「このメンバーで1試合でも多く戦いたい」

 その思いが、グループステージ初戦を引き分け、このまま終わってしまうかもしれないという不安に包まれたチームを奮い立たせた。

 ベスト16が出そろい、決勝トーナメントがスタートしたFIFA女子W杯フランス大会。開催国のフランスや前回大会優勝のアメリカなど、強豪国が順当に勝ちあがりを決めたほか、1999年大会以来のW杯出場となったイタリア、出場2回目のスペインも初の決勝トーナメント進出を勝ち取るなど、近年成長著しい欧州各国の躍進も目立ったグループステージだった。

 欧州諸国は今大会が来年の五輪予選も兼ねていることから、「欧州上位3カ国」に入ることを重要視しており、ここからも激しい戦いが予想される。

簡単ではなかったグループステージ。

 日本のグループステージは、大事な初戦のアルゼンチン戦では0−0の引き分け、2戦目のスコットランド戦こそ2−1で勝利したものの、グループ1位をかけて戦ったイングランド戦は0−2と完敗。1勝1分1敗のD組2位で決勝トーナメント進出を決めたが、グループステージを勝ち抜くのは決して簡単ではなかった。

 初戦の試合直後は、まるで勝ったかのように喜びを表すアルゼンチンに対し、負けたかのような空気を放った日本。同じ勝ち点1だが、全く違う意味を持つことが伝わってきた。

 試合を振り返り、「私たちのやり方が間違っていたのかなと思ってしまう」と吐露したのは、このチームを牽引する鮫島彩。

 W杯初出場の選手が17人と、経験の浅い選手たちを牽引してきた自らを責めるような言葉を口にした。しかし、肩を落としながらも、目に力をこめ、次に逞しく戦うために「間違ってないと思うし、しっかりみんなで話して次に進みます」と気丈に語った。

士気を高めた選手間のミーティング。

 鍵となったのが、初戦から2戦目の間に行われた選手間のミーティングだった。

 キャプテンの熊谷紗希と鮫島が中心となり、全員が集まり、思いを交換し合った。

「このメンバーで少しでも長く一緒に戦っていきたいから」

 その中には、まだ怪我から復帰できていない選手への思いも込められていた。中でも、連日、誰よりも長い時間をかけてトレーニングに励み、ピッチに立つ努力を続けている阪口夢穂への思いは強い。

 思いがけず自分の名前が出た阪口自身も、目立つことを恥ずかしがる性格なこともあり、「その思いはとても嬉しかったですし、照れた。でも、私のことは気にせずに、自分たちのことだけに集中してみんなは戦ってほしいって思いました」と、その日のことを振り返る。

「一緒に戦うためにも、ここで終わるわけにはいかないんだ。絶対に勝ちたい――」

 そんな思いを伝えあう中で、感極まり涙を浮かべる選手もいたという。

守護神・山下も感じたチームの結束。

 チームの守護神で、初めてのW杯に臨んでいる山下杏也加はこう振り返る。

「空気を変えられたのは、あのミーティングがあったからというのは大きいです。4年に1度のこの舞台に、こうして23人が集まって試合をするのは本当に特別なこと。その時間は限られているんだということ。もちろん、私たちも特別な舞台であることは頭ではわかっていたけれど、紗希さんや鮫さんが話してくれて、いかに重みのあるものなのかということをあらためて感じました。

 少しでも長くみんなと一緒にこの舞台でサッカーがやりたい。そんなチームの想いが強まりました」

勝ち点3を引き寄せた2トップ。

 迎えたグループステージ第2戦のスコットランド戦。

 会場入りする選手たちの表情、漂う空気は、初戦とは全く違って見えた。そして試合が始まると、立ち上がりから勇敢に戦い、選手たちは自分たちの良さをピッチで表現してみせた。

 中でも、2トップの菅澤優衣香、岩渕真奈の二人の存在がチームに力を与えていた。

「私は言葉で引っ張れるようなタイプではないのでプレーでチームを引っ張っていきたい」と菅澤が語ると、「もちろんチーム全員で戦うけれど、まずはピッチに立つ11人が責任を持って出し尽くすことが大切」と岩渕も気迫を込めた。

 まさに有言実行。2トップが得点をしたことが何よりチームに勢いをもたらした。

輝きを見せた19歳遠藤純。

 そんな中、この試合で未来につながる光ともいえる存在感を見せたのは最年少の遠藤純だった。'11年になでしこジャパンがドイツ大会で優勝した時は、テレビ画面で見る先輩たちに憧れを抱く小学5年生だった。

 翌年のロンドン五輪には、企業の小学生を対象とした企画で招待され、なでしこジャパンの戦いを現地で目にしている。「私もあの舞台に絶対に立ちたい」と心に強く誓ったという。

 その夢を叶えて立つピッチで、岩渕の先制ゴールのアシストを決めて見せた。この大会を通して、「自信を持って」「冷静に」という言葉を多く口にする彼女は、初めてのW杯にもかかわらず、堂々たるプレーを見せ、ピッチで存在感を示している。

 大会期間中にどれだけ成長する姿を見せてくれるのか、決勝トーナメントでも楽しみな選手である。

次なる相手は欧州女王オランダ。

 イングランドとの第3戦では、0−2の完敗に課題も多く残ったが、2位通過ということもあり中5日という準備期間も得た。いよいよここからは負けたら終わりの決勝トーナメント、対戦相手はE組1位のオランダだ。

 前回のUEFA欧州女子選手権チャンピオンでもあるオランダ代表は、高さ、スピードを兼ね備え、速攻にも迫力がある、ここ数年急成長中の強豪チームで、中でも警戒すべきは、前線の3枚の右、ファンデサンデンだ。

「彼女は爆発的なスピード、パワーもあり、突破力もある。いい形で彼女のところにボールが入らないようにしないといけない。話し合いながら対応していきたい」と熊谷。

 フランスのオリンピック・リヨンでチームメイトとしてプレーするだけに、お互いに手の内を知り尽くしている。選手として尊敬し、普段から仲がいい相手だが、試合では要注意の存在だ。

大親友との対戦に、岩渕は「絶対負けない!」

 もう1人警戒すべきなのは、ワントップで圧倒的な得点力を誇るミーデマ。

「バイエルンで一緒にプレーした中でも一番の仲良しだし大好き」

 かつてバイエルン・ミュンヘン所属時代に一緒にプレーした岩渕は、日本から旅行した際も彼女の自宅に泊まるほどの大親友でもある。続けて、「シュートもうまいし、キックフェイントもある。とにかくゴール前での彼女の存在は脅威です。これまで一緒にプレーしてきた選手の中でもダントツにうまい」とそのプレーを絶賛。

「連絡を取り合ったけれど、絶対に負けない! と伝えました」と対戦を心待ちにしている。

 オランダ戦を前に、「今までで一番みんなの声が出ている」と鮫島は笑顔を見せる。そして、「チームがひとつになること。負けたら終わりだという事をもう一度全員で理解してのぞみたい」とキャプテンの熊谷も、強い表情で前を見つめる。

 夢の舞台“決勝”に立つための第一歩、オランダ戦が目前に迫っている。「少しでも長くこのメンバーと戦いたい」という思いを胸に、なでしこジャパンはまずはベスト8進出をかけて戦う。舞台は、唯一グループステージで勝利した場所でもあるレンヌ。

 日本時間の26日午前4時キックオフ。勝負の行方はいかに――。

文=日々野真理

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