ユベントスが前人未到のスクデット7連覇を達成した。

 長く続いたナポリとのデッドヒートを制した彼らは、コッパ・イタリア4連覇も成し遂げている。国内Wタイトル4連覇はもちろん史上初の快挙だ。非情なまでの強さを誇る勝利至上主義のビアンコネーリ(白・黒)軍団は、今年もタイトルを守った。

 スクデット獲得直後、普段のポーカーフェイスを脱いだ名将アッレグリが熱を込めて語った。その言葉に今も考えさせられている。

「サッカーはファンタジーだ」

 今季のスクデットは、過去6年で得たそれらと比べて最も苦しんで勝ち獲ったタイトルだということに異論は少ないだろう。

 実力伯仲のライバルだったナポリには開幕時点から首位を許し、前半戦終了時に“冬の王者”を譲った。ようやく3月中旬にポイントリーダーの座を奪ったものの、追いすがるナポリとの34節直接対決でまさかの黒星を喫し、再度勝ち点差1に詰め寄られた。

 連覇の夢は消えかけた。ナポリ戦の黒星はただの1敗ではなかった。

 常勝を誇ってきたホーム「アリアンツ・スタジアム」で、90分目のCKから決勝弾を叩き込まれた精神的ダメージも大きかったが、残る日程が難題だった。最終4節の対戦カードにはCL出場権を諦めないインテルとローマとのアウェーゲームがあり、さらに間を縫ってミランとのコッパ・イタリア決勝戦が控えていた。

ナポリ戦の敗戦後、ブッフォンの行動。

 このタフな日程ではどうやっても消耗は避けられない上に、守備の要であるDFキエッリーニが筋肉故障で離脱した。エースFWイグアインも公式戦8戦連続で当たりがない。

 11日前に喫したCL準々決勝敗退のショックも尾を引く中で、聡明なユベントスの選手たちはナポリ戦の試合終了ととともに、自分たちがタイトル争いで著しく不利な状況に追い込まれたことを悟った。彼らは茫然自失のままロッカールームへ引き上げた。

 たった1人、主将ブッフォンだけがグラウンドに残った。

 試合中継がどこまで放送したかはわからないが、イタリアが生んだ不世出の守護神は、勝者であるナポリの選手たち1人ひとりに握手とハグを求め、彼らを称えていた。

CLレアル戦後は審判を罵っていた。

 生き馬の目を抜くプロの世界、シーズンの趨勢を左右する大勝負で喫した敗戦。その直後、鍔迫り合いをしていた相手を称賛する、といったことは、綺麗事ではわかっていても現実にはそうそうできない。

 するとブッフォンは聖人君子か。否、ユベントスの主将はレアル・マドリーとのCL準々決勝で試合終了間際のPKと自らへの退場宣告を与えた、7歳年下のオリバー主審を口汚く罵った。

「もっと経験豊富な審判ならあの場面は流して延長戦を戦わせてくれたはず。オリバーはこの晴れ舞台で(劇的なジャッジをすることで)主役になろうとした。あいつは人間じゃない、ケダモノだ。ヒトとしての情けがあるべきところにゴミ箱があるクズ野郎だ。このレベルの試合を裁く能力がないのなら、スタンドで大人しく家族とポテトチップスでも食ってろ!」

 ブッフォンの言葉は欧州社会の一般常識に照らせば公の場での侮蔑や暴言であり、一般ファンや子供たちへの影響を危惧した関係者やファンの間で物議を醸した。

 後日になっても発言の撤回も謝罪もせず、当人は正当性を主張。UEFAからブッフォンへの最終処分はまだ出ていない。

汚名をかぶろうがタイトルに貪欲。

 彼ほどの人物が世間的に“正しい”とされる言葉遣いや立ち居振る舞いを知らなかったはずがない。しかし、ブッフォンのCLへの執着心は欧州の頂点に挑む可能性を奪った、未熟なレフェリーを許せなかった。自らの華々しいキャリアに傷がつこうが汚名をかぶろうが、不惑に達したブッフォンは今なおタイトルへ誰より貪欲だった。

 ナポリ・ショックから6日後、サン・シーロでの35節インテル戦、86分。

 ユベントスは剣ヶ峰に立っていた。

 前半早々に退場者を出し、数的不利にあるはずのインテルに圧倒される。1−2の劣勢のまま、試合終了まで残り数分足らずのところまで追い詰められていた。

 しかし、そこからFWクアドラドと途中出場のFWディバラの活躍で同点に追いつくと、土壇場の89分にディバラのFKをイグアインが頭で決め、3−2で起死回生の大逆転勝ちを収めた。

 わずか3分間で、カンピオナートの天国と地獄は入れ替わった。

心をへし折られたナポリの敗戦。

 ナポリはインテルがリードしていた86分まで、自分たちの逆転スクデットを微塵も疑っていなかった。だが直接戦わなくとも、イグアインのゴールはナポリの心を根本からへし折った。

 翌日のフィオレンティーナ戦に臨んだナポリは、試合開始8分にDFクリバリーを一発退場で失い、10人になった時点で緊張の糸がブッツリ切れてしまった。敵地で無類の強さを発揮してきたはずのナポリは誰も走れなかった。シメオネにハットトリックを許し、547日ぶりにアウェーゲームでの敗戦を喫した。今季のセリエAは、そこで事実上の終戦を迎えた。

