「僕は失点につながるようなミスをしたGKは、当たり前のように叩かれるべきだと思っていますよ――」

 返ってくる答えは、予想と違っていた。一度のミスが敗戦に直結し、批判に晒される可能性の高いポジション。だからこそ、根拠なく擁護の言葉を期待していたのかもしれない。

 ただ、丁寧に説明されるゴールキーピングの理論を聞き進めると、この人の頭の中ではいかに一つひとつのプレーが緻密に組み上げられているかが分かってくる。まさに「水も漏らさぬ」という姿勢で、ゴールを守ることの最善を突き詰めている。

 だからこそ、同じ失敗を繰り返さないためにミスから目を背けてはいけない。ミスは厳しく検証されなければいけないというのだ。

「もっとGKに関心を」

 松永成立、56歳。国際Aマッチで40キャップを誇る元日本代表の「背番号1」だ。現役時代のプレーを目にしたことのない人でも、1993年10月28日の、あの“ドーハの悲劇”の時に日本のゴールを守っていたGKといえば分かるだろう。

 現在、横浜F・マリノスのGKコーチを務める。指導者としての松永は、批判は必要としながらも、受け入れる前提としてこうも話した。

「もっとGKというポジションに関心を持って、知って欲しい。そして良いプレーに対してはきちんと評価をしてあげるべきだ」と。

 昨年のロシアW杯を境に、日本でもGKの重要性に注目が集まるようになった。GKの出来は、ストライカー以上に試合の成否を左右する。それが人々に認識されたことは良いことだった。

 しかし、GKのプレーに対して日本では、セービングなど表面の事象しか見ていない人が多い。関心すら示さない人に、どのようにこのポジションに目を向けさせるか。今後、日本のGKのレベルを上げるためにも、周囲に注目される環境作りは必要になってくる。

GKは監督の考え方によって左右される。

 大型で俊敏で、足元の技術がある、等々。GKの世界的潮流については、漠然としたイメージを持ちがちだ。しかし、GKのプレースタイルは必ずしも一つの流れに乗って決まるものではないという。

「例えばプレミアリーグを見ても、守備的なチームもあれば攻撃的なチームもある。それによってGKに求められるプレーは変わる。スタイルを決めるのは、その時の監督の考え方や戦術です。守るだけのGKでいい場合もあれば、足元のビルドアップ能力を求められる場合もある。

 監督の考え方によってかなり左右されるので、育成年代の頃から、様々なタイプの監督の下でもやれるような技術、戦術を身に付けることが必要になってきます。もちろん僕もトータルな能力を持つGK育成を目指しています」

劇的に変わったマリノスサッカー。

 昨季からアンジェ・ポステコグルー監督が就任したことで、F・マリノスのサッカーは劇的に変化した。ハイラインを敷くことで、GKもペナルティエリアを飛び出して、最終ライン近くで組み立てに参加することを求められるようになったのだ。

 スタイルの大幅な転換。幸いなことに昨シーズン全試合に出場した飯倉大樹は、元々足でのボール扱いに長け、攻撃志向が強かったので戸惑いはなかった。今シーズン加入した朴一圭も、DFラインに入ってビルドアップに関わるプレースタイルを得意とし、足元に自信のあるGKだった。

「確かにハイラインの後方には広大なスペースがあるので、ポジショニングミスで頭を越されるという場面もありました。それについてはコーチングスタッフ全員で話し合って修正したので、いまのところは大きな問題はない。ただ、これが慣れないGKだとパニックに陥ると思いますけれどね」

決して選手に押し付けない。

 指導法には、確固たる哲学がある。自らの考え方を、決して選手に押し付けないということだ。

 プロにまで上り詰めてくる選手は、成長の過程で必ず優れた指導者に巡り会っている。いろいろな指導法を吸収して現在の選手が存在している。「だから、これまで関わった指導者たちを絶対にリスペクトしなければならない」と常日頃から選手に言っている。

 最終的な決定権は選手側にある。型にはめるのではなく、幾つかの選択肢を示して、選手と共に最良のものを見つけ出す。その作業を延々と続ける。

 あえて「技術的」ではなく「戦術的」という表現となるプレー要素の数々。その中で最も重要となるのはポジショニングと、体の向きも含めた構えだ。これを例にとってもチェックする要素は多岐にわたる。

 ボールがある角度にもよるが、ポジショニングはニアを空けず、頭を越されないことを注意する。構えに関してもボールとの距離によって、前重心の場合もあれば後ろ重心もある。高低差や手の位置、膝の角度、歩幅と、事細かにチェックする。

 そして実際にシュートを受けるという試みの中から、選手がフィットする感覚を探し出す。デリケートな微調整が妥協なく行われている。

フィールドプレイヤーとは違うミスの重さ。

 サッカーは極端な言い方をすれば、いかにミスを減らすかを競っているといってもいい。ミスの少ない方が、勝利に近づく可能性が高い。

 ただ、ポジションによってミスの持つ重さの価値は異なる。ストライカーが1対1のシュートを外しても、いずれ忘れ去られる。対照的にミスによる失点、それが敗戦につながれば、GKのプレーはマイナスのイメージとして深く人々の脳裏に焼き付く。だからGKのトレーニングは、同じミスが「次の試合で絶対に起こらないように」を、より強く意識して行われている。

「不安要素を徹底的に取り除く。緻密さの積み重ねでしかそれはできない。そこで大事になるのが指導者の考え方、知識、指導力。そういうところになると思います」

成長に必要な周囲の厳しい目。

 現在のJリーグを見渡すと、日本のGKも昔に比べれば確実に成長しているという。

 ただ、その伸びしろの幅をより広くするために、日本全体で日本に合うGK像というものを常に考えていく必要があるという。

「いまは日本代表でも、誰を正GKにするか迷っている時期だと思うんです。一時期の(川口)能活や楢崎(正剛)みたいな絶対的な存在がいない。だからといって人材が急に出現するわけでもない。近道はないわけだから地道にやっていくことが唯一の手法です。

 必要になるのは事細かく、とことん追求すること。周囲の厳しい目は、結果として選手の成長の助けになるんですよ」

 説得力のある筋道の上に成り立つゴールキーピング理論。伝わってくるのは、完璧を突き詰める求道者の熱気だ。

 それも当然だろう。26年前のあの悲劇的な出来事を思い起こせば納得がいく。イラク戦のロスタイムに失った同点ゴール。わずか1ゴールで、松永は夢のW杯出場を逃した。その意味で歴代の日本代表で、1失点の重みを最も知るGKだ。

 だからこそ1点の価値に、とことんこだわり続ける。

文=岩崎龍一

photograph by Ryuichi Iwasaki