6月23日に行われた宝塚記念(GI)を制したのはリスグラシュー(牝5歳、栗東・矢作芳人厩舎)だった。

 キャロットファームの勝負服にピンク色の帽子。2016年に同レースを優勝したマリアライトと全く同じなのだが、牝馬という点も共通している。

 春のグランプリとして知られるこのレース。牝馬の優勝例はここ10年で2頭、すなわちマリアライトとリスグラシューだけだが、'05年には、スイープトウショウが11番人気というダークホースにもかかわらず牡馬勢を一蹴した例がある。

 当時の1番人気馬は、'03年のジャパンCの覇者で、前年の宝塚記念に続く連覇を狙ったタップダンスシチー。2番人気は、前年の秋に天皇賞、ジャパンC、有馬記念のビッグレースをコンプリートしていたゼンノロブロイ。彼等をまとめてかわした末脚は、いかにも牝馬特有の切れ味を感じさせたものだった。

 また、先述したマリアライトも、8番人気という低評価を覆しての優勝劇だった。この時の1番人気馬はドゥラメンテで、2番人気がキタサンブラック。

 前者は前年、皐月賞と日本ダービーの2冠を制覇。直前には海を越え、ドバイシーマクラシック(GI、ドバイ)で当時ヨーロッパの最強馬とも言われていたポストポンドの2着に好走。後者はこの前に春の天皇賞、この後にはジャパンCを優勝し、この年、そして翌年も年度代表馬に選出された馬。これらの名馬を退けた伸びは、やはり牝馬らしい切れを感じさせる脚だった。

キセキ、レイデオロに次ぐ3番手。

 ひるがえって今回のリスグラシューはどうか。マリアライトと共通していたのは、馬主と枠、それに性別だけではなかった。前年にエリザベス女王杯を制してGI初制覇をした後、牡馬を相手に3戦し、勝てこそしなかったものの常に善戦を繰り返していたところまで同じだった。

 しかし、宝塚記念の勝ちっぷりに関しては、前述の牝馬2騎とは決定的に違った点がある。リスグラシューだけは、ダークホースではなかった。

 彼女は、3.6倍で1番人気に推されたキセキ、3.9倍で2番人気に支持されたレイデオロに続く3番人気だった。単勝5.4倍という、それなりの評価を受けていたのだ。

手応えを掴んだ香港遠征。

 リスグラシューはエリザベス女王杯を制した後、香港へ飛んだ。暮れに行なわれた香港ヴァーズ(GI)に挑戦すると、地元馬エグザルタントにこそ後塵を拝したものの、牡馬の一線級を相手に2着と好走。今春は金鯱賞でダノンプレミアムの2着した後、再び香港へ遠征。今度はクイーンエリザベス二世カップ(GI)に挑戦し、ウインブライト、エグザルタントに続く3着に好走していた。

 2度の香港遠征で、着順こそ2着から3着と1つ落としたものの、管理する矢作調教師は盛んに次のように語っていた。

「最初の遠征の際は環境の変化のせいもあって、正直、万全と言える状態で走らせてあげる事が出来ませんでした。でも、クイーンエリザベス二世カップの時は、2度目の遠征ということもあり、リスグラシューがよく耐えてくれて、本来の良い状態で走らせてあげる事が出来ました」

 勝てなかったことはもちろん悔しかったが、良い状態で臨ませてあげられたことに対しては満足出来たと続けた。

矢作調教師は「楽なものですよ」。

 そして迎えたのが今回の宝塚記念だった。

 馬場入りする際にはかなり気合が乗っており、手綱を取るダミアン・レーン騎手が少々手こずるシーンを見せた。それを凝視していた矢作調教師に、すぐ直後に「だいぶ気合が乗っていますね?」と聞くと、伯楽は答えた。

「ジョッキーが乗ってからグッと気が乗った感じです。でも、装鞍所やパドックへ入った時は落ち着いていました。関西の競馬場ですからね。楽なものですよ」

勝算を持って挑んだ宝塚記念。

 思えば、3歳の春先にはなかなか結果を残す事が出来なかった。2歳の未勝利戦では阪神のレコードタイムをマークして勝つような素質馬だったが、桜花賞で2着に惜敗すると、オークスは5着。秋華賞も2着に敗れていた。

「あの頃は競馬場へ輸送をするだけでダメージがありました。関東への輸送となるとなおさら。そのせいで、持っている力をレースへ行って出せない感じだったんです」

 それが古馬になり、芯が入ったのだろう。昨年の香港などではまだ環境の変化を気にする面があったそうだが、それも解消した上で、今回は関西圏でのレース。たとえ牡馬の一流どころが相手でも、充分に勝負になるという計算を、陣営は立てていたのである。

キセキに3馬身差の圧勝劇、次なる舞台は?

 さて、結果は皆さんご存知の通り。

 逃げた1番人気馬のキセキをマンマークで捉えに行くと、早目にかわし、後は独走態勢。リスグラシュー以外の馬の末脚を封じたキセキに3馬身差をつける圧勝劇。牝馬特有の切れる脚を駆使して、というレースぶりではなく、力ずくで牡馬勢をねじ伏せ、独擅場といって良い内容で自身2度目のGI制覇を達成したのである。

 今後、目指すところはどこになるのか。

 国際派で知られる矢作調教師であり、事実この馬自身、2度も香港に飛んでいるのだから“3度目の正直”を目指して、海を越える可能性はかなり高いだろう。

海外に強いハーツクライ産駒。

 ちなみに、リスグラシューの父はハーツクライ。'05年の有馬記念で史上最強と言われたディープインパクトに初めて土をつけたこの馬は、翌'06年、ドバイでドバイシーマクラシックを優勝すると、イギリスのキングジョージVI世&クイーンエリザベスS(GI)でも僅差の3着に好走。

 種牡馬となった後には、産駒のジャスタウェイがドバイのドバイデューティーフリー(GI、'14年、現ドバイターフ)を、アドマイヤラクティがオーストラリアのコーフィールドC(GI、'14年)を、ヌーヴォレコルトがアメリカのレッドカーペットG(GIII、'16年)を勝った他、スワーヴリチャードやシュヴァルグランらも海外で好走。海外遠征で良績を残す種牡馬となっている。

 そういえば、前述したスイープトウショウが宝塚記念を勝った時、2着だったのがこのハーツクライだった。

文=平松さとし

photograph by Satoshi Hiramatsu