平良海馬が投じた1球に、球場には割れんばかりの歓声が響く。

 観客のどよめきは、その後、大きな拍手に変わり、試合の流れまでも変えていく。151キロのストレートでストライクを取ると、2球目も154キロのストレート。打球を詰まらせ、首位を走る福岡ソフトバンクの強打者・内川聖一を見事、セカンドゴロに打ち取った。2球で挙げたプロ初勝利だった。

「キャッチャーの森さんに要求されたところに、しっかりと投げることだけを考えました。強気で投げられたと思います」

登板ごとに成長を見せる19歳。

 平良は2018年、ドラフト4位で八重山商工高校から入団。ルーキーだった昨シーズンはイースタン・リーグで主に中継ぎや抑えとして10試合に登板した。今シーズン、7月8日にプロ初の一軍昇格を果たし、19日に初登板。ビハインドの場面での中継ぎから、徐々に結果を残し、現在では同点、またはリードする場面でマウンドを任されるようになった。

 8月30日の福岡ソフトバンク戦では同点の7回、2アウト二、三塁のピンチで登板し、その裏、味方が勝ち越したために勝利投手となった。「(決勝打の)森さんのおかげ。ラッキーな1勝という感じです」と未だ実感がないような、淡々とした口調で振り返った。

 8月24日の東北楽天戦では2アウト満塁、一打出れば逆転のピンチでマウンドに上がり浅村栄斗と対戦。球威のあるストレートで浅村を空振り三振に切って取り、勝利をたぐり寄せた。

「浅村さんから真っすぐで三振を取ったときも、『自分の球のほうが押している』と感じました。そういう、すごい打者、1人ひとりとの対戦があるので今は自信を持ってマウンドに上がれています」

 19歳の新星は今、登板する1試合ごとにぐんぐんと成長している。

「宣銅烈のような、まさに剛腕」

 昨シーズンから首脳陣注目の投手だった。

 昨年の夏、一軍が首位をひた走っている最中、潮崎哲也二軍監督(当時)に注目すべき選手を聞いたところ、真っ先に名前が挙がったのが平良だった。

「以前、中日にいた宣銅烈(ソン・ドンヨル)のような、まさに剛腕。とにかく球が強くて、おもしろいピッチャーです。今は一軍が優勝を争っている大事な時期なので、とても『一軍で試してください』とは言えないですが、来シーズンは一軍デビューをしてほしいと考えているピッチャーですね」

 たった1年の間に“試す”どころか、重要な役割として一軍の戦力となっている。

 転機となったのは高校3年生のときだ。

「ウェート・トレーニングに励んでいたら150キロ出るようになったんです。もともとスピードを上げようと思ってトレーニングをしていたわけじゃないんですけど、結果的にスピードが上がりました。あの時期がなければきっとプロにはなれていなかったと思います」

 8月27日の北海道日本ハム戦では、球団史上最速タイとなる158キロを記録した。

先輩や相手を見て、盗む。

 ダイナミックな投球スタイルに目を奪われがちだが、一方でクレバーな一面も見せる。

 当初はビハインドの場面で登板する試合が多かった。

「一軍に上がったばかりのオリックス戦で打たれたときに、変化球でカウントが取れなくて苦しんだんです。そのときに『変化球でストライクが取れる感覚』を準備することが大事だと思いました。体の感覚は毎日違うので、その日の感覚をなるべく早くつかんで、ブルペンにいる間に修正して試合に入れるようにしています」

 先輩投手や対戦相手も観察の対象となる。

「どんなボールでストライクを取っているか、どういう配球をしているのか、見ていますね。もちろん、うちの増田さん(達至投手)も観察しています。どんなカウントやアウト数で真っすぐで押すのか、どんな場面でスライダーやフォークを使うのか。見ることも大切な勉強だと思うので……」

平良が見せる繊細さと力強さ。

 試合数を重ねるごとに、徐々にゲームの明暗を分ける場面での登板が増えた。

「今はとにかく僅差の場面で投げることが多いので、点を取られてはいけないと思って、打者の反応を見て間を長く取ったり、またクイック気味にしたりしています。ポンポンと行かずに、一球一球大事に……」

 打者の反応を観察して、タイミングを計るなど、繊細な一面も持ち合わせている。

 一軍に上がったばかりのころは捕手のサインに首を振るシーンも目立った。

「自分には自分の考えがあって、合わないときはしっかり首を振ることも大事だと思っています」とキッパリ。打者を打ち取るためには、たとえ先輩に対しても遠慮はない。意思の疎通を図り、信頼関係を深める大切さも感じている。

 同じ寮生で平良の素顔をよく知る今井達也は、彼についてこう語った。

「石垣島出身で、普段はのんびりしているんですけど、マウンドでは堂々としていて、緊張はしていないみたいですね。そこが平良のいいところだと思います。年は僕よりひとつ下ですけど、パワーピッチャーだし、試合の大事なところを任されている。頼もしいです」

速さよりも「強いボールを」

 また1人、ライオンズにとっては楽しみな若い投手が台頭してきた。

 平良は言う。

「マウンドで緊張はしないですね。マウンドに上がったらやることはわかっているので。球速はあまり意識していません。160キロを投げたいというよりは、『球速が上がれば打者も打ちにくいだろうな』と思うくらいで。強いボールを投げたいという理想は常にあります」

 ライオンズは平良の活躍もあり、首位の福岡ソフトバンクをわずかなゲーム差で追っている。この先、負けられない試合が続くが、おそらく、これまでの野球人生では経験したことがないであろうプレッシャーの中で、平良はどんな投球を見せてくれるだろうか。

文=市川忍

photograph by Kyodo News