷者続出の原因を突き止められず、使える選手も少なくなって、腹立ちまぎれに日程をやり玉に挙げているようにしか聞こえない。

サンウルブズの「今できること」。

 そんな“ネガティブ”な敗因ではなく、この試合に見られた“ポジティブ”な面を見るべきだろう。

 立川と野口のしなやかなランニングはレベルズの防御にも十分に通用した。立川が入ったことで、中村の持ち味もさらに生きた。今週の南アフリカ遠征には、松島幸太朗も復帰する。さらに開幕戦で活躍したホセア・サウマキとレメキロマノラヴァも間に合った。

 準備期間の短さを嘆くよりも、こうした選手たちを使って、日本代表にも活かせる戦い方を構築すること――それが、サンウルブズに求められている「今できること」なのである。

文=永田洋光

photograph by Kiichi Matsumoto