現在は、武蔵川部屋の師匠として弟子を預かる、第67代横綱の武蔵丸。平成の大相撲ブームを支えたひとりとして“辛口”コメントも冴え渡る。陽気なハワイアンならではの“フランクさ”で、縦横無尽に大相撲本場所を斬りまくる新連載!

 令和時代初の大相撲本場所が終わったね。前頭8枚目の朝乃山が初優勝し、相撲界にも新しい風が吹いてきた感じかな。横綱白鵬が休場していたけど、なんだか、すっかり忘れちゃっていたよ(笑)。

 昨年7月の名古屋場所では御嶽海、11月の九州場所では貴景勝、そして今年1月の初場所では玉鷲の優勝。「よし! オレも!」と若手力士たちの励みにも、刺激にもなっているはずなんだ。誰にでもチャンスがあるんだよね。

 今場所の朝乃山は、とにかく前に出ているのがよかったな。187センチ・177キロの恵まれた体格で、四つに組む本格派の25歳。今までの彼を見ていて、まだまだだな、というところもあったんだよね。体を後ろに反らせて相撲を取ることが多かったし、脚を開きすぎたり、強引な相撲があったりしたのに、今場所はそれがなかったんだ。

朝乃山へのアドバイス「初優勝は忘れること」。

 優勝を決めた14日目の豪栄道戦は、がっぷり組んで寄り切った、いい相撲だった。ただ、これは豪栄道もよくなかったんだよ。自分より大きい相手に胸を合わせちゃいけない。まわしを取られたら、もっと腰を振って動いて、掴まれたまわしを切らないとね。

 朝乃山は体もあるし、右差しの自分の形をもっと磨くと、本当に将来が楽しみな存在。これからのポイントは、「初優勝は忘れること」。優勝を喜ぶのは、本場所後の休暇1週間だけで終わりだよ(笑)。

 まだ三役経験もない地位での優勝。今後は焦らないで、それこそ1年掛けるつもりで、今より丈夫な体を作り、稽古する。そうすれば1年後とかには、大関も見えてくるんじゃないのかな?

 白鵬はじめ、上位陣とじゅうぶん渡り合える存在になっているはずだよ。

貴景勝はしっかりケガを治してから出場を。

 新大関として注目されていた貴景勝だけど、5日目から脚のケガで休場となった。

 8日目から再出場したものの、翌日からまた休場してしまったんだよね。僕は再出場に大反対だったな。出たい気持ちはわかるけれど、そこは、やはり師匠が抑えなきゃいけない。ケガから2、3日経って、まずは稽古場での動きを見てから判断しないとダメだよ。

「痛みがないから大丈夫だろう」と、稽古場に下りずに、ぶっつけ本番で出るから、こういうことになる。

 結局、ケガをしているのがわかると相手もやりにくいし、休場での不戦敗となると、これも迷惑になる。

 再休場した日の相手は、栃ノ心だったんだ。不戦敗は、相手にとっては戦わずして白星が転がり込んで来ることになるから、「ごっちゃんでした!」と思うかもしれないけれど、ひとつの好取組がなくなってしまう。お客様に申し訳ないんだよなぁ。

 高いお金を払ってわざわざ足を運んでくれ、重〜いおみやげの袋まで持って帰るんだよ? あ、おみやげは関係ないか(笑)。

 新大関として先が長いのだから、今は無理しないでいい。稀勢の里のいい例――いや、悪い例があるんだから。

栃ノ心の立ち合い変化はガッカリだった。

 今場所の話題のひとつは、10勝して大関復帰を狙っていた栃ノ心。

 ようやく14日目に10勝し、復帰を決めたね。13日目の朝乃山戦で、かかとが土俵を割っていたかどうか物言いがつき、軍配差し違えで、まさかの黒星。

 悔しいのはわかるし、何が何でも10勝したかった気持ちはすごくわかる。でも、翌日に、立ち合い変化で勝ったのにはガッカリだったよ。「今の自分の持っている力を出し切って、もし復帰できなかったら、また戻れるように頑張ろう」と思って挑まなきゃ。いくら数字上の星を挙げても、自分の現在の力ではない方法で勝っては、今後の自信にはならない。また同じことにもなりかねない。

 しかもこの日は結びの一番で、これまたお客様に申し訳ない……って、代わりに謝ってばかりの僕だな(笑)。

全世界に大相撲が知られるプラス面も。

 今場所を振り返ると、最初のうちはまだよかったのに、やっぱり高安、豪栄道などの大関陣がもっと存在感を示してほしかったんだよなぁ。

 ちゃんと場所を締めてこその横綱、大関だからね。もちろん新しい風が吹いた場所でうれしいんだけれど、「old wind」もここで頑張らないとな。 

 そうそう、千秋楽には国賓としてトランプ大統領が観戦して、周囲は準備や警備など本当に大変だったみたいだ。

 いつも通りの雰囲気ではなく、取組に影響があるのは、“元オスモウサン”として、ちょっと哀しかったかな。リズムも狂うし、入場直後の館内のざわつきのなかで、土俵下で5分も待たされたのは朝乃山と御嶽海。「いざ!」と花道から出て来ても、緊張感が続かず、集中できなかったかもしれないよね。

 でも、プラスマイナスで考えたら、全世界に日本の大相撲が知られることにもなり、プラスの方が大きいと僕は思っているんだ。

 大相撲のためなら、僕が通訳――いや、SPやってもよかったのになぁ(笑)。

(構成・佐藤祥子)

文=武蔵川光偉

photograph by Takuya Sugiyama/JMPA