「(第2セット以降)彼のファーストサーブの確率が上がり、エースも増えてきて、リターンゲームでほぼチャンスがなかった。セカンドサーブにもタイミングが合わなくなった。あと、自分のファーストサーブの確率が低かった。どのサービスゲームもプレッシャーを感じながらやっていたせいで、リターンゲームに気持ちが入っていけなかった」

 錦織圭は第2シードのロジャー・フェデラーにウィンブルドン初の4強入りを阻まれた。本人が話したように、互いのサーブとリターンが勝敗を分けるポイントになった。

「ちょっと焦ってしまったり」

 フェデラーのファーストサーブ時のポイント獲得率は81%に達し、錦織の武器であるリターンは封じられた。第2セットは、フェデラーのファーストサーブが入ると錦織は1ポイントも奪えなかった。

 逆に錦織のファーストサーブ時のポイント獲得率は57%と、今大会で最も低い数字になった。2回戦で79%、3回戦で85%とサーブからの組み立てがうまくいっていたが、ミハイル・ククシュキンに苦戦した4回戦では66%に下がっており、サーブの調子は下降気味だった。

 特にフェデラーがギアを上げた第2セットは、ファーストサーブ時に36%、セカンドサーブ時は25%とポイント獲得率が伸びなかった。

 と、ここまでは試合のアウトラインにすぎない。錦織の以下のコメントをもとに、もう少し敗因を掘り下げてみたい。

「自分のプレーが継続できなかった。第2セット以降、相手も強くはなりましたけど、ちょっと焦ってしまったり、もう少し我慢しながら――ま、それも彼の強さからくるプレッシャーだったり、ベストな選手とやっているので、彼の強さに負けた部分だと思います」

ジョコ戦でもしばしば聞かれる表現。

 焦ってしまった、という言葉は、例えばノバク・ジョコビッチとの対戦を振り返る中でもしばしば聞かれる。普段はあれだけ沈着冷静に戦術を遂行する錦織が、なぜフェデラーやジョコビッチには「焦る」のか。

 つまりそれが、ラファエル・ナダルを含むビッグ3の圧力なのだ。

 圧のかけ方は個々に異なる。フェデラーは早い攻めで圧力をかけてくる。自身のサーブからの、いわゆる「3球目」、グラウンドストロークの最初のショットで急襲をかけるのだ。大胆に前に入り、角度のあるショットを打たれると、錦織はどうすることもできなかった。

 錦織のサーブに対するリターン、すなわち「2球目」にも非常に厳しいボールが来た。なかでも、サーブを打った錦織の足もとをえぐるような、深い高速リターンに苦しめられた。フォアハンドの握りが厚い錦織にとって、この食い込んでくるボールは最も苦手なショットだ。

 こうして、2球目、3球目で厳しく攻めてくるのが脅威となったのは間違いない。

フェデラーの厳しいサーブとリターン。

 大会では、9本以上の長いラリー、5〜8本の中程度の長さのラリー、4本以下の短いラリーに分けて得点を集計し、公開している(ショット本数にはサーブとリターンを含む)。

 この試合、4本以下のショットで決着したラリーでは、フェデラーが107ポイント、錦織が81ポイントと大差がついた。フェデラーのサーブとリターンが厳しく、それを生かした早い攻めが機能したことが分かる。

 そして、その早い攻めが、やられる前に自分も行かなくては、と錦織の焦りを誘うのだ。

 今大会の錦織はネットに出てボレーで決める場面が目立ったが、この試合では39回ネットに出て22得点と、ネットでの得点率は56%にとどまった。

積極的な戦術は間違いではない、が。

「焦って出てしまった部分があった。彼のリターンやパスもすごかったので、(得点率の低さは)しょうがない」と錦織。フェデラーに対して積極的な戦術をとるのは間違いではないが、やや無謀なラッシュや、相手の誘いに乗ったかのようなネットアプローチもあり、確かに焦りも見てとれた。

 第1セットの錦織は素晴らしい攻撃を見せた。フォアハンドの逆クロスで相手をコートの外に追いやり、鮮やかなダウン・ザ・ラインで仕留めた。芝の帝王フェデラーを、文字通り右往左往させた。しかし、フェデラーが立て直し、圧力をかけてくると、形勢が逆転した。

第3セット終盤は押し切られる形に。

 第3セット4−5からの第10ゲームではブレークバックのチャンスもあったが、これも「焦り」からなのか、バックハンドのリターンを大きくアウトした。この第3セット終盤はフェデラーもややトーンダウンしていたが、まさに錦織に圧力をかけ、パワープレーで押し切った格好だ。

 このゲームをブレークしていたら、何かが起きた可能性もある。しかし、そうさせないのが、錦織の言う「彼の強さ」なのだろう。

「全体的にプレーの質は良かった。芝でも安定してプレーできるんだなと自信になった」と錦織は大会を振り返った。

 しかし、全豪、全仏に続き、またも8強止まり、ビッグ3の一角に「強さ」を思い知らされる結果となった。

文=秋山英宏

photograph by Hiromasa Mano