羽生結弦は2019-'20シーズン初戦となるオータムクラシックで、ショート98.38点、フリー180.67点、合計279.05点での優勝となった。ショートとフリーで計6本もの4回転に挑みながらも、あまり得点は伸びず、フリーのキス&クライでは羽生自身も渋い表情で得点を見つめた。

 今回の得点を見ていくと、実は今季の採点規則変更に絡んだ減点が多い。そこで今季のルールを解説しながら、改めて羽生選手の得点を解説していきたい。

重大なエラーが2つあると……。

 まず今季の運用規則変更の1つとして、「重大なエラーがあった場合の演技構成点の上限」が決められた。昨季のルール改正でも上限が決められたが、しっかりと運用されなかったため、さらに厳しい減点になったのだ。

 重大なエラーとは「プログラムが中断され、構成や音楽との関係、連続性、流れるような美しさに影響を与えるもの」を指す。転倒は確実に含まれ、ステップアウトは演技の動きを途切れさせるようなものであれば、重大なエラーになる。

 またトップスケーターからは大幅に得点が引きにくいというジャッジ心理も踏まえて、こう注意書きが加わった。

「稚拙なスケーターから卓越したスケーターまで、あらゆるスケーターに適用」

 つまりどんなに実力のある選手でも、ミスがあると演技構成点が抑えられてしまうことになったのだ。

 そして今回、羽生選手はフリーの冒頭で、2つのステップアウトがあった。それぞれステップアウトで流れが途切れた。すぐに曲に追い付こうとして、いつもと違うステップが入り、わずかに音楽とのズレも生じた。

 そのため多くのジャッジが「2つの重大なエラーの場合」を適用。この場合は、「『スケート技術』『つなぎ』『構成』は9.25点まで。『演技力』『音楽解釈』は8.75点まで」となる。

「形としては整っていたと思います」

 今回の演技について羽生選手はこう振り返る。

「(前半ミスがあったので)後半は冷静に、詰まったトリプルアクセルはダブルにして、次のトリプルアクセルで3回転をつけてリカバリーすることも出来て、後半はプログラムとして形としては整っていたと思います」

 羽生が言うとおり、冒頭2つミスはあったものの、そのあとは立て直してまとめた演技だった。2季前までなら、後半の演技をまとめたことを評価して、高い演技構成点も出せた。しかし新たなルールにより、いかに羽生が後半に良い演技をしても、9.25点と8.75点以下にしなければならない。

 ジャッジスコアを見てみると、「演技」は6人のジャッジが8.75点をマーク。「音楽解釈」も5人が8.75点とした。このジャッジ心理を裏から読めば、「本当はもっと高い評価を出したいところだが、重大なエラーが2つあったため、最高点の8.75点にした」ということだ。

羽生の目には、もうゴールは見えている。

 今回のルールが作られた根本にあるのは「演技が途切れるようなミスがあった場合、プログラムの芸術性が失われるのだから、技術の得点だけでなく演技の得点も減点されるべき」という国際スケート連盟の考え方だ。つまりミスがあった場合、技術も表現も二重に減点されるというルール。大技に挑む選手にとって厳しいが、それだけ成功した時は一気に得点が伸びる。フィギュアスケートの求める究極の演技は、一点の曇りもないパーフェクトなプログラムだということが、明確にルール化されたのだ。

 羽生自身もこう振り返った。

「『SEIMEI』と『バラード第1番』や『Hope & Legacy』でノーミスした時の感覚は、今でもずっと残ってる。あの完ぺきだった自分をさらに超えたいという欲があって、それが出来たときにカッコ良かったな、アスリートとして良かったなと思える。それ以外の自分は全部カッコ悪いですよ」

 完ぺきだった自分をさらに超える演技。羽生の目には、もうゴールは見えているのだ。1つ1つの演技の得点に左右される必要がないことを、彼自身が一番分かっている。

回転不足の判定は厳しくなった。

 次に、ここ2年で厳しくなったのが回転不足の判定だ。昨季から、「ぴったり4分の1回転不足」のグレーゾーンは、アウトになった。平昌五輪シーズンまではセーフだった。判定が厳しくなったぶん、今季から回転不足による基礎点減点は、すこし緩めて75%から80%になった。

 羽生は今回、フリー中盤に4回転トウループを2本降りた。2本とも流れはあったが、回転不足の判定に。羽生自身はクリーンに降りたと感じていたため、記者から質問されて、驚いていた。

「ええ? トウループ2つとも、あれで回転不足? それで点数出ないのか。僕としては、普通に降りたなと思っていました。自分の感覚に疑問はないので深く考えません」

 しかし一方で、「4回転ループと4回転サルコウはかなり耐えたので、その分の疲れがあって、後半はスピードがなかったと思います」と本人も感じていた。そのため4回転トウループはいつもより助走のスピードがなく、結果的に飛距離がなかった。そこが回転不足に繋がった原因の1つだが、少なくともショートでは最高に美しい4回転トウループを跳んでおり、次戦では簡単に修正できるミスだろう。

ツイズルからのトリプルアクセル。

 また今回の得点で、4回転アクセルの成功に向けた兆しを感じられるものがあった。それはショートでのトリプルアクセルだ。

 今回、羽生は「ツイズルの助走からのトリプルアクセル」に1年ぶりに挑んだ。「右足でツイズルという回転技をしたあと、いったん回転を止めて、左脚で踏み込んで跳ぶ」という動きは、ほかの跳び方に比べて遥かに難しい。

 羽生はここ数年、「カウンター」というターンや、「イーグル」という両足を広げて滑る技から、トリプルアクセルを跳んでいた。これらは「難しい跳び方」として浸透しているため、多くのジャッジから最高の「+5」評価をもらえる可能性が高い。昨季はさらに難しい「ツイズルからのトリプルアクセル」に挑んだが、なぜか加点が「+1〜4」と厳しかった。

4回転アクセルを成功させるために。

「GEOが伸びないなと思って止めちゃってました。でも実際にはツイズルからの入り方は、ひと味違って、曲には一番合ってるので、やりたかった」

 すると今季は、4回転アクセルの練習に本格的に挑むため、「カウンター」や「イーグル」から踏み切るのではなく、シンプルな助走でアクセルを跳ぶ練習を繰り返した。4回転アクセルを成功させるためには、難しい跳び方をすることよりも、「質の良いトリプルアクセル」が重要。結果的にそれが好影響し、ツイズルのあとトリプルアクセルを跳ぶと、飛距離や高さが伸び、ジャッジ4人が「+5」を出した。

「4回転アクセルの練習をするのに普通の入り方からやっていて、それがツイズルからのトリプルアクセルにプラスに働きました。トリプルアクセルに余裕が出てきているかな」と手応えを感じていた。

 今、彼の目に映るものは、大技4回転アクセルのみ。今はその過渡期だ。今回のオータムクラシックは、夢にむかって全力で集中している羽生の姿勢を改めて認識する試合だった。

文=野口美惠

photograph by Kiyoshi Mio/Icon Sportswire via Getty Images