今季限りでの引退を表明している偉大な選手のフィナーレが近づいている。

 3月11日、石川県輪島市で行なわれたWリーグ・レギュラーシーズン最終節。女子バスケットボール界の顔として長い間、君臨してきたポイントガードの大神雄子は、この日もトヨタ自動車アンテロープスのキャプテンとして先発でコートに立った。

 緩急自在のゲームコントロールと、切れ味のあるパスは健在。3ポイントシュートは3本打って2本を決めた。35歳になってなお身体にはキレがあり、軸のぶれないピボットターンは美しかった。

 21分間のプレーで、6得点4アシスト。チームは75−64でトヨタ紡織サンシャインラビッツを下し、レギュラーシーズンの順位は3位と確定した。

「プレーオフでは1つ負ければ終わり」

 試合後はまず、反省の弁が口を突いた。

「プレーオフ進出を決めているので、そこへどうつなげていくかという試合だった。課題はありますね」

 そう言いながら眉間にしわを寄せたように、詰めの甘さが露見した試合だった。

 トヨタは第1Qで18−13と手堅くリードすると、第2Qで15点差、第3Qでは最大で19点差をつけた。けれども、第4Qは立ち上がりから隙を見せてしまい、残り7分30秒から5連続シュートを決められて58−54。セーフティーリードを一気に失う。

 水島沙紀の3ポイントや馬瓜エブリンのゴール下などで最後は突き放したが、経験豊富な大神にとって、4点差まで詰め寄られたのは看過できない反省材料だった。

「自分たちで点差を縮めさせてしまった。何が起こるか分からないのがバスケット。突き放せるときに離さないといけない」

 そして、意を決したように加えた。

「プレーオフでは1つ負ければ終わりですから」

17日(土)から始まるプレーオフへ。

 昨年6月11日、自身のSNSで2017-'18シーズン限りの引退を表明。

 同10月のWリーグ開幕会見でも改めて「今季限りの引退」を宣言した。そこには、「口にすることでモチベーションに変わる」という考えがあった。

 シーズン中はキャプテンとしてチームを牽引した。シーズン終盤の2月にはドナルド・ベックヘッドコーチが家族の事情で退団するという激震が走ったが、大神のリーダーシップでチームの一体感が揺らぐことはなかった。

 残すは8チームによるトーナメント形式のプレーオフだ。

 3月17、18日に準々決勝、同24日に準決勝、そして25日に決勝が行なわれる。

 大神がプレーするのは最大であと3試合。しかし、表情に寂しさは感じられない。

「引退することは悪いことではありませんからね。その覚悟はできています。

 もちろん、ずっとやってきたことなので『卒業』は寂しいですが、次にやることはたくさんある。自分に『卒業おめでとう』と言えるように、1日1日を大切にしたい。

 これ(現役生活)がすべてではないと思うと、これからの人生にワクワクしています」

夢は、代表HCとしての五輪出場!

 引退後の人生設計は昨年10月の時点ですでにできていた。

 指導者になり、将来的には日本代表ヘッドコーチとして五輪に再び出ること。

 '04年アテネ五輪に出場し、世界最高峰の大会の厳しさも楽しさも分かっている大神にとって、もう一度目指したい場所が、五輪の舞台なのだ。

 シーズン前に現役生活は今季限りと発表していたことで、シーズン中は多くの人から声を掛けられたという。

「ラスト、頑張ってくださいと言ってくれる人もいれば、やめないでくださいと言ってくれる人もいました。まだまだやれるじゃないかとおっしゃってくださる人もいます。

 自分が今回、発信させていただいたことで、人のとらえ方はいろいろあると感じました。人間はそれぞれ。それもいいなと思いました」

最後は古巣のチームに勝って終わりたい。

 今季からチームメートになった日本代表の長岡萌映子は、大神についてこのように語る。

「シンさん(大神)と1年間一緒にやって、ベテランの影響力の大きさを感じた。

 シンさんがいるからこそ、チームに一体感が生まれた。シンさんのバスケットに対する打ち込み方、キャプテンやベテランのあり方を見られて良かった」

 引退後の夢を明確に持ちながらも、シーズン中はあくまで選手としての生活にすべてを注ぎ、コンディショニングに集中してきた大神。だからこそ、最後は勝って終わりたい。

 思い描いているのは、3月25日の決勝戦でJX-ENEOSに勝って、勝利で自身の現役ラストを締めくくること。

 トヨタ自動車は1月の全日本選手権でJX-ENEOSと準決勝で対戦し、52−78で敗れた。今回のプレーオフは、最強チームであり古巣でもあるJXを破る最後のチャンスである。

 12月のWリーグではJX−ENEOSに今季唯一の黒星をつけている。チャンスはあると見ている。

 その前にまずは準々決勝がある。

 3月18日に秋田県立体育館で三菱電機コアラーズと対戦する。

WNBAにも渡り、日本バスケ界を変革し続けた。

「バスケットは、さまざまな喜怒哀楽を含めて、すべてにおいて今の自分そのもの。

 たくさんの人に出会って今の自分がありますが、それはすべてバスケットがつなげてくれたことです。なくてはならないような、自分の人生のパーツの一部です」

 JOMO(現JX-ENEOS)に所属していた'08年に日本人2人目のWNBA参戦を果たし、'14年には中国リーグの山西興瑞でプレーした。国内復帰の際にはWリーグの移籍ルールが選手に不利になっている現実を訴え、その後の緩和につなげた。

「5年後、10年後に『こういう選手がいたな』と思ってもらえればうれしいですね」

 オンザコートでもオフザコートでもチャレンジの連続だった大神のバスケット人生。最後のチャレンジが楽しみだ。

文=矢内由美子

photograph by Yusuke Nakanishi/AFLO SPORT