徳俵に片足をかけた広島が意地を見せた。

 自力優勝が消滅する可能性もあった19日から首位巨人に3連勝する粘りを見せた。3連戦のうち、2試合が1点差以内の勝利で、残り1試合も2点差以内の接戦。全3試合が逆転勝利。サヨナラ勝利もあった。

 昨年のような広島が戻ってきた、と言うのは早計だろう。ただ、崖っぷちに立たされたことで、本来あるべき姿を思い出したとは言えるような気がする。長丁場のペナントレースも後半戦に入り、徐々に決着に向かう中で、純粋に「勝つ」ことへの貪欲さ、執念などが垣間見えた気がした。

 勝ち続けることは、勝つことよりも難しい。

 プロ野球史上最長のV9を達成した巨人を率いた川上哲治氏は「勝負に強いか弱いかは、執念の差」と言っていたという。

スモールベースボールが必要?

 広島はその巨人以来のセ・リーグ4連覇を目指している。昨年までの3連覇は、厚い攻撃力を中心にした戦いでセ・リーグを独走してきた。まさに横綱相撲のような戦い方だった。

 だが、今季はスタートに大きく躓き、5月に球団新の月間20勝を挙げるも、6月は交流戦で最下位となるなど急失速。一時はリーグ5位まで転落した。

 前半戦で、今季は昨季の76試合よりも、8試合多い84試合を消化した。総得点は昨年の379点に対し、今季は317点。チーム本塁打数も昨季の90本から73本と減った。チーム防御率が3.45と昨年の4.08から良化しているにもかかわらず、大きく負け越したのは打力低下が一因といえる。

 今季の戦力であれば、よりスモールベースボールに近い野球が必要なのかもしれない。ただ、昨季のような攻撃力を期待して進めているように映った試合もあった。チームに隙があったわけではないだろうが、今季の広島は横綱相撲では勝ちきれない厳しい現実に直面している。

勝ち続けてきた者だけが知る苦しみ。

 一方セ5球団は大型補強した巨人を筆頭に、広島からの金星をとるため目の色を変えてシーズンに臨んでいる。

 今季の広島に12球団で最も欠けているものがあるとすれば、飢餓感だったかもしれない。もちろん、広島の首脳陣、選手、誰もが優勝したいと強く願っている。ただ、心の底から湧き上がる熱量、執念は3年間苦汁をなめ続けてきた5球団と差が生じても不思議ではない。

 4連覇の難しさは歴史が証明している。どれだけ負けても「3連覇」の事実は消えない。その事実は広島に根付く自信であると同時に、悔しさから立ち直る糧にもなるが、一方で、自分を許す逃げ道となってはいけない。勝ち続けてきた者だけが知る苦しみを今、広島は味わっている。

逆境こそが変わるチャンス。

 ただ、自力優勝消滅を目前に勝つしかなくなった状況が、変わるチャンスかもしれない。

 思えば、5月の快進撃のきっかけも、逆境から生まれた。借金8で迎えた4月17日、熊本での巨人戦。8回裏に巨人の丸に勝ち越し2ランを浴びて崖っぷちに立たされるも、そこから9回に2点差をひっくり返して連敗を止めた。あそこから広島は勢いづいた。チームの精神的支柱の1人、小窪哲也は「勝つことでまとまっていく。熊本での石原さんの一打は大きかった」と振り返った。

 再び巨人を相手に復調の兆しをつかんだ。とはいえ、まだ首位巨人に9ゲーム差も離された3位。チームの形が確立されたわけでもなく厳しい状況には変わりはない。とはいえ、楽しみではある。逆境こそが、広島の飢餓感を刺激するのではないかと。これからの戦い、今季の広島が持つ潜在能力が試される。

第48代横綱大鵬の言葉。

「『もうだめだ』と思った次の瞬間にもう一歩と踏ん張る耐える精神力が、何者にも負けない、打ち克つ力を養う」

 6場所連続優勝を誇る第48代横綱大鵬の言葉だ。

 戦いは143試合までではない。3連覇した昨季までも手にできなかったものがある。クライマックスシリーズ、日本シリーズこそが広島にとっての大一番とも言える。

 逆境を乗り越え、広島はどう変わっていくのだろうか。“千秋楽”まで、まだ時間はある。

文=前原淳

photograph by Kyodo News