 ローマとの37節に引き分けて、ユベントスは7連覇を確定させた。

 現地メディアでは今季のMVPは誰か、という議論がかまびすしい。

 ただ、インテル戦で劇的な決勝ゴールを奪ったイグアインにしても、10番を背負うディバラにしても、終盤に抜群の助っ人ぶりを見せたダグラス・コスタもMVPに推すにはそれぞれ決め手に欠ける。

鋼のメンタルは誰にも真似できない。

 異論を承知で言わせてもらうなら、やはりブッフォンではないかと思う。

 17年前の入団以来、彼のユベントスでの通算出場数は今季500試合を超えた。全盛期と比べれば至近距離のシュートへの反応速度や基礎体力は明らかに低下している。

 それでも、百戦錬磨の彼だけが持つ鋼のメンタルだけは誰にも真似できない。

 ブッフォンのキャプテンシーだけは、技巧を尽くすナポリであろうが中国マネーのミラノ勢だろうが持つことは叶わない、ユベントスだけのアドバンテージだった。

 レアル戦でのPK献上とナポリ戦の失点を生んだマークミスによって猛批判を受けたDFベナティアは、コッパ・イタリア決勝戦で2ゴールを上げた後、辛かった時期に支えてくれた主将以下チームメイトたちこそ本当の殊勲者だと強調した。

「ブッフォン、バルザーリ、キエッリーニ……彼らについていけば間違いなく勝てる。俺たちユベントスはだから強い」

見た目が智将のアッレグリは“博徒”。

 偉業を達成した指揮官アッレグリの手腕にも触れないわけにはいかない。

 指導者としてのスクデット個人4連覇は1930年代の名将カルカーノ以来、史上2人目だ。アッレグリは今や欧州中のビッグクラブ垂涎の的になった。

 敵味方ヘの洞察力の鋭さやシーズン中にチームを修正する能力を観察していると、彼をそら恐ろしい、と感じることがある。

 アッレグリの正体とは、ニヒルな優男や才知あふれる智将といったイメージとは裏腹に、切った張ったの勝負の世界に生きる“博徒”ではないか。勝ち続ける彼を見ながら、年々その考えが強くなっている。

 勝負度胸というか胆力というか、とにかく勝負師としての凄みでいえば、アッレグリはナポリの闘将サッリの上をいった。

 今季象徴的だったのは、ナポリに衝撃的敗戦を喫した直後「さあ、面白くなってきた。この試合こそ決定的一戦だ」と臨んだインテル戦に、FWクアドラドを右サイドバックで先発させ、2バックで臨んだ大博打だ。

 実はこの奇策は機能しなかった。事実、86分までユベントスは死に体だった。

 だが、博徒アッレグリの勝負勘は崖っぷちでこそ真価を発揮する。

 先発から外したディバラとベルナルデスキを後半途中から投入し、敵将スパレッティが攻守の要だったエースのイカルディを下げ経験不足のサントンを入れた愚策を突いて、敗退濃厚だった流れを完全に逆転させた。

「つねに蛮勇を振るう気概を持て」

 アッレグリはコッパ・イタリア決勝でも、インテル戦で逆転弾を決めたイグアインをスタメンから外すサプライズ起用に踏み切り、結果的に4発大勝に繋げている。

「つねに蛮勇を振るう気概を持て」と説くアッレグリのサッカー観は独特だ。

「サッカーは1分あればすべてが変わるし、また変えられる」

 今季もスクデットをかけた勝負を終えた安堵からか、ローマ戦後の博徒アッレグリはマイクに向かって、手の内というか、心情を晒した。

「サッカーはファンタジーなんだよ」

 話題はプレーする者も観る者も楽しめる高機動パスサッカーで、スクデットまで後一歩に迫ったナポリとの比較論だった。アッレグリは時折声を上ずらせながら、これこそが年に一度タイトルを手にしたときにだけ口にする私の本音なのだ、と言わんばかりに熱弁を振るった。

「いいプレーだとか悪いプレーだとか、そんなものは相対的なものでしかないんだよ。今のサッカーはどうもロジックで語ろうとしすぎている。うまく説明できないが、本当のサッカーってものは口や文字で説明できないことがたくさんあって、それこそが大事なんだと私はつねづね思っている。旧き良き時代の監督たちが伝えていたことに私は深く同意しているんだ。サッカーはファンタジーなんだよ」

 もし、彼が単に勝ち点3だけを追求する指導者であったら、4連覇という偉業は達成できていなかったかもしれない。

「毎年チームは変わる。ライバルも戦況も刻一刻と変わる。それに合わせるのが大事だ」

 アッレグリの発言には「自分が好むサッカー」「自分がやりたいサッカー」という言葉が出てこない。

“自分のサッカー”を押し付けない。

 彼は“自分のサッカー”を押し付けたりしない。彼が「サッカー」と口にするとき、それはもっと大きなサッカー全体のことを見据えている。

 指揮官アッレグリにしても、主将ブッフォンにしてもこの連覇の間、彼らは“タイトルを守ろう”などとは露ほども考えていなかった。前年と同じことのくり返しやすでに良しとされることへ迎合しようとしないからだ。

 興味深いことに、アッレグリと選手たちはシーズン中にナポリのことを称賛こそすれ、彼らを“スクデットへの直接のライバルだ”と発言したことはほとんどなかった。

 つまるところ、ナポリはカンピオナートでの真の敵ではなかった。

 ユベントスの面々は、鏡に映った自分たちのアイデンティティとのみ戦っていた。稀代の名将と不世出の鉄人という2大巨頭が手綱を引いていた王者ユベントスにとって、本当の敵とはユベントス自身しかいなかったのだ。

文=弓削高志

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