競走馬が最も高い能力を発揮するのは連闘で出走したときだ――という説がある。

 1989年、平成最初の安田記念を制したバンブーメモリーは、当時は京都芝1600mのオープン特別だった5月6日のシルクロードステークスで3着になってからの連闘だった。バンブーメモリーは父モーニングフローリック、母の父モバリッズという血統の牡馬で、当時旧5歳。栗東・武邦彦厩舎の所属馬だった。

 '87年11月の新馬戦からずっとダートを使われ、デビュー16戦目となったこの'89年4月の準オープン、道頓堀ステークスで初めて芝のレースに出走し、5馬身差で圧勝。手綱をとったのは武豊だった。

 武は、次走のシルクロードステークスではシヨノロマン(1着)に騎乗することが決まっていたのだが、父に「バンブーメモリーは芝でも相当強いから」と安田記念に登録するよう進言した。

 そして翌週の安田記念。その日、武は京都の京阪杯でニホンピロブレイブ(1着)に騎乗したため、名手・岡部幸雄がバンブーメモリの鞍上となった。4勝のうち3勝がダートで、しかもオープンでの勝ち鞍はゼロ。

 そのため、「岡部人気」が加わっても単勝18.7倍の10番人気という低評価だったが、それを豪快に吹き飛ばし、2着のダイゴウシュールを1馬身半突き放した。

 バンブーメモリーは、同年秋のマイルチャンピオンシップでオグリキャップとハナ差の激闘を演じ、翌'90年のスプリンターズステークスを優勝。これが武邦彦・豊の父子コンビによるGI初制覇であった。

馬を可愛いと思わないようにしていた武も。

 武にとって、バンブーメモリーは特別な馬だった。父の厩舎に行くと必ず様子を見に行き、鼻面を撫で、声をかけた。鞭で叩いたり、追ったりできなくなるので馬を可愛いと思わないようにしているという武も、この馬にだけは特別な感情を抱いていたようだ。

「こいつ、自分の足が速いことを知っていて、それを見せたくていつもウズウズしているんです」

 そんな話をしているとき、隣の馬房のオースミシャダイが顔を出すと、バンブーはガーッと口をあけて威嚇した。体が大きく、気も強い、厩舎の大将だったのだ。

今年の安田記念にも連闘の馬が。

 これほど強い馬が、なぜ、安田記念でオープン初勝利を挙げるまで、さしたる実績がなかったのかというと、脚元が弱く、ダートを使わざるを得なかったからだ。

「痛いところがなくなって、思いっきり走れるようになったんでしょう」と武。

 バンブーメモリーは連闘だったから特別な能力を発揮したわけではなかったが、連闘で出走した安田記念で、名馬への道を歩みはじめた。

 今週の第68回安田記念(6月3日、東京芝1600m、3歳以上GI)にも、連闘でオープン初勝利を狙う馬がいる。モズアスコット(牡4歳、父フランケル、栗東・矢作芳人厩舎)である。

 連闘で臨むことになったのは、特別登録の段階で出走順位が次点の19番目だったため、勝って賞金を加算すべく5月27日の安土城ステークス(京都芝1400m、オープン特別)を使ったからだ。ところが、坂井瑠星が騎乗したそこで2着となり、賞金を加算することができなかった。運のない馬なのかと思いきや、回避馬が出て、安田記念に出走できるようになった。

「連闘は、ぼくが最も得意とするローテーション」

 滑り込み出走の馬は、なぜかGIで好成績を残すことが多い。また、矢作厩舎は「怒りの連闘策」で馬の能力を目覚めさせることでも知られている。

「連闘は、ぼくが最も得意とするローテーションです」と矢作師は、共同会見でも話している。

 グランプリボスで2010年の朝日杯フューチュリティステークスと'11年のNHKマイルカップ、ディープブリランテで'12年の日本ダービーを勝っている伯楽は、モズアスコットに関して、さらにこう言う。

「ポテンシャルは疑いようがない。世界的な種牡馬にするためにもGIの勲章がほしい」

 鞍上が、この馬で4戦2勝2着2回のクリストフ・ルメールというのも心強い。

 その2回の2着は3走前の阪急杯と2走前のマイラーズカップで、どちらも、勝っておかしくない内容だった。

それほど体重が落ちていなければ……。

 父は14戦全勝の英国の名馬フランケル、母の父は米国の名馬ヘネシーという超良血。

 バンブーメモリーは連闘でもプラス2kgの馬体重で出てきた。そうしたタフさを見せてくれれば、29年ぶりの連闘勝利も夢ではなくなるだろう。

◎モズアスコット
○スワーヴリチャード
▲ペルシアンナイト
△リスグラシュー
×リアルスティール
注サングレーザー

 東京芝1600mは、ほかの競馬場なら2000mに相当すると言われており、その意味ではスワーヴリチャードが最有力候補か。

 モズアスコットの僚馬リスグラシューとリアルスティールも上位争いしそうだが、「同厩の人気薄」という格言もある。

 29年前よりメンバーは揃ったが、モズアスコットには、それをはね返すだけの潜在能力と血統的背景がある。

 ここが名馬への扉となるか、注目したい。

文=島田明宏

photograph by NIKKAN SPORTS