「5年ぶりの復活優勝はなるか?」

「1680日ぶりの勝利となるか?」

「通算80勝目の達成か?」

 先週のバルスパー選手権は、そんな期待で沸き返った。

 昨年4月に4度目の腰の手術を受け、戦線離脱していたタイガー・ウッズが今年1月のファーマーズ・インシュアランス・オープンで1年ぶりに米ツアーへ復帰。予選を通過し、23位で4日間を終えると、「タイガー・イズ・バック」の声が早くも方々で木霊し始めた。

 復帰2戦目のジェネシス・オープンこそ予選落ちしたものの、ホンダクラシックでは12位に食い込み、復帰第4戦のバルスパー選手権では初日から好発進を切り、優勝争いへ突入。

 首位に1打差で臨んだ最終日。久しぶりに眩しく輝いたサンデー・レッドシャツに世界中の大勢のファンがウッズの勝利を予感した。

 とはいえ、最終日はなかなかスコアを伸ばせず、優勝の可能性は徐々に遠のいていった。それでも71ホール目に12メートル超の長いバーディーパットを沈めてファンを狂喜させた。

「タイガー・イズ・バックだ」

 72ホール目のバーディーパット。沈めれば、プレーオフになる。

「タイガーなら、きっと決める」

 誰もが固唾を飲んでウッズの手元を見詰めたその一瞬は、「ああ、タイガー・ウッズが戻ってきた」と実感できる瞬間だった。

 残念ながらボールはカップにはぎりぎり届かず、ウッズは1打差の2位タイにとどまった。だが、バッグを担ぐ相棒キャディのジョー・ラカバは「正真正銘、タイガー・イズ・バックだ」と大きく頷きながらウッズと固い握手。

 ウッズ自身は「僕は復活した」とは、もちろん言わない。

 だが、勝てずとも彼はとてもうれしそうだった。ベッドから起き上がることさえできなかった日々を経て、リハビリをして1歩1歩前進し、ようやく米ツアーに復帰し、ついには優勝争いに絡んだ懸命な歩みが、彼の笑顔を誘っていた。

「これからも1つ1つ、ブロックを積み上げていきたい」

2015年に別れた元恋人も応援。

 いわゆる「タイガー・ウッズ効果」もゴルフの世界に戻ってきたと言えそうである。

 バルスパー選手権の最終日、米NBC局によるテレビ中継の視聴率は「5.11」で、この数字は2013年のプレーヤーズ選手権を上回り、ここ5年間で最高の数字となった。前年比では190%アップだという。

 ストリーミングの視聴数はなんと前年比1060%アップ。まるで想像がつかず、実感も得られないような数字がたくさん並び始めた。

 2015年に別れた元恋人でスキーヤーのリンゼイ・ボンが「今でもタイガーは素敵な友達。応援しているわ」と米スポーツ誌に明かしたという話。そして彼女が「レッツゴー、T!」とツイッターで発信したという話。

 ウッズに絡む話ばかりがニュースになり始めたタイミングを見計らったかのように、米ツアーは2019年にオーストラリアで開催される米国チームと世界選抜チームの対抗戦「プレジデンツカップ」の米国キャプテンにウッズを指名し、メディアに向けて大々的な発表会を開いた。

 次々に飛び出すビッグニュースに米メディアは奔走し、かつてのウッズ番記者たちの目にも久しぶりに輝きが戻りつつある。

 そんな周囲の興奮と喧騒は、騒がしいけど、笑顔を誘い、エネルギーに溢れ返る。それは、まさしくタイガー・ウッズ効果だ。

そして今週は、過去8勝をあげた大会。

 ウッズは今週、フロリダ州オーランドのベイヒルで開催されるアーノルド・パーマー招待に挑む。過去8勝を挙げた相性のいい大会。8勝の中には4連覇(2000年から2003年)と2連覇(2008、2009)が含まれている。

「オーランドは、かつて僕が住んだ街で、僕の子供たちが生まれた街でもある。いい思い出がたくさんある。そこで戦えることは、とても楽しみだ」

 少しばかり懐古主義的な言葉を口にしたウッズの胸の中には、過去にこの地で復活した熱い思い出もきっと蘇っていたことだろう。

2009年も、2012年も復活した場所。

 2008年の全米オープンで傷めていた左ひざを引きずりながらメジャー14勝目を挙げたウッズは、その直後に膝の手術を受け、戦線離脱。リハビリを経て米ツアーへ復帰し、最初に勝利を挙げたのが2009年のベイヒルだった。

 その年の暮れに未曽有の不倫騒動が勃発。再びツアーから離れたウッズは、その後、離婚など私生活の変化を経験し、メンタル面は揺れ動き、スイング改造にも着手した結果、どんどん不調に陥っていった。

 周囲からは「もはやウッズは再起不能」の声も聞かれた。だが彼は再び這い上がり、騒動から3年ぶりの復活優勝を遂げたのが2012年のベイヒルだった。

 だから今回も、2013年8月のブリヂストン招待以来の復活優勝を、このベイヒルで達成するのではないか。

「5年ぶりの復活優勝なるか?」

「通算80勝目はなるか?」

 今週もそんな期待がベイヒルに溢れ返っている。

松山、ジェイソンと回る予選の2日間。

 開幕前の会見に臨んだウッズは、すべての期待を感じつつ、人々の想いを柔和な笑顔で受け止めていた。

「僕がここで勝ったとき、アーノルド・パーマーと握手をしたら、彼は『あのパット、キミなら決めると思ってたんだよ』と冗談交じりに言って、2人で大笑いしたことを今でもよく覚えている。残念ながら、もうあの瞬間を彼と迎えることはできない」

 でも、今度は大勢のファンと一緒に笑顔で優勝を祝いたい――ウッズの笑顔は、そう言っていたと信じつつ、初日のティオフを眺めたい。

 左手親指の故障から復帰する松山英樹、そしてジェイソン・デイと同組でウッズが回る予選2日間。ベイヒルは賑やかな春の祭りに沸き返るはずだ。

文=舩越園子

photograph by Sonoko Funakoshi